アメリカ大陸における大型動物の絶滅要因

 これは1月28日分の記事として掲載しておきます。アメリカ大陸における大型動物の絶滅要因についての研究(Surovell et al., 2016)が公表されました。更新世末期~完新世初期にかけて、アメリカ大陸では多くの大型動物が絶滅しました。アメリカ大陸のように、現生人類(Homo sapiens)が更新世後期~完新世にかけて人類として初めて移住した地域では、他にもオーストラリア大陸やオセアニアのように、多くの大型動物の絶滅が見られます。こうした大型動物の絶滅を人為的要因と考える見解は以前から提示されていますが、アメリカ大陸に関しては、更新世末期~完新世初期にかけての大型動物の絶滅は気候変動が要因だとする見解も提示されており、本論文は改めて人為的要因説を検証しています。

 本論文は、東ベーリンジア(ベーリング陸橋)・東ベーリンジアと隣接するアメリカ合衆国(北アメリカ大陸)・南アメリカ大陸の3地域に区分し、各地域から放射性炭素年代測定法による較正年代データを集め、比較しています。アメリカ大陸における大型動物の絶滅要因が人為的なものだとすると、アメリカ大陸への人類の移住過程と、地域間での大型動物の絶滅過程とが一致することになります。つまり、人類が出現してから大型動物の衰退が始まり、地域間の比較では、人類が先に移住した地域でまず大型動物の衰退が始まって、その後に人類が移住した地域では、大型動物の衰退も最初の移住地域よりも遅れることになります。

 本論文の分析結果は、まさにその予測を裏づけることになりました。現在の有力説では、人類はユーラシア北東部からベーリンジアを経由してアメリカ大陸へと進出した、とされています。本論文の分析結果は、まず東ベーリンジアで大型動物の衰退が始まったことを示しています。その年代は、14661年前(95%の信頼性で19958~13613年前)です。大型動物の衰退は、北アメリカ大陸では13001年前(95%の信頼性で13232~12861年前)、南アメリカ大陸では12967年前(95%の信頼性で13921~12595年前)に始まった、と推定されます。南北アメリカ大陸で人類の痕跡が広範かつ大量に発見され始める時期に、大型動物の衰退も始まった、というわけです。北アメリカ大陸で大型動物の衰退が始まる前に、東ベーリンジアでは多くの大型動物が絶滅してしまった可能性もある、と本論文では指摘されています。

 北アメリカ大陸と南アメリカ大陸では大型動物の衰退の始まった年代が近いことになります。ただ、南アメリカ大陸では北アメリカ大陸と比較して完新世の大型動物の痕跡が豊富なので、南アメリカ大陸では人類の到着とともに大型動物の衰退も始まったものの、その過程は東ベーリンジアや北アメリカ大陸よりも緩やかだった可能性が指摘されています。本論文は、このような分析結果から、アメリカ大陸における多くの大型動物の絶滅を人為的要因だとする見解を改めて支持しています。

 ただ、南アメリカ大陸でも北アメリカ大陸でも、大型動物の衰退が始まるずっと前の人類の痕跡が、少ないながらも複数報告されています。北アメリカ大陸では、クローヴィス(Clovis)文化が最初の人類の痕跡だ、とする見解(クローヴィス最古説)が長い間有力でしたが、近年ではクローヴィス文化よりも前の人類の痕跡の報告事例が蓄積されつつあります。しかし本論文の分析では、北アメリカ大陸における大型動物の衰退の始まりはクローヴィス文化の開始と重なります。

 先クローヴィス文化期の集団も、更新世末期~完新世初期にかけて絶滅した大型動物を狩猟対象としていたため、それにも関わらず考古学的に検出できるほどの影響を大型動物相に及ぼさなかった、という可能性を本論文は指摘しています。さらに本論文は、先クローヴィス文化期の遺跡はクローヴィス文化期以降の遺跡と比較して少なく、時空間的に孤立しており、継続的な移住とはならなかった偶発的な拡散にすぎなかった、という可能性を示唆しています。北アメリカ大陸における先クローヴィス文化期の集団は散発的に出現して小規模であり、大型動物相に影響を及ぼすことはなかった、というわけです。

 ただ本論文は、さらにより広範な地域からより多くのデータを集めて同じ結論が得られるのか、まだ決定的ではない、と慎重な姿勢を示しています。アメリカ大陸における更新世末期~完新世初期にかけて多くの大型動物の絶滅に関する研究と議論は、アメリカ大陸先住民の評価にも関わってくる政治的問題にもなっており、さまざまな方向から圧力があるのかもしれません。そうした難しさもあるのでしょうが、人類と環境の問題を考えるうえで重要な手がかりとなるかもしれないので、今後も研究動向が注目されます。


参考文献:
Surovell TA. et al.(2016): Test of Martin’s overkill hypothesis using radiocarbon dates on extinct megafauna. PNAS, 113, 4, 886–891.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1504020112

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