本多博之『天下統一とシルバーラッシュ 銀と戦国の流通革命』

 これは3月101日分の記事として掲載しておきます。歴史文化ライブラリーの一冊として、吉川弘文館より2015年7月に刊行されました。本書は銀の動向を軸に、戦国時代から豊臣・徳川統一政権までの政治・経済構造の変容を検証しています。表題から容易に推測できる人も多いでしょうが、本書は日本列島に限定せず、広く東アジアや東南アジア、さらにはそれらの海域に進出してきたヨーロッパ勢力も取り上げています。現代日本社会では珍しくない視点でしょうが、少なからぬ非専門家層にとっては必ずしも自明のこととは言えないでしょうから、本書の意義は小さくないと思います。

 戦国時代に日本列島で銀が増産されていったことはよく知られているでしょうが、その中でも石見銀山は、世界遺産に登録されたこともあり、とくに有名でしょう。本書は、この石見銀山での増産(シルバーラッシュ)が、日本列島のみならず東アジア世界に大きな影響を及ぼした、と指摘しています。そもそも、石見銀山での増産を可能としたのは、日本と朝鮮との密貿易的な取引を含む交易を通じての、朝鮮経由での明からの新技術(灰吹法)の導入であり、その意味でも、戦国時代の日本列島におけるシルバーラッシュは、より広く東アジアにまで範囲を広げて考えねばならないのでしょう。この日本列島のシルバーラッシュでは、当初日本列島から銀が流出する一方でしたが、16世紀半ば以降には、日本列島でも銀が流通し始めます。

 本書の見解で注目されるのは、石高制成立の背景についてです。日本列島を越えてより広く東アジアの観点からの考察では、明からの銭の供給途絶と日本列島における精銭の希少化を、石高制成立の背景として指摘する見解も提示されています。しかし本書は、精銭の希少化が石高制に直結するのではなく、異なる多様な価値の銭が流通する環境では、貫高は普遍的な価値尺度になりにくいことが、広域公権力が貫高ではなく石高を採用した理由ではないか、と指摘しています。

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