ジャワ島の末期エレクトスの年代
取り上げるのがたいへん遅くなってしまいましたが、ジャワ島の後期~末期エレクトス(Homo erectus)の年代に関する研究(Indriati et al., 2011)が報道されました。かつて、本論文の著者の何人かも共著者となった論文(Swisher et al.,1996)において、ンガンドン(Ngandong)とサンブンマチャン(Sambungmacan)というエレクトス化石の発見された遺跡と、動物化石の発見されたそれらと同年代と考えられるジガー(Jigar)遺跡の、電子スピン共鳴法(ESR)とウラン系列法(U-series)による推定年代が50000~35000年前頃と主張されました。
この新たな推定年代の頃には、現生人類(Homo sapiens)がすでに東南アジアにまで到達していたと考えられるので、現生人類アフリカ単一起源説と整合的というか、現生人類多地域進化説に否定的な研究結果と解釈されました。しかし、この新たな推定年代は、ジャワ島の他地域やアフリカの最後のエレクトスの痕跡(100万年前頃)よりもはるかに新しく、30万年前頃かそれよりも古い北東アジアのエレクトスよりもずっと新しくなることもあって、後世の動物遺骸の嵌入ではないのか、と疑問も呈されていました。
そこで本論文は、電子スピン共鳴法とウラン系列法に加えて、アルゴン-アルゴン法を用いて、ンガンドン遺跡とジガー遺跡の新たな推定年代を提示しています。ンガンドン遺跡とジガー遺跡は、ともにジャワ島中央部ソロ川流域に位置しています。アルゴン-アルゴン法では火山噴火物である軽石が、電子スピン共鳴法とウラン系列法では動物の歯や骨が年代測定されます。ンガンドン遺跡とジガー遺跡の年代は、アルゴン-アルゴン法で一致し、電子スピン共鳴法およびウラン系列法でも一致しました。
しかし、アルゴン-アルゴン法による年代と、電子スピン共鳴法およびウラン系列法による年代は、大きく異なりました。前者が546000±12000年前という平均年代なのに対して、後者は143000+2000/-1700年前となります。この矛盾について、軽石がもっと古い層から動いてきた可能性と、動物の遺骸が遺跡の年代よりも新しい層から水流の作用により動いてきた可能性が考えられます。本論文は、軽石の堆積状況から、それが起きたのは火山噴火の少し後かほぼ同時であり、アルゴン-アルゴン法による年代は遺跡の上限年代を示しているのではないか、と指摘しています。
一方、ウラン系列法による年代については、ほとんどの標本にウランの溶脱の可能性が考えられることから、その推定年代は実際よりもかなり新しく出ているかもしれない、と指摘されています。ただそれでも、電子スピン共鳴法による年代の問題は残ります。本論文は、上述したように後世の動物の遺骸が動いてきた可能性も想定していますが、明確な結論は提示せず、ンガンドン遺跡とジガー遺跡は、上限年代が546000年前頃、下限年代が143000年前頃である、とする慎重な姿勢を示しています。
ただいずれにしても、ジャワ島の後期~末期エレクトスの推定年代は以前よりもずっと新しくなり、本論文は、東南アジアにおけるエレクトスと現生人類との共存はなかっただろう、との見解を提示しています。本論文は、ジャワ島の後期~末期エレクトスは、現生人類やネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と同時代の存在なのではなく、ヨーロッパのハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)や、エチオピアのボド(Bodo)人のような古代型サピエンスと同時代の存在だったのではないか、と指摘しています。
本論文は、インドネシア領フローレス島のリアンブア洞窟の更新世後期~末期の人類であるフロレシエンシス(Homo floresiensis)についても言及しています。東南アジアのエレクトスの絶滅年代が繰り上がるとしたら、東南アジアのエレクトスから派生したと考えられる(異論もあります)フロレシエンシスとの間の空白期間がさらに広がるのではないか、というわけです。ただ、フローレス島には100万年以上前から人類の痕跡が確認されているので、フロレシエンシスがそうした人類集団の子孫だとしたら、本論文の見解が妥当だとしても、とくに問題はないと思います。ただ、フローレス島において人類集団が100万年以上ずっと継続していたのかというと、まだ確証はないようです(関連記事)。
参考文献:
Indriati E, Swisher CC III, Lepre C, Quinn RL, Suriyanto RA, et al. (2011) The Age of the 20 Meter Solo River Terrace, Java, Indonesia and the Survival of Homo erectus in Asia. PLoS ONE 6(6): e21562.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0021562
Swisher CCIII. et al.(1996): Latest Homo erectus of Java: Potential Contemporaneity with Homo sapiens in Southeast Asia. Science, 274, 5294, 1870-1874.
http://dx.doi.org/10.1126/science.274.5294.1870
この新たな推定年代の頃には、現生人類(Homo sapiens)がすでに東南アジアにまで到達していたと考えられるので、現生人類アフリカ単一起源説と整合的というか、現生人類多地域進化説に否定的な研究結果と解釈されました。しかし、この新たな推定年代は、ジャワ島の他地域やアフリカの最後のエレクトスの痕跡(100万年前頃)よりもはるかに新しく、30万年前頃かそれよりも古い北東アジアのエレクトスよりもずっと新しくなることもあって、後世の動物遺骸の嵌入ではないのか、と疑問も呈されていました。
そこで本論文は、電子スピン共鳴法とウラン系列法に加えて、アルゴン-アルゴン法を用いて、ンガンドン遺跡とジガー遺跡の新たな推定年代を提示しています。ンガンドン遺跡とジガー遺跡は、ともにジャワ島中央部ソロ川流域に位置しています。アルゴン-アルゴン法では火山噴火物である軽石が、電子スピン共鳴法とウラン系列法では動物の歯や骨が年代測定されます。ンガンドン遺跡とジガー遺跡の年代は、アルゴン-アルゴン法で一致し、電子スピン共鳴法およびウラン系列法でも一致しました。
しかし、アルゴン-アルゴン法による年代と、電子スピン共鳴法およびウラン系列法による年代は、大きく異なりました。前者が546000±12000年前という平均年代なのに対して、後者は143000+2000/-1700年前となります。この矛盾について、軽石がもっと古い層から動いてきた可能性と、動物の遺骸が遺跡の年代よりも新しい層から水流の作用により動いてきた可能性が考えられます。本論文は、軽石の堆積状況から、それが起きたのは火山噴火の少し後かほぼ同時であり、アルゴン-アルゴン法による年代は遺跡の上限年代を示しているのではないか、と指摘しています。
一方、ウラン系列法による年代については、ほとんどの標本にウランの溶脱の可能性が考えられることから、その推定年代は実際よりもかなり新しく出ているかもしれない、と指摘されています。ただそれでも、電子スピン共鳴法による年代の問題は残ります。本論文は、上述したように後世の動物の遺骸が動いてきた可能性も想定していますが、明確な結論は提示せず、ンガンドン遺跡とジガー遺跡は、上限年代が546000年前頃、下限年代が143000年前頃である、とする慎重な姿勢を示しています。
ただいずれにしても、ジャワ島の後期~末期エレクトスの推定年代は以前よりもずっと新しくなり、本論文は、東南アジアにおけるエレクトスと現生人類との共存はなかっただろう、との見解を提示しています。本論文は、ジャワ島の後期~末期エレクトスは、現生人類やネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と同時代の存在なのではなく、ヨーロッパのハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)や、エチオピアのボド(Bodo)人のような古代型サピエンスと同時代の存在だったのではないか、と指摘しています。
本論文は、インドネシア領フローレス島のリアンブア洞窟の更新世後期~末期の人類であるフロレシエンシス(Homo floresiensis)についても言及しています。東南アジアのエレクトスの絶滅年代が繰り上がるとしたら、東南アジアのエレクトスから派生したと考えられる(異論もあります)フロレシエンシスとの間の空白期間がさらに広がるのではないか、というわけです。ただ、フローレス島には100万年以上前から人類の痕跡が確認されているので、フロレシエンシスがそうした人類集団の子孫だとしたら、本論文の見解が妥当だとしても、とくに問題はないと思います。ただ、フローレス島において人類集団が100万年以上ずっと継続していたのかというと、まだ確証はないようです(関連記事)。
参考文献:
Indriati E, Swisher CC III, Lepre C, Quinn RL, Suriyanto RA, et al. (2011) The Age of the 20 Meter Solo River Terrace, Java, Indonesia and the Survival of Homo erectus in Asia. PLoS ONE 6(6): e21562.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0021562
Swisher CCIII. et al.(1996): Latest Homo erectus of Java: Potential Contemporaneity with Homo sapiens in Southeast Asia. Science, 274, 5294, 1870-1874.
http://dx.doi.org/10.1126/science.274.5294.1870
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