セディバの食べ物を噛む能力

 これは2月14日分の記事として掲載しておきます。ホモ属的特徴を有するとされるアウストラロピテクス属のセディバ(Australopithecus sediba)の食べ物を噛む能力に関する研究(Ledogar et al., 2016)が報道されました。アウストラロピテクス属は、堅い食べ物を噛むことに適した歯や顎の構造を有しています。一方、現代人はそうした構造を有しておらず、食べ物を噛む能力は弱くなっています。現代人も含めてホモ属はアウストラロピテクス属のいずれかの系統から進化したと考えられており、セディバもその候補です。このような噛む能力の変化は、アウストラロピテクス属からホモ属への進化史のどこかで起きた、と考えられています。

 この研究は、歯や顎などの解剖学的構造から、セディバと他の近縁種との食べ物を噛む能力を比較しています。セディバの比較対象となったのは、同じくアウストラロピテクス属のアフリカヌス(Australopithecus africanus)と、現生種では現代人と最も近縁な種であるチンパンジーです。この比較の結果、セディバは明らかにアフリカヌスよりも噛む能力が低いと明らかになりました。この点では、セディバはこれまでに明らかになったアウストラロピテクス属の中では例外的存在だと言えそうです。

 現代人の食べ物を噛む能力はアウストラロピテクス属と比較して低く、それは初期ホモ属も同様だっただろう、と本論文の筆頭著者のレドガー(Justin A. Ledogar)博士は考えています。いわゆる頑丈型猿人など、後期アウストラロピテクス属のいくつかの系統が噛む能力を強化していったのにたいして、セディバも含むアウストラロピテクス属の系統のなかには噛む能力を弱めていく方向に進化したものもあり、その中からホモ属が進化したのではないか、というのがレドガー博士の見解です。ホモ属の進化の鍵となるのは、食性の変化とその背景にある環境変化だろう、というわけです。

 一方、安定同位体分析・歯の微小な摩耗パターンの分析・歯石から抽出した植物微化石を用いた以前の研究では、少なくともセディバの2個体に関しては、死の直前に堅いものを食べていたことは間違いない、との結果が得られています(関連記事)。本論文の著者の一人であるストレイト(David S. Strait)博士は、セディバは堅いものを食べられたかもしれないとしても、堅い食べ物に適応していたことはありそうになく、セディバの生存に重要な食料は、高い噛む能力を必要とせず比較的容易に食べられるものだったのではないか、と指摘しています。セディバの採食行動は比較的柔軟だった、ということなのでしょう。


参考文献:
Ledogar JA. et al.(2016): Mechanical evidence that Australopithecus sediba was limited in its ability to eat hard foods. Nature Communications, 7, 10596.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms10596

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