ブリテン島の移住史
これは1月23日分の記事として掲載しておきます。ブリテン島における人間集団の移住に関する二つの研究が公表されました。ナショナルジオグラフィックで報道された一方の研究(Martiniano et al., 2016)は、イギリス北部の9人の遺体のDNAを解析しました。このうち7人はヨークにあるローマ帝国時代の墓地に埋葬されており、残りの2人のうち1人の年代はアングロサクソン時代で、もう1人の年代はローマ帝国時代よりも前の鉄器時代です。これら9人のDNA解析の結果、ローマ帝国時代の7人のゲノムは全体的に現代のケルト系イギリス人や鉄器時代の人々のゲノムと類似していたものの、アングロサクソン時代の人のゲノムとは大きく異なっていることが明らかになりました。
また、ローマ帝国時代の7人中6人は、現在のウェールズの住民と類似していることが明らかになりました。残りの1人には中東および北アフリカの現代人と高度な遺伝的類似性が見られたことから、ローマ帝国内で人々が非常に遠くの地域から移動していたことが示唆されています。さらに、歯に残った化学的痕跡の分析でも、中東か北アフリカ出身と考えられる1人は他の6人と異なっており、暑く乾燥した地域からブリテン島へと移住してきた、と考えられています。生物学的にも、ローマ帝国の流動性が改めて確認された、と言えるでしょう。
もう一方の研究(Schiffels et al., 2016)は、イングランド東部のケンブリッジ近くにある墓地に埋葬されていた鉄器時代とアングロサクソン時代の10人のゲノムを解析し、現代ヨーロッパ人のゲノムと比較しました。その結果、イングランド東部の現代人の祖先の約30%がアングロサクソン人の移動に由来しており、その割合がウェールズ人とスコットランド人より高いことが明らかになりました。また、アングロサクソン時代の人々のゲノム試料は、鉄器時代の人々のゲノム試料よりも現代のオランダ人およびデンマーク人と遺伝的類似点が多いことも明らかになりました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
【遺伝】ブリテン諸島での人間の移動史の解明に古代DNAが一役
英国で採取された古代のヒトDNAについて新たな解析が行われ、(紀元5世紀頃の)アングロ・サクソン人の侵入前後のヨーロッパ大陸からグレートブリテン島への人間の移動による影響の解明に役立っている。この解析結果は、このたび掲載される2編の論文に示されている。
これまでに行われた現代人のゲノムを用いた遺伝学的研究では、ブリテン諸島への人間の移動とブリテン諸島からの人間の移動の歴史に関して一致した結論が得られていない。最近、古代の遺伝的情報を引き出すための技術が改良され、人間の歴史における大規模な移動に関する手掛かりがもたらされるようになっている。
今回、Daniel Bradleyたちは、英国北部に埋葬されていた9人の遺体から採取されたDNAの塩基配列解析を行った。そのうちの7人は、ヨークにある古代ローマ時代(紀元前後期/紀元後初期)の墓地に埋葬され、1人がそれより前の鉄器時代に埋葬され、1人がそれより後のアングロ・サクソン時代に埋葬されていた。その結果、古代ローマ時代に埋葬された人々のゲノム全体が現代のケルト系英国人のゲノムと鉄器時代の人々のゲノムと似ていたが、現代のヨークシャーの人々のゲノムやアングロ・サクソン人のゲノムと著しく異なっていることが判明した。また、Bradleyたちは、古代ローマ時代に埋葬された7人中6人が、ゲノム上のシグナルの点で、先住民のブリトン人であったことを明らかにした。残りの1人には、中東と北アフリカの現代人と高度な遺伝的類似性が見られ、ローマ帝国内で人々が非常に遠くの地域から移動していたことが示唆されている。
一方、Stephan Schiffelsたちは、イングランド東部のケンブリッジ近くにある墓地に埋葬されていた鉄器時代とアングロ・サクソン時代の10人のゲノムの塩基配列解析を行った。この研究では、現代人の遺伝的データを用いて、10人の古代人と現代の英国人とその他のヨーロッパ人との関係を解析した。その結果、イングランド東部の現代人の祖先の約30%がアングロ・サクソン人の移動に由来しており、その割合がウェールズ人とスコットランド人より高く、アングロ・サクソン時代の人々のゲノム試料は、鉄器時代の人々のゲノム試料よりも現代のオランダ人とデンマーク人と遺伝的類似点が多いことが判明した。
参考文献:
Martiniano R. et al.(2016): Genomic signals of migration and continuity in Britain before the Anglo-Saxons. Nature Communications, 7, 10326.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms10326
Schiffels S. et al.(2016): Iron Age and Anglo-Saxon genomes from East England reveal British migration history. Nature Communications, 7, 10408.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms10408
また、ローマ帝国時代の7人中6人は、現在のウェールズの住民と類似していることが明らかになりました。残りの1人には中東および北アフリカの現代人と高度な遺伝的類似性が見られたことから、ローマ帝国内で人々が非常に遠くの地域から移動していたことが示唆されています。さらに、歯に残った化学的痕跡の分析でも、中東か北アフリカ出身と考えられる1人は他の6人と異なっており、暑く乾燥した地域からブリテン島へと移住してきた、と考えられています。生物学的にも、ローマ帝国の流動性が改めて確認された、と言えるでしょう。
もう一方の研究(Schiffels et al., 2016)は、イングランド東部のケンブリッジ近くにある墓地に埋葬されていた鉄器時代とアングロサクソン時代の10人のゲノムを解析し、現代ヨーロッパ人のゲノムと比較しました。その結果、イングランド東部の現代人の祖先の約30%がアングロサクソン人の移動に由来しており、その割合がウェールズ人とスコットランド人より高いことが明らかになりました。また、アングロサクソン時代の人々のゲノム試料は、鉄器時代の人々のゲノム試料よりも現代のオランダ人およびデンマーク人と遺伝的類似点が多いことも明らかになりました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
【遺伝】ブリテン諸島での人間の移動史の解明に古代DNAが一役
英国で採取された古代のヒトDNAについて新たな解析が行われ、(紀元5世紀頃の)アングロ・サクソン人の侵入前後のヨーロッパ大陸からグレートブリテン島への人間の移動による影響の解明に役立っている。この解析結果は、このたび掲載される2編の論文に示されている。
これまでに行われた現代人のゲノムを用いた遺伝学的研究では、ブリテン諸島への人間の移動とブリテン諸島からの人間の移動の歴史に関して一致した結論が得られていない。最近、古代の遺伝的情報を引き出すための技術が改良され、人間の歴史における大規模な移動に関する手掛かりがもたらされるようになっている。
今回、Daniel Bradleyたちは、英国北部に埋葬されていた9人の遺体から採取されたDNAの塩基配列解析を行った。そのうちの7人は、ヨークにある古代ローマ時代(紀元前後期/紀元後初期)の墓地に埋葬され、1人がそれより前の鉄器時代に埋葬され、1人がそれより後のアングロ・サクソン時代に埋葬されていた。その結果、古代ローマ時代に埋葬された人々のゲノム全体が現代のケルト系英国人のゲノムと鉄器時代の人々のゲノムと似ていたが、現代のヨークシャーの人々のゲノムやアングロ・サクソン人のゲノムと著しく異なっていることが判明した。また、Bradleyたちは、古代ローマ時代に埋葬された7人中6人が、ゲノム上のシグナルの点で、先住民のブリトン人であったことを明らかにした。残りの1人には、中東と北アフリカの現代人と高度な遺伝的類似性が見られ、ローマ帝国内で人々が非常に遠くの地域から移動していたことが示唆されている。
一方、Stephan Schiffelsたちは、イングランド東部のケンブリッジ近くにある墓地に埋葬されていた鉄器時代とアングロ・サクソン時代の10人のゲノムの塩基配列解析を行った。この研究では、現代人の遺伝的データを用いて、10人の古代人と現代の英国人とその他のヨーロッパ人との関係を解析した。その結果、イングランド東部の現代人の祖先の約30%がアングロ・サクソン人の移動に由来しており、その割合がウェールズ人とスコットランド人より高く、アングロ・サクソン時代の人々のゲノム試料は、鉄器時代の人々のゲノム試料よりも現代のオランダ人とデンマーク人と遺伝的類似点が多いことが判明した。
参考文献:
Martiniano R. et al.(2016): Genomic signals of migration and continuity in Britain before the Anglo-Saxons. Nature Communications, 7, 10326.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms10326
Schiffels S. et al.(2016): Iron Age and Anglo-Saxon genomes from East England reveal British migration history. Nature Communications, 7, 10408.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms10408
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