『天智と天武~新説・日本書紀~』第80話「奇襲」
これは1月10日分の記事として掲載しておきます。『ビッグコミック』2016年1月25日号掲載分の感想です。前回は、壬申の乱が勃発し、瀬田橋の決戦が始まり、大友皇子軍が大海人皇子(天武帝)軍に奇襲をかけたところで終了しました。今回は、大友皇子軍の奇襲により大海人皇子軍が混乱している場面から始まります。大海人皇子は、挟撃を避けるために橋を守るよう命じます。大海人皇子軍が混乱している様子を見た大友皇子は、今頃気づいても遅い、と呟きます。
大友皇子は自ら馬に乗り先頭に立って突撃し、大海人皇子軍は橋の守りを突破されてしまいます。大友皇子は、優勢なうちに大海人皇子を討ちとれ、と命じて自ら太刀を振るって戦います。乱戦のなか、大海人皇子軍の兵士が弓で大友皇子を射ようとしたところ、蘇我赤兄がその兵士を射て、大友皇子は満足そうな笑みを浮かべます。大海人皇子を自ら討ちとろうとして乱戦のなか探していた大友皇子は、ついに大海人皇子を見つけます。
大友皇子と大海人皇子の一騎討ちが始まり、どちらが斃れても不思議ではなさそうな互角の勝負が続きます。戦況の方も乱戦が続くなか、赤兄は蘇我入鹿を模した仏像(現在では法隆寺夢殿に安置されている救世観音像)が安置されている天幕にたどりつき、仏像を奪うことに成功します。その頃には、奇襲を受けて混乱していた大海人皇子軍も態勢を立て直し、大海人皇子軍の兵士二人が大友皇子の前に立ちふさがり、大海人皇子を守ります。
一瞬沈黙した大友皇子の前に、入鹿を模した仏像を馬で運ぶ赤兄が現れます。大友皇子は大海人皇子に、叔父上の父である入鹿をもらっていきます、奪えるものなら奪ってください、と言って大海人皇子を挑発し、瀬田橋へ向かって退却します。大海人皇子は激昂して馬に乗り、直ちに大友皇子を追いかけます。大海人皇子軍の兵士たちも慌てて大海人皇子を追いかけ、鵲は入鹿を模した仏像を奪われたことを大海人皇子に謝りますが、大海人皇子の耳にはその謝罪入っていないようです。大海人皇子と鵲が、瀬田橋の細工のされているらしい所に迫る、というところで今回は終了です。
前回、壬申の乱の勃発から瀬田橋の戦いの始まりまでがあまりにも駆け足で描かれたので、今回は大友皇子の自害まで話が進むのではないか、と懸念していたのですが、わりと丁寧に描かれていたので、安心しました。それでも、白村江の戦いほど時間をかけて描かれることはなさそうですが。大友皇子が文武両道であることは以前から描かれていましたが、それでも身体能力の高い大海人皇子と互角に戦えていたのには驚きました。「覚醒」したからということでしょうか。まあ作中設定では、大海人皇子は満年齢で40歳になったばかりか40歳直前で、大友皇子は満年齢で23~24歳といったところでしょうから、大海人皇子の身体能力もさすがに多少衰えているからかもしれませんが。
戦闘場面では、赤兄の活躍も印象に残りました。これまで赤兄の戦闘場面はまったく描かれていなかったので、これは意外でした。蘇我入鹿を模した仏像を奪うという大友皇子の作戦は見事でしたが、この仏像を奪われた時の大海人皇子の狼狽と憤怒は、これまで作中では見られなかったくらい激しかったように思います。それだけ、復讐に人生を賭けており、父の鎮魂と名誉回復が大事だということなのでしょう。このところ大海人皇子の真意があまり描かれていないので、大海人皇子が本当のところは何を目標に決起したのか、どうもよく分からなかったのですが、父である入鹿への過剰な思い入れが決起の根本的な動機であることは間違いなさそうです。
壬申の乱では、大友皇子軍が瀬田橋に板を渡してそれを引き、大海人皇子軍を下に落とした、との逸話が伝えられていますが、作中ではそれが採用されるようです。ここまでは大友皇子の思惑通りといった感がありますが、仏像を奪われた責任を痛感している鵲が、先頭を行く大海人皇子を追い越して前に出たところで今回は終わっているので、次回は、鵲が罠にはまり、大海人皇子はかろうじて危地を脱する、という話になるのかもしれません。
鵲は身体能力に優れているので、この罠にかかっても死なないのかもしれませんが、鵲がこれで討ち死にするようだと、大海人皇子は鵲を最も信頼しているようですから、大海人皇子の心境にも大きな変化が生じ、それが物語の今後にも影響してくるのかもしれません。ただ、どうも単行本第10集で完結しそうなので、単行本第9集が8~9話収録だとすると、残りは4~5話となりそうです。そうすると、壬申の乱の後は駆け足で話が進み、1話~2話で終わりそうな感じなので、鵲が討ち死にしても大海人皇子の大きな変化を描くだけの余裕はなさそうです。
できれば、藤原史(不比等)の台頭と、入鹿を模した仏像が法隆寺に安置(封印)されるところは描いてもらいたいものですが、その余裕はないでしょうか。また、多くの読者が気にしているでしょうが、天智帝(中大兄皇子)の最期と、遺体がどこにあるのか、という現時点で作中最大の謎も、しっかりと描いてもらいたいものです。天智帝は人物相関図で物故者扱いになっていましたから、さすがに生きていることはないだろう、と思うのですが、一方で、大海人皇子が天智帝に大津京の陥落と息子である大友皇子の死を見せつけるために、天智帝を隠れ里か吉野に監禁している、という可能性もわずかながら想定しています。
大友皇子は自ら馬に乗り先頭に立って突撃し、大海人皇子軍は橋の守りを突破されてしまいます。大友皇子は、優勢なうちに大海人皇子を討ちとれ、と命じて自ら太刀を振るって戦います。乱戦のなか、大海人皇子軍の兵士が弓で大友皇子を射ようとしたところ、蘇我赤兄がその兵士を射て、大友皇子は満足そうな笑みを浮かべます。大海人皇子を自ら討ちとろうとして乱戦のなか探していた大友皇子は、ついに大海人皇子を見つけます。
大友皇子と大海人皇子の一騎討ちが始まり、どちらが斃れても不思議ではなさそうな互角の勝負が続きます。戦況の方も乱戦が続くなか、赤兄は蘇我入鹿を模した仏像(現在では法隆寺夢殿に安置されている救世観音像)が安置されている天幕にたどりつき、仏像を奪うことに成功します。その頃には、奇襲を受けて混乱していた大海人皇子軍も態勢を立て直し、大海人皇子軍の兵士二人が大友皇子の前に立ちふさがり、大海人皇子を守ります。
一瞬沈黙した大友皇子の前に、入鹿を模した仏像を馬で運ぶ赤兄が現れます。大友皇子は大海人皇子に、叔父上の父である入鹿をもらっていきます、奪えるものなら奪ってください、と言って大海人皇子を挑発し、瀬田橋へ向かって退却します。大海人皇子は激昂して馬に乗り、直ちに大友皇子を追いかけます。大海人皇子軍の兵士たちも慌てて大海人皇子を追いかけ、鵲は入鹿を模した仏像を奪われたことを大海人皇子に謝りますが、大海人皇子の耳にはその謝罪入っていないようです。大海人皇子と鵲が、瀬田橋の細工のされているらしい所に迫る、というところで今回は終了です。
前回、壬申の乱の勃発から瀬田橋の戦いの始まりまでがあまりにも駆け足で描かれたので、今回は大友皇子の自害まで話が進むのではないか、と懸念していたのですが、わりと丁寧に描かれていたので、安心しました。それでも、白村江の戦いほど時間をかけて描かれることはなさそうですが。大友皇子が文武両道であることは以前から描かれていましたが、それでも身体能力の高い大海人皇子と互角に戦えていたのには驚きました。「覚醒」したからということでしょうか。まあ作中設定では、大海人皇子は満年齢で40歳になったばかりか40歳直前で、大友皇子は満年齢で23~24歳といったところでしょうから、大海人皇子の身体能力もさすがに多少衰えているからかもしれませんが。
戦闘場面では、赤兄の活躍も印象に残りました。これまで赤兄の戦闘場面はまったく描かれていなかったので、これは意外でした。蘇我入鹿を模した仏像を奪うという大友皇子の作戦は見事でしたが、この仏像を奪われた時の大海人皇子の狼狽と憤怒は、これまで作中では見られなかったくらい激しかったように思います。それだけ、復讐に人生を賭けており、父の鎮魂と名誉回復が大事だということなのでしょう。このところ大海人皇子の真意があまり描かれていないので、大海人皇子が本当のところは何を目標に決起したのか、どうもよく分からなかったのですが、父である入鹿への過剰な思い入れが決起の根本的な動機であることは間違いなさそうです。
壬申の乱では、大友皇子軍が瀬田橋に板を渡してそれを引き、大海人皇子軍を下に落とした、との逸話が伝えられていますが、作中ではそれが採用されるようです。ここまでは大友皇子の思惑通りといった感がありますが、仏像を奪われた責任を痛感している鵲が、先頭を行く大海人皇子を追い越して前に出たところで今回は終わっているので、次回は、鵲が罠にはまり、大海人皇子はかろうじて危地を脱する、という話になるのかもしれません。
鵲は身体能力に優れているので、この罠にかかっても死なないのかもしれませんが、鵲がこれで討ち死にするようだと、大海人皇子は鵲を最も信頼しているようですから、大海人皇子の心境にも大きな変化が生じ、それが物語の今後にも影響してくるのかもしれません。ただ、どうも単行本第10集で完結しそうなので、単行本第9集が8~9話収録だとすると、残りは4~5話となりそうです。そうすると、壬申の乱の後は駆け足で話が進み、1話~2話で終わりそうな感じなので、鵲が討ち死にしても大海人皇子の大きな変化を描くだけの余裕はなさそうです。
できれば、藤原史(不比等)の台頭と、入鹿を模した仏像が法隆寺に安置(封印)されるところは描いてもらいたいものですが、その余裕はないでしょうか。また、多くの読者が気にしているでしょうが、天智帝(中大兄皇子)の最期と、遺体がどこにあるのか、という現時点で作中最大の謎も、しっかりと描いてもらいたいものです。天智帝は人物相関図で物故者扱いになっていましたから、さすがに生きていることはないだろう、と思うのですが、一方で、大海人皇子が天智帝に大津京の陥落と息子である大友皇子の死を見せつけるために、天智帝を隠れ里か吉野に監禁している、という可能性もわずかながら想定しています。
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