ホモ属の新種ナレディ(追記有)
新種のホモ属化石に関する研究が報道されました。ナショナルジオグラフィックでも報道されており、『ネイチャー』や『サイエンス』のサイトには解説記事が掲載されています。この新種化石群については、すでに昨年の段階で報道されていました(関連記事)。この研究は、南アフリカ共和国のライジングスター洞窟(Rising Star Cave)にあるディナレディ空洞(Dinaledi Chamber)で発見された人骨群を、形態学の観点(Berger et al., 2015)と化石成因論の観点(Dirks et al., 2015)から検証しています。「Dinaledi」とは現地のソト語で「星」という意味です。
ディナレディ空洞では、少なくとも15個体分となる約1550個の人骨が発見されており、形態と堆積状況から、単一種で構成されている、と考えられています。ディナレディ人骨群の解剖学的特徴はたいへん興味深いものでした。その脳容量は推定465cc~560ccと小さく、ホモ属の基準にはとても達していない、と言えるかもしれません。ところが、その脳の形態的特徴は、エレクトス(Homo erectus)やハビリス(Homo habilis)やルドルフェンシス(Homo rudolfensis)といった初期ホモ属種とよく似ています。
ディナレディ人骨群の手の形態も興味深く、現代人のような形態をしており、器用な動作が可能だったと窺わせる一方で、指は樹上性を示しており、肩はアウストラロピテクス属との類似性が見られます。ディナレディ人骨群の下肢、とくに足は現代人とよく似ており、現代人のように歩き走っていた可能性が指摘されています。ディナレディ人骨群の成体の推定平均身長は約150cm(男性)、体重は約40kg~56kgです。ディナレディ人骨群の推定年齢は、幼児~45歳までとさまざまです。ディナレディ人骨群には、このように祖先的特徴と現代人のような派生的特徴とが混在しており、独特な形態をしていることから、ホモ属の新種ナレディ(Homo naledi)と命名されました。
ディナレディ人骨群の骨の傷や堆積状況から、肉食獣や人類に食べられて捨てられたり、水の流れなどで蓄積されたりしたのではなく、人類、おそらくはナレディ自身が意図的に運んできた可能性が指摘されています。もっとも、だからといって、これが宗教的観念をともなう埋葬行為だった、との証拠はまだなく、どのような意味合いがあったのかは不明です。とはいえ、これを埋葬の萌芽と解釈しても的外れではないかもしれません。ただ、ナレディの年代は不明なので、ディナレディ空洞の事例が埋葬の萌芽だとしても、その画期性の評価は難しいところです。
ナレディの年代が不明なことは、ナレディの人類史における位置づけを難しくしています。ディナレディ人骨群の検証に関わった研究者たちは、ナレディは鮮新世後期~更新世初期の人骨群で、アウストラロピテクス属からホモ属への移行的な種である可能性が高い、と考えています。一方で、もっと年代がくだり、ナレディはエレクトスのような脳の大きなホモ属と共存していた可能性も想定されています。さらに、ディナレディ人骨群の検証に関わっていない研究者からは、更新世中期以降にまで年代がくだる可能性も指摘されています。
この研究でも指摘されていますが、小さな脳と一部の祖先的な形態とホモ属的な形態の混在という点で、ナレディにはホモ属とされるフロレシエンシス(Homo floresiensis)との類似性が見られます。フロレシエンシスが更新世後期~末期まで存続していたことを考えると、脳が小さいとはいえ、脳の形態自体はホモ属的なナレディの年代が更新世中期以降である可能性も、じゅうぶん考慮するに値すると思います。ともかく、ディナレディ人骨群はその豊富さからしてもたいへん貴重であることは間違いなく、今後の研究の進展が大いに期待されます。
参考文献:
Berger LR. et al.(2015): Homo naledi, a new species of the genus Homo from the Dinaledi Chamber, South Africa. eLife, 4, 09560.
http://dx.doi.org/10.7554/eLife.09560
Dirks PHGM. et al.(2015): Geological and taphonomic context for the new hominin species Homo naledi from the Dinaledi Chamber, South Africa. eLife, 4, 09561.
http://dx.doi.org/10.7554/eLife.09561
追記(2015年9月16日)
ナショナルジオグラフィックで追加報道がありました。なお、ナレディについての詳細は、今月(2015年9月)30日発売の『ナショナル ジオグラフィック日本版』2015年10月号にて、図解や写真を含めて詳しく紹介される、とのことです。
追記(2015年9月18日)
ナレディの発見と関連して、ナショナルジオグラフィックで人間の進化に関する諸見解について報道されました。
追記(2015年9月18日)
ナレディの発見と関連して、ナレディの分析に直接関わっていない研究者たちからの疑問点などがナショナルジオグラフィックで報道されました。
ディナレディ空洞では、少なくとも15個体分となる約1550個の人骨が発見されており、形態と堆積状況から、単一種で構成されている、と考えられています。ディナレディ人骨群の解剖学的特徴はたいへん興味深いものでした。その脳容量は推定465cc~560ccと小さく、ホモ属の基準にはとても達していない、と言えるかもしれません。ところが、その脳の形態的特徴は、エレクトス(Homo erectus)やハビリス(Homo habilis)やルドルフェンシス(Homo rudolfensis)といった初期ホモ属種とよく似ています。
ディナレディ人骨群の手の形態も興味深く、現代人のような形態をしており、器用な動作が可能だったと窺わせる一方で、指は樹上性を示しており、肩はアウストラロピテクス属との類似性が見られます。ディナレディ人骨群の下肢、とくに足は現代人とよく似ており、現代人のように歩き走っていた可能性が指摘されています。ディナレディ人骨群の成体の推定平均身長は約150cm(男性)、体重は約40kg~56kgです。ディナレディ人骨群の推定年齢は、幼児~45歳までとさまざまです。ディナレディ人骨群には、このように祖先的特徴と現代人のような派生的特徴とが混在しており、独特な形態をしていることから、ホモ属の新種ナレディ(Homo naledi)と命名されました。
ディナレディ人骨群の骨の傷や堆積状況から、肉食獣や人類に食べられて捨てられたり、水の流れなどで蓄積されたりしたのではなく、人類、おそらくはナレディ自身が意図的に運んできた可能性が指摘されています。もっとも、だからといって、これが宗教的観念をともなう埋葬行為だった、との証拠はまだなく、どのような意味合いがあったのかは不明です。とはいえ、これを埋葬の萌芽と解釈しても的外れではないかもしれません。ただ、ナレディの年代は不明なので、ディナレディ空洞の事例が埋葬の萌芽だとしても、その画期性の評価は難しいところです。
ナレディの年代が不明なことは、ナレディの人類史における位置づけを難しくしています。ディナレディ人骨群の検証に関わった研究者たちは、ナレディは鮮新世後期~更新世初期の人骨群で、アウストラロピテクス属からホモ属への移行的な種である可能性が高い、と考えています。一方で、もっと年代がくだり、ナレディはエレクトスのような脳の大きなホモ属と共存していた可能性も想定されています。さらに、ディナレディ人骨群の検証に関わっていない研究者からは、更新世中期以降にまで年代がくだる可能性も指摘されています。
この研究でも指摘されていますが、小さな脳と一部の祖先的な形態とホモ属的な形態の混在という点で、ナレディにはホモ属とされるフロレシエンシス(Homo floresiensis)との類似性が見られます。フロレシエンシスが更新世後期~末期まで存続していたことを考えると、脳が小さいとはいえ、脳の形態自体はホモ属的なナレディの年代が更新世中期以降である可能性も、じゅうぶん考慮するに値すると思います。ともかく、ディナレディ人骨群はその豊富さからしてもたいへん貴重であることは間違いなく、今後の研究の進展が大いに期待されます。
参考文献:
Berger LR. et al.(2015): Homo naledi, a new species of the genus Homo from the Dinaledi Chamber, South Africa. eLife, 4, 09560.
http://dx.doi.org/10.7554/eLife.09560
Dirks PHGM. et al.(2015): Geological and taphonomic context for the new hominin species Homo naledi from the Dinaledi Chamber, South Africa. eLife, 4, 09561.
http://dx.doi.org/10.7554/eLife.09561
追記(2015年9月16日)
ナショナルジオグラフィックで追加報道がありました。なお、ナレディについての詳細は、今月(2015年9月)30日発売の『ナショナル ジオグラフィック日本版』2015年10月号にて、図解や写真を含めて詳しく紹介される、とのことです。
追記(2015年9月18日)
ナレディの発見と関連して、ナショナルジオグラフィックで人間の進化に関する諸見解について報道されました。
追記(2015年9月18日)
ナレディの発見と関連して、ナレディの分析に直接関わっていない研究者たちからの疑問点などがナショナルジオグラフィックで報道されました。
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