気候変動にたいするネアンデルタール人と現生人類の食性の違い
これは4月30日分の記事として掲載しておきます。気候変動にたいするネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と現生人類(Homo sapiens)との食性の違いを分析した研究(El Zaatari et al., 2016)が報道されました。この研究は、人間の臼歯の微小摩耗構造を分析し、その食性を推測するとともに、環境変動にともない食性がどのように変化したのか、あるいは変わらないのか、ということを検証しています。
分析対象となったのは、中期~後期更新世の37ヶ所の遺跡の52個の臼歯です。この37ヶ所の遺跡はおもにヨーロッパのものですが、レヴァントのものもあります。本論文では大きく、MIS6以前の早期ネアンデルタール人、MIS6~3の後期ネアンデルタール人、MIS3~2の現生人類に区分しています。早期ネアンデルタール人には、さまざまな部位の豊富な人骨が一括して発見されている中期更新世の遺跡として有名な、スペイン北部の通称「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(以下、SHと省略)で発見された人骨群も含まれています。
この分析の結果明らかになったのは、ネアンデルタール人が環境変動に対応して食性を変えていったのにたいして、現生人類の方は、当初は環境が変動していったにも関わらず、食性をあまり変えなかった、ということです。ネアンデルタール人は、草原が優越した環境ではおもに肉を食べていましたが、森林が優越するような環境になると、肉に加えて硬実種子や堅果のような植物を大量に食べるようになりました。
一方現生人類は、オーリナシアン(Aurignacian)期とグラヴェティアン(Gravettian)期とで、臼歯の微小摩耗構造に類似性が見られることから、食性が維持されたのではないか、と指摘されています。現生人類の方は、草原が優越する環境においても植物性資源への高い依存度を維持しており、食性維持への拘りがあったのではないか、というわけです。この研究では、それは技術革新による道具の発達と関連しているのではないか、と推測されています。ただ、マグダレニアン(Magdalenian)期になると、植物資源への依存度のさらなる高まりなど、現生人類の食戦略がさらに変わったことも指摘されています。これは、さらなる技術革新によるもので、大型獣狩猟の衰退とも関連している、と推測されています。
じゅうらい、ネアンデルタール人は現生人類と比較して柔軟性に欠けており、それが絶滅の一因だったのではないか、とも指摘されていました。しかしこの研究は、ネアンデルタール人の食戦略が柔軟なものであり、一方で現生人類には高度な技術による食性維持への拘りが見られた、との見解を提示しています。そこからこの研究は、両者がレヴァントやヨーロッパで遭遇した時に、この食戦略の違いがすでに確立していたとしたら、それはネアンデルタール人にたいして現生人類に優位をもたらし、ネアンデルタール人絶滅の一因になったのではないか、と指摘しています。安易な方法による生存戦略を採用したネアンデルタール人よりも、技術革新による生存戦略を採用した現生人類の方が、気候変動の激しい時期には適応度が高かった、ということでしょうか。なかなか興味深い研究だと思います。
参考文献:
El Zaatari S, Grine FE, Ungar PS, Hublin J-J (2016) Neandertal versus Modern Human Dietary Responses to Climatic Fluctuations. PLoS ONE 11(4): e0153277.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0153277
分析対象となったのは、中期~後期更新世の37ヶ所の遺跡の52個の臼歯です。この37ヶ所の遺跡はおもにヨーロッパのものですが、レヴァントのものもあります。本論文では大きく、MIS6以前の早期ネアンデルタール人、MIS6~3の後期ネアンデルタール人、MIS3~2の現生人類に区分しています。早期ネアンデルタール人には、さまざまな部位の豊富な人骨が一括して発見されている中期更新世の遺跡として有名な、スペイン北部の通称「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(以下、SHと省略)で発見された人骨群も含まれています。
この分析の結果明らかになったのは、ネアンデルタール人が環境変動に対応して食性を変えていったのにたいして、現生人類の方は、当初は環境が変動していったにも関わらず、食性をあまり変えなかった、ということです。ネアンデルタール人は、草原が優越した環境ではおもに肉を食べていましたが、森林が優越するような環境になると、肉に加えて硬実種子や堅果のような植物を大量に食べるようになりました。
一方現生人類は、オーリナシアン(Aurignacian)期とグラヴェティアン(Gravettian)期とで、臼歯の微小摩耗構造に類似性が見られることから、食性が維持されたのではないか、と指摘されています。現生人類の方は、草原が優越する環境においても植物性資源への高い依存度を維持しており、食性維持への拘りがあったのではないか、というわけです。この研究では、それは技術革新による道具の発達と関連しているのではないか、と推測されています。ただ、マグダレニアン(Magdalenian)期になると、植物資源への依存度のさらなる高まりなど、現生人類の食戦略がさらに変わったことも指摘されています。これは、さらなる技術革新によるもので、大型獣狩猟の衰退とも関連している、と推測されています。
じゅうらい、ネアンデルタール人は現生人類と比較して柔軟性に欠けており、それが絶滅の一因だったのではないか、とも指摘されていました。しかしこの研究は、ネアンデルタール人の食戦略が柔軟なものであり、一方で現生人類には高度な技術による食性維持への拘りが見られた、との見解を提示しています。そこからこの研究は、両者がレヴァントやヨーロッパで遭遇した時に、この食戦略の違いがすでに確立していたとしたら、それはネアンデルタール人にたいして現生人類に優位をもたらし、ネアンデルタール人絶滅の一因になったのではないか、と指摘しています。安易な方法による生存戦略を採用したネアンデルタール人よりも、技術革新による生存戦略を採用した現生人類の方が、気候変動の激しい時期には適応度が高かった、ということでしょうか。なかなか興味深い研究だと思います。
参考文献:
El Zaatari S, Grine FE, Ungar PS, Hublin J-J (2016) Neandertal versus Modern Human Dietary Responses to Climatic Fluctuations. PLoS ONE 11(4): e0153277.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0153277
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