スラウェシ島の10万年以上前の石器
これは1月15日分の記事として掲載しておきます。スラウェシ島で発見された10万年以上前の石器についての研究(van den Bergh et al., 2016)が報道されました(日本語版)。読売新聞でも報道されています。この研究は、スラウェシ島南西部の町であるマロス(Maros)北東のウァラナエ盆地(Walanae Basin)にあるタレプ(Talepu)遺跡で、2007年~2012年にかけての発掘で発見された石器群について報告しています。マロス近郊の洞窟群では4万年前頃までさかのぼる壁画が発見されており、この頃までには現生人類(Homo sapiens)がスラウェシ島に到達していた、と考えられています(関連記事)。
タレプ遺跡の近郊では、1970年代以降に古いと思われる石器が発見されていましたが、表面採集なのでその精確な年代は不明でした。しかし、そうした石器群が発見されていたので、スラウェシ島での更新世の石器発掘が計画されたそうです。このように、スラウェシ島には更新世の時点で人類が居住していたものの、現生人類ではない系統の人類が存在していたのかは、古そうな石器の年代が不明なため、明らかではありませんでした。しかし、スラウェシ島の近隣には、100万年以上前からホモ属が存在していたことが明らかになっています。
ジャワ島には遅くとも150万年以上前にエレクトス(Homo erectus)が存在しており(関連記事)、フローレス島では更新世末期の現生人類ではないと考えられるホモ属人骨群が発見されていて、フロレシエンシス(Homo floresiensis)と分類されています。フローレス島では100万年以上前の石器群が発見されており(関連記事)、人骨が共伴していないのでどの人類系統なのか不明ではあるものの、100万年以上前に人類が何らかの方法でフローレス島へと渡海したことはほぼ確実です。
このような状況のため、フロレシエンシスの発見・研究で有名なモーウッド(Michael J. Morwood)博士は、フローレス島の他の洞窟やフローレス島の近隣の島々にフロレシエンシスの痕跡を探す計画を立てて研究を進めており、スラウェシ島もその対象でした(関連記事)。モーウッド博士は、残念ながら2013年7月23日に62歳の若さで亡くなったのですが(関連記事)、本論文の著者の一人として記載されています。タレプ遺跡の石器群の製作者がどの系統の人類なのか、不明なのですが、フロレシエンシスと近縁である可能性もじゅうぶん考えられます。モーウッド博士の計画からこのような素晴らしい成果が得られたことは喜ばしいのですが、やはりモーウッド博士が若くして亡くなったことが本当に惜しまれます。
タレプ遺跡では、スイギュウやステゴドンといった大型動物の化石とともに、石核や剥片といった300個以上の石器が発見されました。発見された地層の年代から、この石器群は194000~118000年前頃のものと推定されました。しかし、石器群のうちのいくつかはもっと古いかもしれない、とも指摘されています。ただ、20万年以上前かもしれないとはいっても、78万年以上前にはさかのぼらない、とも指摘されています。現時点では、タレプ遺跡の石器群はフローレス島最古の石器群よりも新しい、ということになりそうです。
この研究は、タレプ遺跡の石器群の製作者は、現生人類ではない系統のホモ属の人類だろう、と推測しています。具体的にはエレクトス(Homo erectus)が想定されているのですが、フロレシエンシスの近縁である未知の人類系統により製作された可能性も指摘されています。フローレス島の更新世人類は、津波や暴風雨などのさいに流木につかまり、スラウェシ島から意図せず何度も漂着したのではないか、と推測されています(関連記事)。その意味で、タレプ遺跡の石器群の製作者は、95000~18000年前頃のフロレシエンシスの直接の祖先集団だった可能性も考えられます。
石器のサイズは、その製作者の体格を推定する根拠ともなりますが、フロレシエンシスの石器を研究しているブラム(Adam Brumm)博士は、小さな手の小柄な人類が通常より大きい石器を使っていたかもしれないし、その逆もあり得る、と指摘しています。現時点では、タレプ遺跡の石器群の石器群の製作者がどの人類系統なのか、特定するだけの決定的証拠はありませんが、現生人類ではないホモ属の系統と考えるのが最も妥当なところでしょう。
ただ、東南アジア島嶼部の石器群の変遷に関しては、更新世~完新世にかけての技術的連続性が指摘されています(関連記事)。それも、上述したフローレス島の100万年以上前の石器など現生人類が存在したとはとても考えられない時代から、まず間違いなく現生人類ではない人類はすでに絶滅していただろう完新世まで続いています。最近になって、華南における現生人類の存在が10万年前頃までさかのぼりそうだと指摘されたこと(関連記事)を考えると、タレプ遺跡の石器群の(一部の)製作者が初期現生人類である可能性も想定しておくべきではないか、とも思います。
参考文献:
van den Bergh GD. et al.(2016): Earliest hominin occupation of Sulawesi, Indonesia. Nature, 529, 7585, 208–211.
https://doi.org/10.1038/nature16448
タレプ遺跡の近郊では、1970年代以降に古いと思われる石器が発見されていましたが、表面採集なのでその精確な年代は不明でした。しかし、そうした石器群が発見されていたので、スラウェシ島での更新世の石器発掘が計画されたそうです。このように、スラウェシ島には更新世の時点で人類が居住していたものの、現生人類ではない系統の人類が存在していたのかは、古そうな石器の年代が不明なため、明らかではありませんでした。しかし、スラウェシ島の近隣には、100万年以上前からホモ属が存在していたことが明らかになっています。
ジャワ島には遅くとも150万年以上前にエレクトス(Homo erectus)が存在しており(関連記事)、フローレス島では更新世末期の現生人類ではないと考えられるホモ属人骨群が発見されていて、フロレシエンシス(Homo floresiensis)と分類されています。フローレス島では100万年以上前の石器群が発見されており(関連記事)、人骨が共伴していないのでどの人類系統なのか不明ではあるものの、100万年以上前に人類が何らかの方法でフローレス島へと渡海したことはほぼ確実です。
このような状況のため、フロレシエンシスの発見・研究で有名なモーウッド(Michael J. Morwood)博士は、フローレス島の他の洞窟やフローレス島の近隣の島々にフロレシエンシスの痕跡を探す計画を立てて研究を進めており、スラウェシ島もその対象でした(関連記事)。モーウッド博士は、残念ながら2013年7月23日に62歳の若さで亡くなったのですが(関連記事)、本論文の著者の一人として記載されています。タレプ遺跡の石器群の製作者がどの系統の人類なのか、不明なのですが、フロレシエンシスと近縁である可能性もじゅうぶん考えられます。モーウッド博士の計画からこのような素晴らしい成果が得られたことは喜ばしいのですが、やはりモーウッド博士が若くして亡くなったことが本当に惜しまれます。
タレプ遺跡では、スイギュウやステゴドンといった大型動物の化石とともに、石核や剥片といった300個以上の石器が発見されました。発見された地層の年代から、この石器群は194000~118000年前頃のものと推定されました。しかし、石器群のうちのいくつかはもっと古いかもしれない、とも指摘されています。ただ、20万年以上前かもしれないとはいっても、78万年以上前にはさかのぼらない、とも指摘されています。現時点では、タレプ遺跡の石器群はフローレス島最古の石器群よりも新しい、ということになりそうです。
この研究は、タレプ遺跡の石器群の製作者は、現生人類ではない系統のホモ属の人類だろう、と推測しています。具体的にはエレクトス(Homo erectus)が想定されているのですが、フロレシエンシスの近縁である未知の人類系統により製作された可能性も指摘されています。フローレス島の更新世人類は、津波や暴風雨などのさいに流木につかまり、スラウェシ島から意図せず何度も漂着したのではないか、と推測されています(関連記事)。その意味で、タレプ遺跡の石器群の製作者は、95000~18000年前頃のフロレシエンシスの直接の祖先集団だった可能性も考えられます。
石器のサイズは、その製作者の体格を推定する根拠ともなりますが、フロレシエンシスの石器を研究しているブラム(Adam Brumm)博士は、小さな手の小柄な人類が通常より大きい石器を使っていたかもしれないし、その逆もあり得る、と指摘しています。現時点では、タレプ遺跡の石器群の石器群の製作者がどの人類系統なのか、特定するだけの決定的証拠はありませんが、現生人類ではないホモ属の系統と考えるのが最も妥当なところでしょう。
ただ、東南アジア島嶼部の石器群の変遷に関しては、更新世~完新世にかけての技術的連続性が指摘されています(関連記事)。それも、上述したフローレス島の100万年以上前の石器など現生人類が存在したとはとても考えられない時代から、まず間違いなく現生人類ではない人類はすでに絶滅していただろう完新世まで続いています。最近になって、華南における現生人類の存在が10万年前頃までさかのぼりそうだと指摘されたこと(関連記事)を考えると、タレプ遺跡の石器群の(一部の)製作者が初期現生人類である可能性も想定しておくべきではないか、とも思います。
参考文献:
van den Bergh GD. et al.(2016): Earliest hominin occupation of Sulawesi, Indonesia. Nature, 529, 7585, 208–211.
https://doi.org/10.1038/nature16448
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