大河ドラマ『花燃ゆ』全体的な感想

 これは12月16日分の記事として掲載しておきます。正直なところ、何度か感想記事の執筆に挫折しそうになりましたが、何とか完走することができました。本作は、大河ドラマ史上最低の平均視聴率(関東地区)を記録した2012年放送の『平清盛』とほぼ同じ平均視聴率となりました。視聴率と作品の質が比例関係にあるとは限りませんが、本作はお世辞にも内容が優れていたとは言えないでしょう。ただ、2009年放送の『天地人』や2011年放送の『江~姫たちの戦国~』と比較すると、より真面目に作られていたというか、ふざけてはいなかった、と思います。作品の質では、『天地人』・『江~姫たちの戦国~』よりは多少ましだった、というのが私の評価です。

 本作が発表された時、主人公の知名度がたいへん低かったことから、捨て作品になるのではないか、と懸念した人は私も含めて少なからずいたのではないか、と思います。残念ながら、その懸念はかなりのところ的中してしまった感があります。本作の迷走を象徴しているのが、脚本家の交代です。当初は二人体制だったのが、途中から一人加わって三人体制となり、明治編ではその三人に替わって新たな脚本家が起用されました。しかも、その新たな脚本家が『天地人』で不評だった小松江里子氏でしたから、本当に唖然とさせられました。

 もちろん、一視聴者に制作事情はよく分かりませんから、脚本家の追加・交替は当初の予定通りだったのかもしれませんが、大河ドラマでは異例の事態だけに、そうではない可能性の方が高いだろう、と私は考えています。ネットでは、これは脚本家の力量不足のためなだ、との批判が目立っていたように思いますが、根本的には企画の問題なのだと思います。その意味では、脚本家よりも制作統括の方の責任がずっと重いのではないか、というのが私の見解です。

 大河ドラマ視聴者層の多くは、「英雄史観」というか「英雄物語」に基づく歴史ドラマを求めているのだと思います。その意味で、美和(文)のように知名度が低く、事績もあまり伝わっていないような人物を大河ドラマの主人公にすると、色々と無理が生じて綻びが生じやすくなるのでしょう。じっさい、本作では文を何とか目立たせようと、さまざまな工夫がなされた結果、多くの視聴者が期待しているだろう「王道的」な歴史物語の描写が疎かになってしまった感が否めません。これが本作の低視聴率の要因だと思います。

 また、視聴者側だけではなく、制作者側にも「英雄史観」的な発想が根強くあるのではないか、と思います。このような状況で、前近代の知名度の低い女性を主人公にすると、本作のように迷走してしまう可能性が高くなってしまうのでしょう。制作者側が女性史の研究成果も盛り込み、質の高い娯楽作品に仕上げることができれば、状況も変わってくるのかもしれませんが、視聴者側の意識の問題もあるので、大河ドラマで日本列島の前近代の女性を主人公とすることは当分厳しいように思われます。「英雄史観」で前近代の日本列島の女性を主人公とするのならば、相応しい人物は限られてきそうです。たとえば持統天皇は、数少ない候補者と言えるでしょうか。

 本作の迷走の要因として、安倍政権に迎合した題材だったから、ということもネットでは指摘されています。しかし、本作が幕末長州視点となったのは、安倍政権への諂いという要素が皆無ではないかもしれないにしても、それは主因ではないだろう、と思います。近年の大河ドラマは戦国時代と幕末を交互に題材とする傾向にあり、今年は戦国時代の次ということで、まず幕末を題材にすると決まったのでしょう。幕末大河で長州視点からのものは1977年の『花神』以降しばらくなく、その間に幕府・会津・薩摩・土佐の視点からの大河ドラマが制作されているので、長州視点と決まったのだと思います。さらに、近年の大河ドラマでは連続して同じ性別の人物を主人公としない、というような慣行があるため、女性の文が主人公となったのでしょう。

 じゅうらい、幕末大河は視聴率をとりにくい、と言われていました。じっさい、『篤姫』よりも前は、大河ドラマで幕末の頻度はさほど高くありません。しかし、『篤姫』が21世紀の大河ドラマとしては驚異的な好視聴率だったため、幕末の大河ドラマとしての題材の評価が上がり、女性主人公を積極的に取り上げればよいのではないか、とNHK側が判断するようになったのでしょう。本作の題材が決定された背景には、こうした事情があるのではないか、と思います。しかし、上述したように、製作者側にも視聴者側の多くにも、大河ドラマは「英雄史観」であるべきだとの認識がおそらく強い中で、基本的には前近代の日本社会を題材とするのに、2年に1回女性主人公となれば、本作のように視聴率が低迷することがあっても仕方ないかな、とは思います。NHKには、まずは『篤姫』での(あくまでも視聴率的な意味での)成功幻想から脱却してもらいたいものです。

 知名度が低く、事績もあまり伝わっていない文を主人公としたことで、文を持ち上げることはもちろん、その再婚相手である小田村伊之助(楫取素彦)も持ち上げるような制作方針となったことが、歴史ドラマとしての本作の魅力を減じる結果になってしまった感は否めません。この二人を持ち上げることで、他の実在人物の活躍場面が削られてしまうわけで、たとえば桂小五郎(木戸孝允)はその被害者と言えるかもしれません。薩摩との提携の前までの桂は、大河ドラマ主演者を起用した意味がないだろう、と思わせるほど空気でした。まあ、主人公の最初の夫にも関わらず、優秀なところがほとんど描かれず、無能な小物という印象を強く残した久坂玄瑞こそ、本作最大の被害者かもしれませんが。

 そのように文と小田村を持ち上げた本作ですが、多くの視聴者に感情移入させるような人物造形になっていたのかというと、正直なところ疑問が残ります。序盤より主人公側の敵役として描かれてきた椋梨藤太の方が、より多くの視聴者に感情移入させたのではないか、とさえ思います。敵役を魅力的に描くのは名作の条件の一つと言えるでしょうが、ひたすら主人公とその再婚相手を持ち上げる本作の作風と合致していたのかというと、疑問の残るところです。

 以上、本作の不満点ばかり述べてきましたが、オープニングはなかなかの出来だったと思います。また、本作は長州視点の幕末大河ドラマでありながら、「勝者」の側だけではなく、「敗者」というか「乗り損なった」側への視点も見られ、この点は肯定的に評価できるのではないか、と私は考えています。また、明治編、とくに群馬編ではそうでしたが、地方から見た近代化という視点が打ち出されたのもよかったのではないか、と思います。こうした視点を強く打ち出して面白い物語にできていれば、と残念に思います。もっとも、たとえそうした視点で面白い物語になったとしても、上述した「英雄史観」待望論の問題になりますが、幕末~明治時代の長州視点の作品ということで、勝者の側の華々しい立身出世物語・英雄譚を期待していたであろう多くの視聴者には、不満の残るものとなったでしょう。

 本作にたいして色々と不満はありますし、じっさいほとんど楽しめませんでしたが、上述したように、『天地人』・『江~姫たちの戦国~』と比較するとふざけた作風ではなかったので、面白くないとは思いつつも、不快感はさほどなく視聴を続けられました。全話の感想記事を執筆できたのも、不快感がほとんどなかったことが一因だと思います。まあそれは大したことではなく、惰性で視聴と感想記事の執筆を続けた、というのがじっさいのところですが。捨て作品になるのではないか、との懸念が残念ながらかなりのところ的中してしまった感は否めませんが、NHKには、本作の迷走・失敗を教訓に、今後の大河ドラマを制作していってもらいたいものです。

この記事へのコメント

ひろし
2016年01月09日 16:45
遅くなりましたが、個人的な感想をコメントします。

いや~、ホントに酷い内容でした。
一年間が地獄でした。
どうして、こんな内容になったのやら。
放送開始前から、期待が全くありませんでしたが、創造を遥かに超える、酷い内容でした。
CPの『セクシー大河』と宣伝した時点で、不安が一気に上がり、見事に的中。
幕末大河ファンとしては、とても失望させました。

歴代最低最悪はともかく、少なくとも、歴代最低最悪の幕末大河なのは確実です。
極端ですが、2015年で放送されたドラマでは、最悪だったと思います。
ネット・SNSの批判を観れば、一目瞭然。
まさか、幕末大河で、こんなに酷い内容が観れる日が来るとは、とてもショックです。
前年、散々批判した『軍師官兵衛』すら、まだマシな所がありました。

肝心の主役に魅力が無く、長州藩士(松下村塾)はテロリスト扱いだったのが、とても否めません。これじゃ、『幕末テロリストの育て方』ですよ(笑)。
重要人物である大久保利通は未登場で、木戸孝允はほごスルー扱い。
重要な出来事は、殆どスルーで、全体的に酷い内容でした。
ご都合主義の展開には、とても苛立ちました。

そもそも企画自体に無理があったと思います。
何故、松陰本人ではなく、知名度が低い文・美和なのか?
何故、小田村・楫取にスポットライトを浴びたのか?
彼が主役でも、何の違和感もなかったと思います。寧ろ、親は彼が主役かと勘違いする程(笑)。
美和の存在感が殆ど感じられませんでした。
演じた、井上さんには、とても気の毒です。
(続く)
ひろし
2016年01月09日 16:48
もう二度と、今作の脚本家に大河には関わって欲しくないです(特に小松)。
脚本家が四人もいて、こんな内容になるなんて、到底許せません。
出演者には、とても気の毒でした。彼らには罪は無い。
罪があるのは脚本家やCPです。
視聴率を観れば、御覧のとおりの大敗です。
歴代最低視聴率(12.00%)を更新されました。
『平清盛』よりも0.01%低い数字に。
幾ら、年々大河の視聴率が下がってるからと言って、これは低すぎです。
現在放送中の、同じ幕末設定朝ドラ『あさが来た』は、ストーリーがとてもしっかりしてて、登場人物にも魅力があり、視聴率も好調なので、全く言い訳にはならない結果です。
(まだ続く)
ひろし
2016年01月09日 17:08
ただ、悪いことばかりではありません。
ココが良かった所もあります(笑)。

まず一つは、過去の幕末大河の再評価、特に『八重の桜』に繋がりました。
『八重の桜』は、女性主役としては、かなり地味で辛いと言う、扱いを受けましたが、今年の悪夢を観れば、見直す論調が随所で沸き起こりました。いま思えば、アレは女性主役大河としては、かなりマトモに作られたと思います。まあ、後半・明治編以降では、かなり失速した感は否めませんが、それでも全体的に見応えがある内容だったと思います。

もう一つは、今作で最低の幕末大河ドラマが決定して良かったという点もあります。
戦国大河は、『天地人』や『江』など(『軍師官兵衛』はギリギリ逃れました)、最低・最悪は認めますが、幕末大河だとそれを決定するのは難しいです(特に幕末大河ファンとしては)。 批判が多かった『徳川慶喜』や『新撰組!』や『龍馬伝』ですら、それに相応しいかは、議論が回っています。放送前に選ぶとしたら『龍馬伝』だったと思います。まあ、アレは内容的にも問題があり、全体的にモヤモヤした雰囲気が漂い、汚れ演出など、色々と不満もありましたが、それでも、努力した作品だと思います。
今作で、遂に明白になりました(笑)!

更に良かった所は、小松江里子(呼び捨て)の化けの皮が剥がれたこと。平均視聴率21.2%という数字を叩き出した大河ドラマ『天地人』は成功作であり、その脚本家である小松(呼び捨て)は大河ドラマの成功者と呼ばざるを得ない存在でした。しかし、今年の大河ドラマのテコ入れリリーフに抜擢されたにも拘わらず、遂に視聴率は回復しなかった。視聴率という唯一のアドバンテージがなくなったことで、視聴者は堂々と小松の作品を批判できるようになりました(笑)。なんともめでたいことです。

(まだまだ続く)
ひろし
2016年01月09日 17:16
さて、今作でワースト幕末大河を更新されたので、今後、気になる事があります。
一番心配・不安なのは、2018年以降制作される幕末大河にどう影響されるかです。
当分(或いは一生)の間、長州藩が主役の大河が制作される事はないと思います。
それを考えると、とても残念で、悔やみきれません。
伊藤博文が主役の大河が、観たかったですし。
現時点で、どんな内容になるかは不明ですが、少なくとも女性脚本家は辞め、久しぶりに男性脚本家で主役は男性にして欲しいです。知名度が低い主役も避けて欲しいです。

言いたいことは、まだまだ山ほどありますが、考えるだけでも気持ち悪くなるので、ここまでにします(汗)。


さて、明日(10日)、開始される『真田丸』ですが、ここで何とか巻き返して欲しいです。
名作でなくとも、少なくとも「佳作」であって欲しいです。
再来年も戦国なので、2年連続マトモな作品であって欲しいです。
大河ドラマの存続が懸かっています!
『花燃ゆ』が最後の幕末大河であって欲しくないです。

お疲れ様でした~。
2016年01月09日 17:29
『花燃ゆ』は、企画の時点でかなり無理があったと思います。『篤姫』路線からの脱却の契機になってほしい、と願ってはいるのですが。

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