精神疾患と創造性との遺伝的関係
精神疾患と創造性との遺伝的関係についての研究(Power et al., 2015)が公表されました。この研究は、大規模な遺伝学的データの分析から、精神疾患と創造性とが遺伝的な根を共有していることを示唆しています。そもそも、「精神疾患」の定義が社会的規範に大きく影響を受けるだろう、という複雑で微妙な問題もありますし、この研究の見解が確証されたとまでは言えないでしょうが、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と現生人類(Homo sapiens)との比較という観点からも注目されます。
ネアンデルタール人のゲノムでは、自閉症・統合失調症・アルツハイマー病などに関わる領域のほとんどで、メチル化により遺伝子の発現が停止している、と報告されています(関連記事)。これを、ネアンデルタール人の絶滅と現生人類の繁栄という結果(非アフリカ系現代人にはネアンデルタール人のDNAがわずかながら継承されていますが)や、「芸術品」に関して豊富な現生人類と乏しいネアンデルタール人という対比(ただし、5万年前よりもさかのぼった場合、両者に決定的な差があるのか、確証が得られているとは言い難いでしょう)と関連づけたくなりますが、このネアンデルタール人のDNAメチル化地図が、ネアンデルタール人集団全体に当てはまるのかとなると、まだ判断が難しいところです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
創造性と精神病をつなぐ遺伝学
統合失調症や双極性障害といった精神疾患と創造性が、遺伝的な根を共有していることを示唆する報告が、今週のオンライン版に掲載される。研究の必要上、創造的な人物を全国的な芸術協会に属するか芸術を職業とする人と定義した。
疫学研究では、統合失調症や双極性障害を持つ人の親族には芸術家が高い割合で現れることが示されている。ただし、この関連が共通する遺伝要因によるものか共通する環境要因によるものなのかは不明である。
Kari Stefanssonおよび共同研究者は、健常もしくは統合失調症か双極性障害と診断された15万人以上を対象とした大規模な遺伝学的データを利用した。Stefanssonたちはこの研究で、高い疾患リスクと関連する遺伝的変異によって、86,292名からなるアイスランドの別の集団における疾患リスクを予測できることを発見した。また同じ遺伝的変異によって、アイスランドの集団のうち精神疾患のないものがアイスランド芸術協会(俳優、舞踏家、音楽家、美術家、作家からなる)に属するかどうかも予測することができた。
Stefanssonたちはさらに、同一の遺伝的変異によってスウェーデンの8,893名、オランダの18,452名からなる別の集団で創造的職業に携わっているかを予測できることも発見した。全ての集団におけるこの関連は、IQや教育水準、あるいは統合失調症や双極性障害を持つ人との類縁関係の近さの差異によっては説明できない。よって、ある種の精神病に対する傾向を強める遺伝的要因が、他方で、無関係な健常者の創造的素質に影響するのかもしれない。
参考文献:
Power RA. et al.(2015): Polygenic risk scores for schizophrenia and bipolar disorder predict creativity. Nature Neuroscience, 18, 7, 953–955.
http://dx.doi.org/10.1038/nn.4040
この記事へのコメント