インカ帝国の子供のミイラのミトコンドリアゲノム

 これは11月15日分の記事として掲載しておきます。インカ帝国の子供のミイラのミトコンドリアゲノムに関する研究(Gómez-Carballa et al., 2015)が公表されました。1985年にアルゼンチンの山中で500年前頃のインカ帝国時代の凍結した子供のミイラが発見されました。この子供は、インカ帝国で行われていた「カパコチャ」と呼ばれる生贄の儀式で犠牲となった7歳の男児である、と明らかになりました。この研究は、その7歳男児のミイラからミトコンドリアDNAを抽出・解析し、比較しています。

 その結果、この7歳男児はこれまで同定されたことのないハプログループC1biに属することが明らかになりました。ミトコンドリアDNAのハプログループC1およびC1bのようなC1のサブクレードは、アメリカ大陸の先住民によく見られます。この新たに同定されたハプログループC1biに区分され得るか、ひじょうに近いミトコンドリアDNAを有する個体はペルーとボリビアで見られ、その中には紀元後1000年~1450年頃の人間も含まれます。この研究は、この稀なハプログループC1biが23600~5000年前頃に出現し、過去においてはもっと頻度が高かった可能性を指摘しています。以下は『ネイチャー』日本語サイトからの引用です。


【遺伝】インカ帝国の子どものミイラから見つかった希少なゲノム

 約500年前のインカ帝国時代の子どものミイラのミトコンドリアゲノム(ミトゲノム)が解読され、この子どもが、現代のアメリカ先住民から見つかっていないハプログループ(共通祖先を有する遺伝的集団を示す指標)に属することが示唆されている。このハプログループは、ハプログループC1bの根元の部分で枝分かれしたと考えられている。研究成果を報告する論文が、今週掲載される。

 1985年の夏、アルゼンチンのメンドーサ州にあるアコンカグア山の南西端に位置する山頂の1つであるピラミデ山で凍結したミイラが発見された。考古学研究と文化人類学研究の結果、このミイラは約500年前のインカ帝国で行われた「カパコチャ」と呼ばれる生贄の儀式で犠牲となった7歳の男児であることが明らかになった。

 今回の研究で、Antonio Salasたちのグループは、このミイラの肺からミトコンドリアDNA全体を抽出して、塩基配列解読を行った。Salasたちは、この解読結果を約28,000件のミトゲノムが登録された世界的規模のデータベースと照合して、このインカ帝国時代のミイラが、これまでに同定されたことのないハプログループC1biに属していることを明らかにした。また、Salasたちは、ハプロタイプ(一緒に遺伝する傾向のある一連のDNA変異)のデータベースを用いて、ハプログループC1biに属する者が現代のペルーとボリビアに存在している可能性を見いだし、このハプログループに属していた古代ワリ帝国の住民1人を同定した。Salasたちは、このミイラが約14,300年前にペルーで出現したヒトの母系祖先の希少な遺伝的サブクレードを示していると考えており、これは考古学研究の結果と一致している。



参考文献:
Gómez-Carballa A. et al.(2015): The complete mitogenome of a 500-year-old Inca child mummy. Scientific Reports, 5, 16462.
http://dx.doi.org/10.1038/srep16462

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック