中期石器時代のアフリカ東部における環境と生物の拡散
これは9月30日分の記事として掲載しておきます。中期石器時代のアフリカ東部における環境と生物の拡散に関する研究(Faith et al., 2015)を読みました。本論文は、ケニアのヴィクトリア湖沿岸のカルング(Karungu)地域と、その北方数十kmにある、ヴィクトリア湖のルシンガ島(Rusinga Island)およびムファンガノ(Mfangano)島の後期更新世の環境・考古学的記録を検証しています。本論文が検証の対象としているのは、考古学的な時代区分でいうと中期石器時代となります。カルング地域では複数の場所で発掘が行なわれています。
本論文の検証対象となるこれらの地域の中期石器時代の年代は、表面採取されたダチョウの卵殻のAMS法による放射性炭素年代測定(非較正)や、火山堆積層のウラン系列法年代測定や、凝灰岩の上下の層の光刺激ルミネッセンス法から、94000~45000年前頃と推定されています。アフリカ東部の中期石器時代は、かなりの多様性を伴うのが特徴です。その起源と終焉については、前後の時代との移行が連続的であることと、地域的な差があることなどから、まだ厳密に特定できる段階ではないだろう、と思います。
カルング地域・ルシンガ島・ムファンガノ島では、アフリカスイギュウ(Syncerus caffer)やレイヨウ(Tragelaphus scriptus)やキリン(Giraffa camelopardalis)などの大型草食哺乳類や、齧歯類などの小型哺乳類や、カメなどの爬虫類にいたるまで、大きさの異なる多様な種が発見されています。これらの歯のエナメル質の同位体分析から、中期石器時代のカルング地域は、おおむねやや乾燥しており、C4植物からなる草原の優越する環境で、ヴィクトリア湖は縮小していたのではないか、と推測されています。異所性の有蹄類が集中してきたことも、こうした乾燥化によるC4草原の拡大と関連している、と指摘されています。
アフリカ東部の中期石器時代に関しては、以前には認識されていなかった北部と南部の変異が指摘されるようになってきています。本論文は、乾燥化によるC4草原の拡大などといった環境の変化にともない、他の生物と同様に人間集団も分裂・拡散したのであり、それが石器の違いにも反映されている可能性を指摘しています。カルング地域の石器群は多様な石材で製作されており、産地を推定できる黒曜石製の石器の場合、250km東方の産地のものが用いられている、との見解が提示されています。本論文は、それは中期石器時代における人間集団間の長距離交換・相互作用を示しているのではないか、と指摘しています。
気候変動にともない環境が変化すると、人間も含めて動物も移動していく、と考えるのは常識的な判断と言えるでしょう。本論文は、大規模な検証により動物化石から当時の環境を推定しており、意義深いと思います。今後のさらなる研究の進展が期待されます。遠距離の石材の利用をどう解釈するのかということは難しい問題ですが、中期石器時代には人間集団が分裂し多様化していったわけですから、集団間の交換が行なわれていた可能性が高いのではないか、と思います。
参考文献:
Faith JT. et al.(2015): Paleoenvironmental context of the Middle Stone Age record from Karungu, Lake Victoria Basin, Kenya, and its implications for human and faunal dispersals in East Africa. Journal of Human Evolution, 83, 28–45.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jhevol.2015.03.004
本論文の検証対象となるこれらの地域の中期石器時代の年代は、表面採取されたダチョウの卵殻のAMS法による放射性炭素年代測定(非較正)や、火山堆積層のウラン系列法年代測定や、凝灰岩の上下の層の光刺激ルミネッセンス法から、94000~45000年前頃と推定されています。アフリカ東部の中期石器時代は、かなりの多様性を伴うのが特徴です。その起源と終焉については、前後の時代との移行が連続的であることと、地域的な差があることなどから、まだ厳密に特定できる段階ではないだろう、と思います。
カルング地域・ルシンガ島・ムファンガノ島では、アフリカスイギュウ(Syncerus caffer)やレイヨウ(Tragelaphus scriptus)やキリン(Giraffa camelopardalis)などの大型草食哺乳類や、齧歯類などの小型哺乳類や、カメなどの爬虫類にいたるまで、大きさの異なる多様な種が発見されています。これらの歯のエナメル質の同位体分析から、中期石器時代のカルング地域は、おおむねやや乾燥しており、C4植物からなる草原の優越する環境で、ヴィクトリア湖は縮小していたのではないか、と推測されています。異所性の有蹄類が集中してきたことも、こうした乾燥化によるC4草原の拡大と関連している、と指摘されています。
アフリカ東部の中期石器時代に関しては、以前には認識されていなかった北部と南部の変異が指摘されるようになってきています。本論文は、乾燥化によるC4草原の拡大などといった環境の変化にともない、他の生物と同様に人間集団も分裂・拡散したのであり、それが石器の違いにも反映されている可能性を指摘しています。カルング地域の石器群は多様な石材で製作されており、産地を推定できる黒曜石製の石器の場合、250km東方の産地のものが用いられている、との見解が提示されています。本論文は、それは中期石器時代における人間集団間の長距離交換・相互作用を示しているのではないか、と指摘しています。
気候変動にともない環境が変化すると、人間も含めて動物も移動していく、と考えるのは常識的な判断と言えるでしょう。本論文は、大規模な検証により動物化石から当時の環境を推定しており、意義深いと思います。今後のさらなる研究の進展が期待されます。遠距離の石材の利用をどう解釈するのかということは難しい問題ですが、中期石器時代には人間集団が分裂し多様化していったわけですから、集団間の交換が行なわれていた可能性が高いのではないか、と思います。
参考文献:
Faith JT. et al.(2015): Paleoenvironmental context of the Middle Stone Age record from Karungu, Lake Victoria Basin, Kenya, and its implications for human and faunal dispersals in East Africa. Journal of Human Evolution, 83, 28–45.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jhevol.2015.03.004
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