哺乳類と双弓類で独立に生じた鼓膜

 哺乳類と双弓類(爬虫類と鳥類)で独立に生じた鼓膜の発生遺伝学的基盤に関する研究(Kitazawa et al., 2015)が公表されました。化石証拠から、哺乳類と双弓類は共通祖先から分岐した後にそれぞれ独自に中耳を獲得した、という見解が提示されていますが、その発生学的基盤はよく分かっていませんでした。この研究は、下顎領域が上顎に変化するような変異を導入することにより、マウスでは中耳形成に重要な遺伝子が抑制されて鼓膜が消失する一方、ニワトリでは鼓膜が重複して発生することを明らかにしました。また、詳細な解剖学的解析から、一次顎関節と第一咽頭嚢の相対的位置が哺乳類と双弓類では異なり、鼓膜形成が哺乳類では下顎領域、双弓類では上顎領域と連関していることが明らかになりました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


哺乳類と双弓類で独立に起こった鼓膜の起源に関わる発生遺伝学的基盤

 有羊膜類の中耳は進化的新規形態の古典的な例である。化石証拠から、哺乳類と双弓類(爬虫類と鳥類)は共通祖先からの分岐後にそれぞれ独自に中耳を獲得したという考えが提唱されているが、このような変化の発生学的基盤は分かっていなかった。今回我々は、エンドセリン1-Dlx5/6カスケードの不活化実験によって下顎領域が上顎に変化するような変異を導入すると、マウスでは中耳形成に重要なGoosecoid遺伝子が抑制されて鼓膜が消失する一方、ニワトリでは鼓膜が重複して発生することを明らかにした。さらに、詳細な解剖学的解析から、一次顎関節と第一咽頭嚢の相対的位置が哺乳類と双弓類では異なり、鼓膜形成がそれぞれ下顎領域、上顎領域と連関していることが示された。我々の研究結果から、咽頭弓の骨格要素の繋がり方の違いが形態の多様性の引き金となり、有羊膜類の進化において異なる2つの鼓膜の成立に至ったことが示唆される



参考文献:
Kitazawa T. et al.(2015): Developmental genetic bases behind the independent origin of the tympanic membrane in mammals and diapsids. Nature Communications, 6, 6853.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms7853

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック