中村修也『天智朝と東アジア』
NHKブックスの一冊として、NHK出版より2015年10月に刊行されました。本書は天智朝の日本(ヤマト、倭)を東アジアの中に位置づけています。じゅうらい、白村江の戦いで日本が唐に惨敗した後、日本は唐と新羅の侵攻に備えて朝鮮式山城を築くなど防衛体制を構築していき、飛鳥から近江の大津への遷都にもそうした背景がある、と理解されてきました。白村江の戦いでの惨敗後も、日本は主体的に唐や新羅と対峙していた、というわけです。
しかし本書は、大国と戦って敗れれば占領支配を受けることが「戦争の法則」なのだから、日本が「独立」したまま主体的に政権を運営し、唐や新羅との外交を進めていき、「先進文明」を受け入れていった、ということはあり得ない、と主張します。これまでの通説は、『日本書紀』編纂者、さらには編纂時の支配層の主張を受け入れてしまったことにより形成されたのであり、白村江の戦い後の日本は唐の羈縻支配を受けていた、というのが本書の見解です。
本書はその根拠として、唐・新羅の侵攻に備えて築かれたと考えられている朝鮮式の山城が、沿岸部ではなく内陸部にあることなどを挙げています。沿岸部ではなく内陸部に山城を築いても唐・新羅の侵攻にはあまり役立たないのだから、これらは日本側が主体的に築いたのではなく、唐が日本統治のために築いたのだ、というわけです。朝鮮半島からの大陸勢力の侵攻に備えるならば、モンゴル襲来時の防塁のようなものの方が適しているだろう、との指摘です。
正直なところ、本書の云う「戦争の法則」なるものがどこまで一般化されるのか、はなはだ疑問であり、そもそも本書の大前提が成立するのか、たいへん危ういと思います。その意味で、当時築かれた内陸部の朝鮮式山城についても、本書とは異なる解釈も可能でしょう。たとえば、天智政権が「外敵」の脅威を煽って支配体制の強化を進めていった、との見解です。
こうしたことを考えると、はたして本書の見解に納得する読者がどれだけいるでしょうか。また本書は、唐は日本も羈縻支配の対象としていた、との前提で議論を進めていますが、隋にも唐にも冊封されていなかった日本が唐の羈縻支配の対象だったのかというと、はなはだ疑問です。唐に関する史料にも、唐が一時的にせよ日本で羈縻政策を実施していた、と伝えるものはおそらくなく、本書の見解は説得力に欠けると思います。
あとがきにて、「本書では、歴史学ではタブーとされている想像力をふんだんに使っている」と述べられています。確かにその通り、本書はいかにもといった感じの中村節でした。創作ものならば、本書のような見解を取り入れて面白い作品ができる可能性もあるとは思いますが、一般向けの歴史書としては、かなり問題があるのではないか、と思います。ただ、日本を中心に当時の東アジア情勢が詳しく解説されているので勉強になり、読んで損をしたとはまったく思いません。
しかし本書は、大国と戦って敗れれば占領支配を受けることが「戦争の法則」なのだから、日本が「独立」したまま主体的に政権を運営し、唐や新羅との外交を進めていき、「先進文明」を受け入れていった、ということはあり得ない、と主張します。これまでの通説は、『日本書紀』編纂者、さらには編纂時の支配層の主張を受け入れてしまったことにより形成されたのであり、白村江の戦い後の日本は唐の羈縻支配を受けていた、というのが本書の見解です。
本書はその根拠として、唐・新羅の侵攻に備えて築かれたと考えられている朝鮮式の山城が、沿岸部ではなく内陸部にあることなどを挙げています。沿岸部ではなく内陸部に山城を築いても唐・新羅の侵攻にはあまり役立たないのだから、これらは日本側が主体的に築いたのではなく、唐が日本統治のために築いたのだ、というわけです。朝鮮半島からの大陸勢力の侵攻に備えるならば、モンゴル襲来時の防塁のようなものの方が適しているだろう、との指摘です。
正直なところ、本書の云う「戦争の法則」なるものがどこまで一般化されるのか、はなはだ疑問であり、そもそも本書の大前提が成立するのか、たいへん危ういと思います。その意味で、当時築かれた内陸部の朝鮮式山城についても、本書とは異なる解釈も可能でしょう。たとえば、天智政権が「外敵」の脅威を煽って支配体制の強化を進めていった、との見解です。
こうしたことを考えると、はたして本書の見解に納得する読者がどれだけいるでしょうか。また本書は、唐は日本も羈縻支配の対象としていた、との前提で議論を進めていますが、隋にも唐にも冊封されていなかった日本が唐の羈縻支配の対象だったのかというと、はなはだ疑問です。唐に関する史料にも、唐が一時的にせよ日本で羈縻政策を実施していた、と伝えるものはおそらくなく、本書の見解は説得力に欠けると思います。
あとがきにて、「本書では、歴史学ではタブーとされている想像力をふんだんに使っている」と述べられています。確かにその通り、本書はいかにもといった感じの中村節でした。創作ものならば、本書のような見解を取り入れて面白い作品ができる可能性もあるとは思いますが、一般向けの歴史書としては、かなり問題があるのではないか、と思います。ただ、日本を中心に当時の東アジア情勢が詳しく解説されているので勉強になり、読んで損をしたとはまったく思いません。
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