大型類人猿のY染色体とミトコンドリアの分析

 これは2月27日分の記事として掲載しておきます。大型類人猿のY染色体とミトコンドリアを分析した研究(Hallast et al., 2016)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。この研究は、チンパンジー・ボノボ・ゴリラ・オランウータンのY染色体を分析していますが、対象となったのはY染色体の男性特有の領域で、その遺伝的相違とそれに基づく推定分岐年代がミトコンドリアと比較されています。父系のみで継承されるY染色体の男性特有の領域と、母系のみで継承されるミトコンドリアのDNAの比較により、拡散および配偶パターンの違いが見えてくるのではないか、というわけです。現代人のデータも比較の対象として取り上げられています。

 Y染色体の男性特有の領域とミトコンドリアにおける遺伝的相違は、ともに一般的な種・亜種区分と一致します。しかし、その分岐年代は種・亜種間で大きく異なり、それは、拡散および配偶パターンの違いを反映しているのではないか、と推測されています。現生集団における直近の(最終)共通祖先の推定年代に関して、たとえばゴリラでは、ミトコンドリア(母系)で1614000(1803000~1428000)年前頃なのにたいして、Y染色体の男性特有の領域(父系)では102000(117000~89400)年前頃となります。こうした父系の「浅さ」と母系の「深さ」の大きな違いは、ゴリラが一夫多妻の「ハーレム的」社会を形成していることを反映しているのではないか、と推測されています。

 一方、チンパンジーでは、母系で920000(1034000~811000)年前頃、父系で1148000(1299000~1011000)年前頃という推定年代が得られています。チンパンジーにおける父系での最終共通祖先の推定年代の古さは、おもに雌が集団から移動する、複雄複雌の「乱婚的」社会をチンパンジーが形成していることを反映しているのではないか、と推測されています。また、チンパンジーにおいては、Y染色体の男性特有の領域・ミトコンドリアともに、地域集団間で最終共通祖先の推定年代が大きく異なることも特徴となっています。

 現代人との比較では、人類の社会構造は配偶形態においてチンパンジーよりもゴリラの方に近かったのではないか、と推測されています。人類はその進化史において配偶形態では、「乱婚」社会は経験せず、「ハーレム」社会は経験したことがあるかもしれない、というわけです。現代の人類社会の配偶形態は多様ですが、基本的には一夫一婦制が主流だと言えるでしょう。過去にさかのぼってどうかというと、直接的証拠を得るのはかなり困難なので、チンパンジーなど現生の近縁種の事例や、現代人の大規模なDNA解析が有力な手掛かりとなりそうです。


参考文献:
Hallast P. et al.(2016): Great-ape Y Chromosome and mitochondrial DNA phylogenies reflect subspecies structure and patterns of mating and dispersal. Genome Research, 26, 4, 427–439.
http://dx.doi.org/10.1101/gr.198754.115

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