周辺視野を広げた人類
人間と類人猿の眼窩(眼球孔)構造を比較した研究(Denion et al., 2015)が公表されました。この研究では、人間の頭蓋骨100点と類人猿の頭蓋骨120点の眼窩が比較されました。その結果、人間とテナガザルの眼窩が、チンパンジー・ボノボ・ゴリラ・オランウータンの眼窩と比較して、convergence(眼窩の入口面がどれくらい前方を向いているかという概念)が有意に低いことと、人間の眼窩は横長で、横幅と高さの比率がどの類人猿より大きいことが明らかになりました。こうした特徴により、人間は他の類人猿よりも側方視ができるようになっている、と考えられています。
またこの研究では、人間の頭蓋骨において外側眼窩縁が類人猿より後方に位置し、人間の眼球が他の類人猿よりも前方に位置していることも明らかにされています。これらの特徴により、視野を遮るものが少なくなり、眼で周辺環境を見渡す能力が高まります。この特徴は、現生人類(Homo sapiens)に、突き出た鼻の喪失といった顔の特徴の選択が起こった時の副産物として進化したのではないか、と指摘されています。また、外側眼窩縁が後方に位置するような進化は、人類が森林地帯から外へ移動したことによって生じた可能性がある、とも指摘されています。
一方、類人猿の外側眼窩縁は比較的前方に位置しており、木の枝による外傷から眼球を保護している可能性が指摘されています。また、人間の眼球が飛び出していることは、翼状片・白内障といった紫外線関連の眼疾患と広い視野とのトレードオフではないか、とも考えられています。草原地帯での生活において、視野が広いことは適応的と言えるでしょうから、そのような選択圧が生じた可能性は高そうです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
【進化】側方視をしやすくしているヒトの頭蓋骨の形態
ヒトの眼窩(眼球孔)の構造は、他の類人猿と比べて独特で、周辺視野を広げるように進化した可能性のあることを示した論文が、今週掲載される。
今回、Eric Denionたちは、ヒトの頭蓋骨(100点)と類人猿の頭蓋骨(120点)の眼窩を比較し、ヒトとテナガザルの眼窩が、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンの眼窩と比べて、convergence(眼窩の入口面がどれくらい前方を向いているかという概念)が有意に低いことを発見した。また、ヒトの眼窩は横長で、横幅と高さの比率がどの類人猿より大きいことも分かった。ヒトは、これらの特徴によって他の類人猿より側方視ができるようになっていると考えられている。
Denionたちは、ヒトの頭蓋骨において、眼窩の外縁(外側眼窩縁、LOM)が他の類人猿より後方に位置していることを報告している。一方、ヒトの眼球は他の類人猿よりも前方に位置しており、この2つの構造が組み合わさると、視野を遮るものが少なくなり、眼で周辺環境を見渡す能力が高まる。この特徴は、現生人類に顔の特徴の選択(例えば、突き出た鼻の喪失)が起こったときの副産物として進化したとDenionたちは考えている。また、Denionたちは、後方に位置するLOMの進化が、ヒトが森林地帯から外へ移動したことによって生じた可能性があるという見方を示している。森林地帯にはヒト以外の霊長類が生息し続けており、これらの類人猿のLOMは比較的前方に位置することで、木の枝による外傷から眼球を保護している可能性がある。さらにDenionたちは、ヒトの眼球が飛び出していることには、紫外線関連の眼疾患(例えば、翼状片、白内障)と広い視野とのトレードオフがあると考えている。
参考文献:
Denion E. et al.(2015): Unique human orbital morphology compared with that of apes. Scientific Reports, 5, 11528.
http://dx.doi.org/10.1038/srep11528
またこの研究では、人間の頭蓋骨において外側眼窩縁が類人猿より後方に位置し、人間の眼球が他の類人猿よりも前方に位置していることも明らかにされています。これらの特徴により、視野を遮るものが少なくなり、眼で周辺環境を見渡す能力が高まります。この特徴は、現生人類(Homo sapiens)に、突き出た鼻の喪失といった顔の特徴の選択が起こった時の副産物として進化したのではないか、と指摘されています。また、外側眼窩縁が後方に位置するような進化は、人類が森林地帯から外へ移動したことによって生じた可能性がある、とも指摘されています。
一方、類人猿の外側眼窩縁は比較的前方に位置しており、木の枝による外傷から眼球を保護している可能性が指摘されています。また、人間の眼球が飛び出していることは、翼状片・白内障といった紫外線関連の眼疾患と広い視野とのトレードオフではないか、とも考えられています。草原地帯での生活において、視野が広いことは適応的と言えるでしょうから、そのような選択圧が生じた可能性は高そうです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
【進化】側方視をしやすくしているヒトの頭蓋骨の形態
ヒトの眼窩(眼球孔)の構造は、他の類人猿と比べて独特で、周辺視野を広げるように進化した可能性のあることを示した論文が、今週掲載される。
今回、Eric Denionたちは、ヒトの頭蓋骨(100点)と類人猿の頭蓋骨(120点)の眼窩を比較し、ヒトとテナガザルの眼窩が、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンの眼窩と比べて、convergence(眼窩の入口面がどれくらい前方を向いているかという概念)が有意に低いことを発見した。また、ヒトの眼窩は横長で、横幅と高さの比率がどの類人猿より大きいことも分かった。ヒトは、これらの特徴によって他の類人猿より側方視ができるようになっていると考えられている。
Denionたちは、ヒトの頭蓋骨において、眼窩の外縁(外側眼窩縁、LOM)が他の類人猿より後方に位置していることを報告している。一方、ヒトの眼球は他の類人猿よりも前方に位置しており、この2つの構造が組み合わさると、視野を遮るものが少なくなり、眼で周辺環境を見渡す能力が高まる。この特徴は、現生人類に顔の特徴の選択(例えば、突き出た鼻の喪失)が起こったときの副産物として進化したとDenionたちは考えている。また、Denionたちは、後方に位置するLOMの進化が、ヒトが森林地帯から外へ移動したことによって生じた可能性があるという見方を示している。森林地帯にはヒト以外の霊長類が生息し続けており、これらの類人猿のLOMは比較的前方に位置することで、木の枝による外傷から眼球を保護している可能性がある。さらにDenionたちは、ヒトの眼球が飛び出していることには、紫外線関連の眼疾患(例えば、翼状片、白内障)と広い視野とのトレードオフがあると考えている。
参考文献:
Denion E. et al.(2015): Unique human orbital morphology compared with that of apes. Scientific Reports, 5, 11528.
http://dx.doi.org/10.1038/srep11528
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