ブタの家畜化の過程
ブタの家畜化の過程に関する遺伝学的研究(Frantz et al., 2015)が公表されました。現在家畜となっている動物のうち、ブタはかなり早い時期に家畜化された動物で、まず西アジアで家畜化され(明確な家畜化は11000~10000年前頃)、東アジアでの家畜化(明確な家畜化は9000~8000年前頃)も早かったようです(関連記事)。ブタに限らず、こうした家畜化の過程は、比較的少ない数の個体を野生集団から持続的に隔離することで進行した、と考えられてきました。
この研究は、ヨーロッパとアジアの600頭以上の家畜ブタとイノシシの遺伝学的データを解析し、ヨーロッパの家畜ブタの起源がアナトリアの家畜ブタであることを示しました。これは予想通りだったのですが、アナトリアの家畜ブタのDNAのかなりの部分がヨーロッパのイノシシと同じであることも明らかになりました。このことから、家畜ブタは野生集団から隔離され続けたのではなく、当初から一貫してイノシシと交雑していたのではないか、との見解が提示されています。
この見解が妥当ならば、家畜ブタは数多くの野生個体群のモザイクであり、少なくともヨーロッパの品種の場合、このモザイクに絶滅種も含まれている可能性がある、と指摘されています。一方、アジアのブタのデータからは、これと類似した家畜化様式が示唆されたものの、明確な結論は得られなかった、とのことです。また、人間が農業にとって重要な形質の選択を持続的に行なったことで、この交雑の影響が打ち消され、家畜化が継続したのではないか、とも推論されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
ブタの家畜化の歴史に関する新見解
ブタがイノシシから家畜化された過程に関する新たな解析結果についての報告が、今週のオンライン版)に掲載される。この解析で分かったのは、動物の家畜化研究で用いられる主要な前提の1つが、現代のイノシシと家畜ブタの遺伝学的データと一致しないことだ。
人間は今から数千年前に農業目的で野生種の動物を家畜化した。そして、この家畜化の過程で、比較的少ない数の個体を野生集団から持続的に隔離することが行われたと考えられてきた。
今回、Laurent Frantzたちは、ヨーロッパとアジアの600頭以上の家畜ブタとイノシシの遺伝学的データを解析した。このデータは、ヨーロッパの家畜ブタの起源がアナトリアの家畜ブタであることを示しており、この点は予想通りだったが、アナトリアの家畜ブタのDNAのかなりの部分がヨーロッパのイノシシと同じであることも判明した。また、Frantzたちは、いくつかの進化モデルを検証し、家畜ブタが当初から一貫してイノシシと交雑していたと考えれば、この遺伝学的データを最もよく説明できることを明らかにした。従って、家畜ブタは、数多くの野生個体群のモザイクなのであり、少なくともヨーロッパの品種の場合には、このモザイクに絶滅種も含まれている可能性がある。アジアのブタのデータからは、これと類似した家畜化様式が示唆されたが、明確な結論は得られなかった。Frantzたちは、人間が農業にとって重要な形質の選択を持続的に行ったことで、この交雑の影響が打ち消され、家畜化が継続したと推論している。
参考文献:
Frantz LAF. et al.(2015): Evidence of long-term gene flow and selection during domestication from analyses of Eurasian wild and domestic pig genomes. Nature Genetics, 47, 10, 1141–1148.
http://dx.doi.org/10.1038/ng.3394
この研究は、ヨーロッパとアジアの600頭以上の家畜ブタとイノシシの遺伝学的データを解析し、ヨーロッパの家畜ブタの起源がアナトリアの家畜ブタであることを示しました。これは予想通りだったのですが、アナトリアの家畜ブタのDNAのかなりの部分がヨーロッパのイノシシと同じであることも明らかになりました。このことから、家畜ブタは野生集団から隔離され続けたのではなく、当初から一貫してイノシシと交雑していたのではないか、との見解が提示されています。
この見解が妥当ならば、家畜ブタは数多くの野生個体群のモザイクであり、少なくともヨーロッパの品種の場合、このモザイクに絶滅種も含まれている可能性がある、と指摘されています。一方、アジアのブタのデータからは、これと類似した家畜化様式が示唆されたものの、明確な結論は得られなかった、とのことです。また、人間が農業にとって重要な形質の選択を持続的に行なったことで、この交雑の影響が打ち消され、家畜化が継続したのではないか、とも推論されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
ブタの家畜化の歴史に関する新見解
ブタがイノシシから家畜化された過程に関する新たな解析結果についての報告が、今週のオンライン版)に掲載される。この解析で分かったのは、動物の家畜化研究で用いられる主要な前提の1つが、現代のイノシシと家畜ブタの遺伝学的データと一致しないことだ。
人間は今から数千年前に農業目的で野生種の動物を家畜化した。そして、この家畜化の過程で、比較的少ない数の個体を野生集団から持続的に隔離することが行われたと考えられてきた。
今回、Laurent Frantzたちは、ヨーロッパとアジアの600頭以上の家畜ブタとイノシシの遺伝学的データを解析した。このデータは、ヨーロッパの家畜ブタの起源がアナトリアの家畜ブタであることを示しており、この点は予想通りだったが、アナトリアの家畜ブタのDNAのかなりの部分がヨーロッパのイノシシと同じであることも判明した。また、Frantzたちは、いくつかの進化モデルを検証し、家畜ブタが当初から一貫してイノシシと交雑していたと考えれば、この遺伝学的データを最もよく説明できることを明らかにした。従って、家畜ブタは、数多くの野生個体群のモザイクなのであり、少なくともヨーロッパの品種の場合には、このモザイクに絶滅種も含まれている可能性がある。アジアのブタのデータからは、これと類似した家畜化様式が示唆されたが、明確な結論は得られなかった。Frantzたちは、人間が農業にとって重要な形質の選択を持続的に行ったことで、この交雑の影響が打ち消され、家畜化が継続したと推論している。
参考文献:
Frantz LAF. et al.(2015): Evidence of long-term gene flow and selection during domestication from analyses of Eurasian wild and domestic pig genomes. Nature Genetics, 47, 10, 1141–1148.
http://dx.doi.org/10.1038/ng.3394
この記事へのコメント