現生人類とは異なるネアンデルタール人の顔面成長パターン

 これは12月10日分の記事として掲載しておきます。現生人類(Homo sapiens)とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の顔面成長パターンに関する研究(Lacruz et al., 2015)が報道されました。骨格の形成は、骨の沈着と破壊吸収により行なわれます。本論文は、現生人類とネアンデルタール人の顔面においてそれがどのようなパターンを示すのか、検証しました。

 対象となったのは、ネアンデルタール人の化石ではジブラルタルで1926年に発見されたジブラルタル2号(Gibraltar 2)と、20世紀初頭に南西フランスのラキーナ遺跡(the La Quina site)で発見されたラキーナ18号(La Quina 18)です。また、さまざまな部位の豊富な人骨が一括して発見されている中期更新世の遺跡として有名な、スペイン北部の通称「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(以下、SHと省略)で発見された、40万年前頃の成人前の4個体も比較対象とされました。SH人はネアンデルタール人の祖先集団もしくはその近縁集団と考えられています。

 分析の結果、ネアンデルタール人とSH人の顔面の成長過程において、広範な骨の沈着が見られ、そのために顔面が前方に突出することが明らかになりました。一方、現生人類においては、広範な破壊性の骨再吸収が同じ領域で見られ、結果として、現生人類の顔面はネアンデルタール人と比較して引っ込んでいるというか、平坦になっています。こうしたネアンデルタール人やSH人の顔面成長パターンは、アウストラロピテクス属や初期ホモ属にも見られる祖先的なものであり、現生人類の顔面成長パターンは人類進化史において派生的であることが分かります。

 では、派生的である現生人類の顔面成長パターンがいつ出現したのかとなると、現時点では証拠不足であり、判断は難しい、とのことです。本論文は、スペイン北部のグランドリナ(Gran Dolina)遺跡で発見された90万~80万年前頃のホモ属化石(ATD6-69)に、現生人類と同じく鼻の下の領域で骨の再吸収が見られる、と指摘しています。この人骨をホモ属の新種アンテセッサー(Homo antecessor)と分類する見解も提示されています。たいへん興味深い見解ですが、本論文が指摘するように、この問題の解決にはさらなる人骨の発見が必要です。

 また、ネアンデルタール人の大きな鼻腔と結合した上顎での骨の沈着により、上顎が前方へと移動して歯列がずれ、ネアンデルタール人の派生的特徴とされる臼歯後方の空間(臼歯後隙)が形成されることも明らかにされています。この特徴は、いくつかのSH人骨にも見られます。本論文は、人類の各系統間の顔面成長パターンの違いを明らかにし、ネアンデルタール人と現生人類とが異なる系統の人類であることと、ネアンデルタール人とSH人骨群との類似性を強力な証拠で再確認しており、意義深いと思います。


参考文献:
Lacruz RS. et al.(2015): Ontogeny of the maxilla in Neanderthals and their ancestors. Nature Communications, 6, 8996.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms9996

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