ナレディの足と手の特徴(追記有)
ホモ属の新種として大きく取り上げられた(関連記事)ナレディ(Homo naledi)の足についての研究(Harcourt-Smith et al., 2015)が報道されました。この研究では1個のほぼ完全な成人の足を含む107個の足の骨が分析され、アウストラロピテクス属のセディバ(Australopithecus sediba) などを含む化石人類や現生類人猿のチンパンジー(Pan troglodytes)や現代人などと比較されました。内転した親指や細長い足根骨や派生的な足関節および踵骨立方骨関節といったナレディの特徴は現代人的(派生的)であり、ナレディが直立二足歩行によく適応していたことを示しています。しかし一方で、湾曲した足の指の骨(基節骨)と、減少した縦足弓内側部(偏平足)を示唆するナレディの足の特徴は現代人とは異なるので、現代人とは違った歩行形態だったと考えられています。
ナレディの年代は不明なので、この研究では複数の年代を想定し、その意義を論じています。ナレディの年代が鮮新世前期~中期だとすると、近い年代の人類よりずっと派生的な足を有していたことになります。ナレディの年代が鮮新世後期~更新世前期の場合、近い年代のアフリカ東部および南部の人骨群よりも派生的な足を有していたことになりますが、じゅうぶんに現代人的ではなく、180万年前頃のドマニシ(Dmanisi)人骨群にもっとも類似していた、という評価になります。ナレディの年代がそれよりも新しい場合は、ホモ属の足の形態の多様性の幅を広げることになり、ナレディの基節骨の湾曲は祖先的特徴の維持を示唆し、小さな脳容量と派生的な足および脚という組み合わせの初めて発見された人類系統になる、と指摘されています。
ナレディの手に関する研究(Kivell et al., 2015)では、成体のほぼ完全な右手を含む150個の手の骨が分析されました。ナレディの手首の構造と長く頑丈な親指はネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や現代人と共通する派生的な特徴を示しています。そのため、ナレディは手で器用な操作が可能であり、石器などの道具を製作していたのではないか、と考えられています。しかし、ナレディの指の骨はほとんどのアウストラロピテクス属より長く湾曲しており、ナレディは頻繁に木に登り懸垂行動をとっていたのではないか、と推測されています。肩の構造からも、ナレディは樹上生活への適応が指摘されており、器用な手で道具を製作し、直立二足歩行に適応しつつも、樹上生活にも適応していたようです。このようなナレディを人類進化史において的確に位置づけるには、その精確な年代測定が必要となるので、今後の研究の進展には大いに注目しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
【進化】ホモ・ナレディの手足
ホモ・ナレディの手足の構造と機能について記述された2編の論文が、今週掲載される。これらの論文に示される知見を総合すると、ホモ・ナレディは主要な運動形態としての木登りと歩行の両方に適応するという独自性を有し、正確な手さばきもできた可能性が明らかになっている。
現生人類(ホモ・サピエンス)と絶滅したヒト種(ネアンデルタール人、ホモ・エレクトス、ホモ・ハビリス、ホモ・ナレディなど)はヒト属に分類され、ヒト属とアウストラロピテクス属(ヒト属の絶滅した近縁種)は、ヒト族と総称されている。
Tracy Kivellたちの論文には、南アフリカ共和国のライジングスター洞窟系のディナレディ・チャンバーで出土した約150点の手の骨化石(ほぼ完全な成体の右手の骨化石を含む)から明らかになったホモ・ナレディの手について記述されている。ホモ・ナレディの手は、手首の構造と長くがっしりとした親指がネアンデルタール人と現生人類の手と類似している。しかし、指の骨は、ホモ・ナレディの方が長く、曲がっており、ホモ・ナレディが手を使って木登りや樹上での移動をするとともに力を込めて手を正確に操って道具を使用していたことが示唆されている。
一方、William Harcourt-Smithたちの論文には、ディナレディ・チャンバーで出土した足の骨の化石の断片(良好な状態で保存されていた成体の右足の化石を含む)107点に基づくホモ・ナレディの足に関する記述がある。Harcourt-Smithたちは、ホモ・ナレディの足が、現生人類の足に見られる数多くの特徴を備え、直立と二足歩行に十分に適応していたことを明らかにする一方で、足の指の骨(基節骨)が現生人類より曲がっている点を指摘している。
以上を総合すると、2編の論文は、ホモ・ナレディの上肢と下肢の機能が分離していることを示しており、ヒト属の初期種の特徴だったと考えられる骨格の形態と機能に関する重要な手掛かりをもたらしている。
参考文献:
Harcourt-Smith WEH. et al.(2015): The foot of Homo naledi. Nature Communications, 6, 8432.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms9432
Kivell TL. et al.(2015): The hand of Homo naledi. Nature Communications, 6, 8431.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms9431
追記(2015年10月10日)
AFPとナショナルジオグラフィックで報道されました。
ナレディの年代は不明なので、この研究では複数の年代を想定し、その意義を論じています。ナレディの年代が鮮新世前期~中期だとすると、近い年代の人類よりずっと派生的な足を有していたことになります。ナレディの年代が鮮新世後期~更新世前期の場合、近い年代のアフリカ東部および南部の人骨群よりも派生的な足を有していたことになりますが、じゅうぶんに現代人的ではなく、180万年前頃のドマニシ(Dmanisi)人骨群にもっとも類似していた、という評価になります。ナレディの年代がそれよりも新しい場合は、ホモ属の足の形態の多様性の幅を広げることになり、ナレディの基節骨の湾曲は祖先的特徴の維持を示唆し、小さな脳容量と派生的な足および脚という組み合わせの初めて発見された人類系統になる、と指摘されています。
ナレディの手に関する研究(Kivell et al., 2015)では、成体のほぼ完全な右手を含む150個の手の骨が分析されました。ナレディの手首の構造と長く頑丈な親指はネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や現代人と共通する派生的な特徴を示しています。そのため、ナレディは手で器用な操作が可能であり、石器などの道具を製作していたのではないか、と考えられています。しかし、ナレディの指の骨はほとんどのアウストラロピテクス属より長く湾曲しており、ナレディは頻繁に木に登り懸垂行動をとっていたのではないか、と推測されています。肩の構造からも、ナレディは樹上生活への適応が指摘されており、器用な手で道具を製作し、直立二足歩行に適応しつつも、樹上生活にも適応していたようです。このようなナレディを人類進化史において的確に位置づけるには、その精確な年代測定が必要となるので、今後の研究の進展には大いに注目しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
【進化】ホモ・ナレディの手足
ホモ・ナレディの手足の構造と機能について記述された2編の論文が、今週掲載される。これらの論文に示される知見を総合すると、ホモ・ナレディは主要な運動形態としての木登りと歩行の両方に適応するという独自性を有し、正確な手さばきもできた可能性が明らかになっている。
現生人類(ホモ・サピエンス)と絶滅したヒト種(ネアンデルタール人、ホモ・エレクトス、ホモ・ハビリス、ホモ・ナレディなど)はヒト属に分類され、ヒト属とアウストラロピテクス属(ヒト属の絶滅した近縁種)は、ヒト族と総称されている。
Tracy Kivellたちの論文には、南アフリカ共和国のライジングスター洞窟系のディナレディ・チャンバーで出土した約150点の手の骨化石(ほぼ完全な成体の右手の骨化石を含む)から明らかになったホモ・ナレディの手について記述されている。ホモ・ナレディの手は、手首の構造と長くがっしりとした親指がネアンデルタール人と現生人類の手と類似している。しかし、指の骨は、ホモ・ナレディの方が長く、曲がっており、ホモ・ナレディが手を使って木登りや樹上での移動をするとともに力を込めて手を正確に操って道具を使用していたことが示唆されている。
一方、William Harcourt-Smithたちの論文には、ディナレディ・チャンバーで出土した足の骨の化石の断片(良好な状態で保存されていた成体の右足の化石を含む)107点に基づくホモ・ナレディの足に関する記述がある。Harcourt-Smithたちは、ホモ・ナレディの足が、現生人類の足に見られる数多くの特徴を備え、直立と二足歩行に十分に適応していたことを明らかにする一方で、足の指の骨(基節骨)が現生人類より曲がっている点を指摘している。
以上を総合すると、2編の論文は、ホモ・ナレディの上肢と下肢の機能が分離していることを示しており、ヒト属の初期種の特徴だったと考えられる骨格の形態と機能に関する重要な手掛かりをもたらしている。
参考文献:
Harcourt-Smith WEH. et al.(2015): The foot of Homo naledi. Nature Communications, 6, 8432.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms9432
Kivell TL. et al.(2015): The hand of Homo naledi. Nature Communications, 6, 8431.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms9431
追記(2015年10月10日)
AFPとナショナルジオグラフィックで報道されました。
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