人類の身体サイズの進化

 人類の身体サイズの進化についての研究(Grabowski et al., 2015)が報道されました。この研究は、現代人と化石人類との包括的な比較から、人類の身体サイズの進化を検証しています。この研究に関わった研究者たちは、包括的な調査であることなどから、この研究が今後当分は人類の身体サイズの進化について基準になるのではないか、と自負しているようです。近年の研究成果を総合した包括的な研究ということで、たいへん意義が大きいと言えそうです。

 この研究で注目されるのは、エレクトス(Homo erectus)ではない初期ホモ属は、それ以前の人類であるアウストラロピテクス属と比較して、身体サイズが大きく変わったわけではない、という結果が得られたことです。身体サイズが大きくなったのはエレクトスの出現からとなります。身体サイズは、食性や行動や生活史など生物の生態的地位を決める大きな要因となり得ます。これまで、初期ホモ属はそれ以前のアウストラロピテクス属と比較して、身体サイズが増大したのではないか、との見解が有力でした。

 しかしこの研究は、新たな比較・分析結果から、初期ホモ属が(おそらくは)アウストラロピテクス属から分岐したことを、身体サイズの変化ではなく、別の要因と関連づける方が妥当だろう、と主張しています。考えられるのは、身体サイズの増大を伴わないような、さまざまな進化です。たとえば、より直立二足歩行に適した解剖学的構造への進化や、認知能力の向上をもたらすような神経系の進化や、消化など何らかの生理的進化などが想定されます。

 この研究でもう一つ注目されるのは、アウストラロピテクス属などの早期人類と初期エレクトスでは、性的二型に大きな違いがなく、エレクトスでは性的二型がわずかに減少しているだけだ、との指摘です。この研究は化石人類の少なさから慎重な姿勢を示していますが、初期エレクトスの性的二型は現代人のパターンとは異なっていた可能性が高い、との見解を提示しています。性的二型は配偶形態とも関わってくるので、人類史において一夫一婦制がどのように定着してきた(主流になった)のか、考察するうえでも、この研究は重要と言えそうです。


参考文献:
Grabowski M, Hatala KG, Jungers WL, and Richmond BG.(2015): Body mass estimates of hominin fossils and the evolution of human body size. Journal of Human Evolution, 85, 75–93.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jhevol.2015.05.005

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