食餌が腸内微生物相に及ぼす影響

 食餌が腸内微生物相に及ぼす影響についての研究(Sonnenburg et al., 2016)が公表されました。人類史上、食餌は大きく変化しており、たとえば西洋型の生活様式の集団における食物繊維摂取の減少は、腸内微生物相の多様性の一般的な減少と並行している、と指摘されています。食物繊維に豊富に含まれるMAC(microbiota-accessible carbohydrate)は遠位腸内微生物相にとって炭素やエネルギーの主要な供給源であり、この研究は、低MAC食を摂取させたマウスにおいては腸内微生物相の多様性が減少し、その影響は数世代にわたって伝えられ、悪化していくことを明らかにしました。

 存在量が少ないタクソンは、次の世代へと移行するにつれますます減少していき、とくに食物繊維を利用する能力の高いバクテロイデス目のタクソンでは顕著でした。この表現型はたんに食餌中にMACを再導入するだけでは回復せず、回復のためには、微生物相の糞便移植により、消失した複数のタクソンを補充する必要があることも明らかにされました。こうしたことから、ディスバイオーシス(腸内微生物相のバランス異常)が見られる人では、食餌の変更だけで健康な微生物相を回復させることはできない可能性が示唆されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


微生物生態学:数世代の間に腸内微生物相全体で起こる、食餌に誘発される構成菌群の消滅

微生物生態学:腸内微生物相に与える食餌の影響

 我々の食餌は、人類の歴史を通じて大きく変化してきた。例えば、西洋型の生活様式の集団における繊維摂取の減少などは、腸内微生物相の多様性の一般的な減少と並行している。食物繊維に豊富に含まれるMAC(microbiota-accessible carbohydrate)は遠位腸内微生物相にとって炭素やエネルギーの主要な供給源である。今回、低MAC食を摂取させたマウスでは、腸内微生物相の多様性が減少すること、そしてこの影響は数世代にわたって伝えられ、増悪していくことが分かった。つまり存在量が少ないタクソンは、次の世代へと移行するにつれますます減少していく。特に、食物繊維を利用する能力の高いバクテロイデス目のタクソンではこれが顕著であった。この表現型は単に食餌中にMACを再導入するだけでは回復せず、回復には微生物相の糞便移植によって、消失した複数のタクソンを補充する必要がある。これらの知見から、ディスバイオーシス(腸内微生物相のバランス異常)が見られる人では、食餌の変更だけで健康な微生物相を回復させることはできない可能性が示唆される。



参考文献:
Sonnenburg ED. et al.(2016): Diet-induced extinctions in the gut microbiota compound over generations. Nature, 529, 7585, 212–215.
http://dx.doi.org/10.1038/nature16504

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