大塚柳太郎『ヒトはこうして増えてきた 20万年の人口変遷史』

 これは9月28日分の記事として掲載しておきます。新潮選書の一冊として、新潮社から2015年7月に刊行されました。本書は、この20万年間の人口史を検証しています。人口とはいっても、対象となる人類は基本的に現生人類(Homo sapiens)のみです。本書はこの20万年間を4段階に区分しています。第1段階は、人類がまだ起源地のアフリカに留まっていた期間です。第2段階は、人類がアフリカから世界へと拡散していった期間です。125000年前頃のレヴァントへの進出にも言及されていますが、本格的な世界への拡散となった7万年前頃以降が想定されています。「成功した」出アフリカ以降が対象と言えるでしょう。もっとも、現生人類の出アフリカに関してはまだ議論が続いており、その年代・回数・経路など、まだ確定したとはとても言えない状況でしょう(関連記事)。

 第3段階は定住と農耕・牧畜の始まる時期からで、12000年前頃以降となります(もちろん、各地域により、農耕・牧畜の始まった年代には違いがあります)。なお、本書でも指摘されていますが、現在では、農耕・牧畜の前に定住が始まった、と理解されています。第3段階については、文明の始まりをもってさらに区分されており、1章設けられています。本書における文明は、文字の使用や集住(都市化)がその指標となっているようで、一般的な意味合いと言えそうです。都市の出現により、感染症の危険性が増大することになります。

 第4段階は産業革命の始まる18世紀半ば~現代までです。この第4段階において、人口が急増するとともに、人口構造も大きく変容します。じゅうらいの多産多死から多産少死を経て少産少死へと移行する、というわけです。これは、「先進国」というか、経済的に豊かな地域で進行しました。経済的に貧しい地域でも、豊かになるにつれて、こうした傾向が現れ始めているようです。現代日本社会でも大きな問題となっている、少子高齢化です。社会の高齢化の進展で、経済発展にともなう栄養状態の改善や公衆衛生の向上により低下した死亡率が、上昇する傾向も見られます。

 本書は、人類(に限らずどの生物もそうですが)には潜在的な人口増加能力があり、それは環境収容力に制限されているものの、技術革新・社会構造の変化などによりその問題を解決して人口を増大させてきた、との見通しを提示しています。しかし本書は、各推定には差があるものの、地球の環境収容力には限界があり、人口増加がかつてのイースター島のように社会の崩壊をもたらす危険性も指摘しています。じっさい、本書が指摘するように、人類史において人口は(人口増加率に時期による違いがあるとしても)単線的に増加してきたのではなく、戦乱・感染症などによる減少・停滞が生じたこともありました。

 本書は、歴史的に人口増加率や人口構成の変化が地域により異なることを指摘し、今後の人口問題として、そのことを重視しています。ヨーロッパのように近代において世界を主導した地域では、産業革命以降の人口構造の転換が比較的緩やかに進行したのにたいして、経済的に後発の地域ではそうした転換が急速に進行するので、社会不安増大の要因となり得る、というわけです。後発地域の日本も、ヨーロッパと比較するとそうした傾向がありますが、世界の大半の地域は、日本以上にそうした傾向が強くなりそうですから、今後の世界情勢の大きな懸念要因となりそうです。


参考文献:
大塚柳太郎(2015)『ヒトはこうして増えてきた 20万年の人口変遷史』(新潮社)

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