ネアンデルタール人の食性と形態の関係

 ネアンデルタール人の食性と形態の関係についての研究(Ben-Dor et al., 2016)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)は多くの点で現生人類(Homo sapiens)と類似した解剖学的特徴を有していますが、相違点も指摘されています。古くから、ネアンデルタール人の釣鐘型の胸郭や広い骨盤は、現生人類との違いとして注目されていました。しかし、その進化的要因についてはよく分かっていませんでした。この研究は、ネアンデルタール人の食性に注目することで、ネアンデルタール人と現生人類との形態的な相違を説明しています。

 ネアンデルタール人はヨーロッパで進化したと考えられています。アフリカで進化しただろう現生人類の場合よりも、寒冷な環境で進化しただろう、というわけです。この研究は、これがネアンデルタール人の食性に大きな影響を及ぼした可能性を指摘しています。寒冷な環境では、冬季には炭水化物の摂取が困難になり、摂取カロリー量に占める動物性脂肪の割合が高くなると予測されます。しかし、ネアンデルタール人にとって獲物となっただろう大型動物の脂肪は、冬季には減少します。

 そのため、ネアンデルタール人にとっては、タンパク質をエネルギーに変換する能力の向上が適応的だったのではないか、とこの研究は推測します。しかし、タンパク質をエネルギーに変換する能力は、人間では関連する臓器の大きさ・処理能力により限界があります。摂取カロリーをタンパク質に転換する能力の向上には、タンパク質をエネルギーに代謝する器官である肝臓の拡大が必要となります。次に、大量の有毒性尿素の排出のために、膀胱および腎臓の拡大が必要となります。

 高タンパク質の食性へと移行していくと、肝臓・腎臓・膀胱の拡大が適応的となるので、それらの器官が収納されやくなるよう、胸郭が釣鐘型になって大きくなり、骨盤が広くなるような選択圧が作用したのではないか、というわけです。この研究は、このようにネアンデルタール人の胸郭と骨盤の形態を説明しています。ネアンデルタール人と現生人類との形態の違いに、食性の違いが重要な役割を果たしたことは確かでしょう。今後、ネアンデルタール人と現生人類に限らず、人類の進化と食性との関係についての研究の進展が注目されます。


参考文献:
Ben-Dor M, Gopher A, and Barkai R.(2016): Neandertals' large lower thorax may represent adaptation to high protein diet. American Journal of Physical Anthropology, 160, 3, 367–378.
http://dx.doi.org/10.1002/ajpa.22981

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