初期ホモ属の体格の多様性
取り上げるのが遅れましたが、初期ホモ属の体格の多様性に関する研究(Will, and Stock., 2015)が報道されました。本論文は、初期ホモ属(240万~150万年前頃)の体格を再検証しています。じゅうらいの研究では、人類の身長や体重の推定にさいして、股関節や脚といった特定の部位の骨が必要だったため、保存状態のよい人骨しか推定に使えず、少ない標本数から体格を推定していたのにたいして、この研究では、断片的な人類化石をも対象とすることで標本数を大きく増やし、時間的・地理的に広範な初期ホモ属の体格の推定が可能になった、とその意義が強調されています。
本論文は、断片的な人類化石からの体格の推定にさいして、現代の狩猟採集民800人以上の骨格を比較対象として、その精度を向上させています。本論文はその分析の結果、初期ホモ属の体格は単純に増大していくような時間的・地理的傾向を示さず、現代の人類集団のように多様だったことが判明した、と強調しています。たとえば、初期ホモ属の間で、南アフリカのある人類集団では推定平均身長が146cm程度なのにたいして、ケニアのクービフォラ(Koobi Fora)地域のある人類集団では推定平均身長が182cmにもなることが指摘されています。
本論文は、アフリカからユーラシアへの人類の進出には大柄な体格を必要としなかった、ということも強調しています。本論文の共著者の一人であるストック(Jay T. Stock)博士は、人類の進化に関する教科書では基本的に、アフリカにおいてエレクトス(Homo erectus)のような大型のホモ属が進化して初めて、人類はアフリカからユーラシアへと進出した、との見解が提示されている、と指摘しています。なお、アフリカの初期エレクトスを別種エルガスター(Homo ergaster)と分類する見解もあり、本論文ではエルガスターという区分が採用されています。
確かに、人類はエレクトスのように大型化して初めてアフリカからユーラシアへと進出した、とする見解は長年有力視されてきましたが、近年では、グルジアのドマニシ(Dmanisi)で発見された177万年前頃の人骨群の分析により、人類は大型化する前にアフリカからユーラシアへと進出したのではないか、と考えられるようになりました。本論文はそうした見解の根拠として、新たな分析により、170万年前よりもさかのぼると推定身長152.4cm以上のホモ属個体は稀であり、初期ホモ属の体格が顕著に大きくなることが初めて確認されるのは170万年前頃以降のクービフォラで発見された人骨である、と指摘しています。
初期ホモ属の多様性を強調する本論文は、クービフォラとオルドヴァイ(Olduvai)の人類化石の体格が大きく異なることから、初期更新世のアフリカ東部において、複数の系統のホモ属が存在した可能性を指摘しています。初期ホモ属として、ハビリス(Homo habilis)やルドルフェンシス(Homo rudolfensis)といった種区分も提示されており、初期ホモ属において複数の系統が存在したことは確実だと言えそうです。おそらく、ホモ属的な特徴の出現はじゅうらいの推定よりも古く280万年前頃までさかのぼり(関連記事)、当初から分岐していったためなのでしょう。ただ、初期ホモ属とはいっても断片的な人骨が多いので、そうした中には、むしろアウストラロピテクス(Australopithecus)属に分類する方が妥当かもしれないものもある、という可能性を考慮しておく必要もありそうです。
参考文献:
Will M, and Stock JT.(2015): Spatial and temporal variation of body size among early Homo. Journal of Human Evolution, 82, 15–33.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jhevol.2015.02.009
本論文は、断片的な人類化石からの体格の推定にさいして、現代の狩猟採集民800人以上の骨格を比較対象として、その精度を向上させています。本論文はその分析の結果、初期ホモ属の体格は単純に増大していくような時間的・地理的傾向を示さず、現代の人類集団のように多様だったことが判明した、と強調しています。たとえば、初期ホモ属の間で、南アフリカのある人類集団では推定平均身長が146cm程度なのにたいして、ケニアのクービフォラ(Koobi Fora)地域のある人類集団では推定平均身長が182cmにもなることが指摘されています。
本論文は、アフリカからユーラシアへの人類の進出には大柄な体格を必要としなかった、ということも強調しています。本論文の共著者の一人であるストック(Jay T. Stock)博士は、人類の進化に関する教科書では基本的に、アフリカにおいてエレクトス(Homo erectus)のような大型のホモ属が進化して初めて、人類はアフリカからユーラシアへと進出した、との見解が提示されている、と指摘しています。なお、アフリカの初期エレクトスを別種エルガスター(Homo ergaster)と分類する見解もあり、本論文ではエルガスターという区分が採用されています。
確かに、人類はエレクトスのように大型化して初めてアフリカからユーラシアへと進出した、とする見解は長年有力視されてきましたが、近年では、グルジアのドマニシ(Dmanisi)で発見された177万年前頃の人骨群の分析により、人類は大型化する前にアフリカからユーラシアへと進出したのではないか、と考えられるようになりました。本論文はそうした見解の根拠として、新たな分析により、170万年前よりもさかのぼると推定身長152.4cm以上のホモ属個体は稀であり、初期ホモ属の体格が顕著に大きくなることが初めて確認されるのは170万年前頃以降のクービフォラで発見された人骨である、と指摘しています。
初期ホモ属の多様性を強調する本論文は、クービフォラとオルドヴァイ(Olduvai)の人類化石の体格が大きく異なることから、初期更新世のアフリカ東部において、複数の系統のホモ属が存在した可能性を指摘しています。初期ホモ属として、ハビリス(Homo habilis)やルドルフェンシス(Homo rudolfensis)といった種区分も提示されており、初期ホモ属において複数の系統が存在したことは確実だと言えそうです。おそらく、ホモ属的な特徴の出現はじゅうらいの推定よりも古く280万年前頃までさかのぼり(関連記事)、当初から分岐していったためなのでしょう。ただ、初期ホモ属とはいっても断片的な人骨が多いので、そうした中には、むしろアウストラロピテクス(Australopithecus)属に分類する方が妥当かもしれないものもある、という可能性を考慮しておく必要もありそうです。
参考文献:
Will M, and Stock JT.(2015): Spatial and temporal variation of body size among early Homo. Journal of Human Evolution, 82, 15–33.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jhevol.2015.02.009
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