中東の現代人集団の遺伝的多様性
中東の現代人集団の遺伝的多様性についての研究(Yang et al., 2014)が公表されました。この研究は、中東の代表的な2集団であるアラビア人集団・イラン人集団について、ゲノムワイドな一塩基多型(SNP)データを作成し、地球規模で比較しました。その結果、アラビア人集団・イラン人集団ともに、他の非アフリカ集団よりも全体的に高い遺伝的多様性を示すことが明らかになりました。これは、人間の移住による遺伝的混合の結果と考えられます。一方で、アラビア人集団・イラン人集団ともに、長いホモ接合性SNPの連続領域が他集団との比較で大幅に増加しており、中東における高率の近親婚が個人および集団の両方のヘテロ接合性の大きな減少をもたらしている、と考えられます。
またこの研究は、アラビア人集団・イラン人集団をアフリカ系・ヨーロッパ系・アジア系の祖先に識別し得ることも示しましたが、個々の起源集団に由来する祖先ゲノムを有意に多く含むゲノム領域は、機能的には嗅覚経路に豊富に見られたので、これらは自然選択下にあった、と考えられています。これらのことから、中東の現代人集団の遺伝的多様性の形成にさいしては、遺伝的混合・近親婚・自然選択が影響を及ぼしてきたのではないか、と示唆されています。また、この研究は進化研究と医療実践の両方において重要である、とも指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
中東における集団の遺伝的多様性に遺伝的混合および近親婚が及ぼす影響
中東(ME)は、現代人が「アフリカを出て」、ヨーロッパやアジアに分布拡大した際の重要な通路である。アフリカを出て最初に定住が起こった地域であり、その後、長期間にわたって隔離されたことにより、明確に区別される集団がそこに生じた。そして、その後のアフリカ、ヨーロッパ、アジア間でのヒトの移動においても、非常に重要な役割を担っていた地域である。したがって中東では、新たな集団混合が一般的に見られてきた。他方では、中東でのよく知られた慣例である近親婚は遺伝的多様性を減少させることが多く、これは、遺伝的混合とは逆の作用を及ぼす。本論文では、遺伝的混合と近親婚が合わさった結果、中東における集団の遺伝的多様性がどの程度の影響を受けているかについて調べた。中東の代表的な2集団(アラビア人集団およびイラン人集団)について、ゲノムワイドな一塩基多型(SNP)データを作成するとともに、それを地球規模で比較した。その結果、中東のどちらの集団も、他の非アフリカ集団よりも全体的に高い遺伝的多様性を示すことが分かった。長いホモ接合性SNPの連続領域は、他のどの集団と比べても、中東の集団で大幅に増加しており、このことは、中東における高率の近親婚が、個人および集団の両方のヘテロ接合性の大きな減少をもたらしているものと考えられた。さらに、統計的手法を用いて、中東の集団をアフリカ系、ヨーロッパ系、アジア系祖先に識別可能であり、遺伝的混合と近親婚の影響の定量化にも成功した。個々の起源集団に由来する祖先ゲノムを有意に多く含むゲノム領域は、機能的には嗅覚経路に豊富に見られたことは興味深く、これらが自然選択下にあったと考えられた。我々の知見は、遺伝的混合、近親婚、自然選択が合わさって中東の集団の遺伝的多様性が形成されたことを示唆しており、また、このような遺伝的多様性は進化研究や医療実践の両方において重要な意味を持つことが明らかである。
参考文献:
Yang X. et al.(2014): The influence of admixture and consanguinity on population genetic diversity in Middle East. Journal of Human Genetics, 59, 11, 615–622.
http://dx.doi.org/10.1038/jhg.2014.81
またこの研究は、アラビア人集団・イラン人集団をアフリカ系・ヨーロッパ系・アジア系の祖先に識別し得ることも示しましたが、個々の起源集団に由来する祖先ゲノムを有意に多く含むゲノム領域は、機能的には嗅覚経路に豊富に見られたので、これらは自然選択下にあった、と考えられています。これらのことから、中東の現代人集団の遺伝的多様性の形成にさいしては、遺伝的混合・近親婚・自然選択が影響を及ぼしてきたのではないか、と示唆されています。また、この研究は進化研究と医療実践の両方において重要である、とも指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
中東における集団の遺伝的多様性に遺伝的混合および近親婚が及ぼす影響
中東(ME)は、現代人が「アフリカを出て」、ヨーロッパやアジアに分布拡大した際の重要な通路である。アフリカを出て最初に定住が起こった地域であり、その後、長期間にわたって隔離されたことにより、明確に区別される集団がそこに生じた。そして、その後のアフリカ、ヨーロッパ、アジア間でのヒトの移動においても、非常に重要な役割を担っていた地域である。したがって中東では、新たな集団混合が一般的に見られてきた。他方では、中東でのよく知られた慣例である近親婚は遺伝的多様性を減少させることが多く、これは、遺伝的混合とは逆の作用を及ぼす。本論文では、遺伝的混合と近親婚が合わさった結果、中東における集団の遺伝的多様性がどの程度の影響を受けているかについて調べた。中東の代表的な2集団(アラビア人集団およびイラン人集団)について、ゲノムワイドな一塩基多型(SNP)データを作成するとともに、それを地球規模で比較した。その結果、中東のどちらの集団も、他の非アフリカ集団よりも全体的に高い遺伝的多様性を示すことが分かった。長いホモ接合性SNPの連続領域は、他のどの集団と比べても、中東の集団で大幅に増加しており、このことは、中東における高率の近親婚が、個人および集団の両方のヘテロ接合性の大きな減少をもたらしているものと考えられた。さらに、統計的手法を用いて、中東の集団をアフリカ系、ヨーロッパ系、アジア系祖先に識別可能であり、遺伝的混合と近親婚の影響の定量化にも成功した。個々の起源集団に由来する祖先ゲノムを有意に多く含むゲノム領域は、機能的には嗅覚経路に豊富に見られたことは興味深く、これらが自然選択下にあったと考えられた。我々の知見は、遺伝的混合、近親婚、自然選択が合わさって中東の集団の遺伝的多様性が形成されたことを示唆しており、また、このような遺伝的多様性は進化研究や医療実践の両方において重要な意味を持つことが明らかである。
参考文献:
Yang X. et al.(2014): The influence of admixture and consanguinity on population genetic diversity in Middle East. Journal of Human Genetics, 59, 11, 615–622.
http://dx.doi.org/10.1038/jhg.2014.81
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