長くなっている漁場と消費地との距離

 漁場と消費地との距離が長くなっていることを明らかにした研究(Watson et al., 2015)が公表されました。20世紀の人口増加と世界貿易の拡大で、タンパク質供給源としての魚類に対する需要が増加しました。この研究は、国連食糧農業機関が集めた世界の漁獲量データを解析し、漁場と消費地間の距離が1950年から2011年まで年々長くなってきてたことと、漁獲に必要なエネルギーが各海域の年間生産量のそれより多くの割合を占めるようになったこととを明らかにしました。

 さらにこの研究は、こうした傾向を2100年まで予測し、過去10年間と同様に漁獲量が変わらないと仮定すれば、今後の食料需要を満たすための方法は海洋魚の養殖産業の拡大しかないと結論づけています。しかし、養殖産業に関しては、養殖サケのような大型の捕食種の餌に用いる海洋由来の魚粉の使用割合を減らすという課題に直面する可能性が高い、と指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【生態】漁場と消費地がますます離れている

 海産魚類の漁場から消費地までの距離は、1950年代以降、長くなる傾向が続いていることを明らかにした論文が、今週掲載される。水産市場の拡大がこのままのペースで22世紀まで続けば、全世界の需要を満たせなくなる可能性が高い。

 20世紀の人口増加と世界貿易の拡大で、タンパク質供給源としての魚類に対する需要が増加した。漁船団の効率が技術的に向上したことが、漁業活動の拡大をもたらしたが、今後、世界の海洋が、こうした需要にどの程度対応できるのかは不透明だ。

 今回、Reg Watsonたちは、国連食糧農業機関(FAO)が集めた世界の漁獲量データを解析し、漁場と消費地間の距離が1950年から2011年まで年々長くなってきたことを明らかにした。また、Watsonたちは、現在の漁獲量を産出するために必要なエネルギーと(人工衛星データより算出した)海洋生産量を比較して、1950~2011年に漁場と消費地の間の距離が長くなることで、必要なエネルギーが各海域の年間生産量のより多くの割合を占めるようになったことを見いだした。

 また、Watsonたちは、この傾向を2100年まで予測し、過去10年間と同様に漁獲量が変わらないと仮定すれば、今後の食料需要を満たすための方法は海洋魚の養殖産業の拡大しかないと結論づけた。それでも、養殖産業は、養殖サケのような大型の捕食種の餌に用いる海洋由来の魚粉の使用割合を減らすという課題に直面する可能性が高い。



参考文献:
Watson RA. et al.(2015): Marine foods sourced from farther as their use of global ocean primary production increases. Nature Communications, 6, 7365.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms8365

この記事へのコメント

ぽよっぽ
2015年06月23日 01:24
かつて漁業が盛んな地域では、水揚げされた海産物が近くの魚屋で売られるのが当たり前の光景だったのでしょうが、今では漁業活動や、輸送海産物の鮮度を保つ技術が発達し、日本でも北海道や九州の海域で獲れたものや海外の魚(解凍したもの)がスーパーに並ぶことも珍しくありません。エネルギーの観点からすれば、必ずしも良い傾向とは言えないのですね。

回転寿司業界では自社の生け簀で育てた魚を提供していたり、近大マグロのように、大学までもが養殖に取り組む時代。手間はかかるけど安全性では優れているのが養殖の利点ですが、漁獲量が大幅に増加しない限り、人類の食糧をまかなうために養殖産業に頼ることが良いことと言えるのか、判断が難しいところです。
2015年06月23日 06:54
食と環境は、人類にとって今後の大問題ですね。

養殖産業にどこまで頼るのかも、判断の難しいところだと思います。

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