DNAメチル化による脳の発達における性差

 DNAメチル化による脳の発達における性差についての研究(Nugent et al., 2015)が公表されました。脳の特定の領域では、著しい性差が見られます。哺乳類の胎児の発達過程において精巣由来のホルモンにさらされると、多数の雄性関連遺伝子が発現するなどして、脳は雄としての特徴を有するようになります。しかし、そうした遺伝子が雄でのみ発現し、雌では休止する仕組みについては明らかではありませんでした。

 この研究は、雄性関連遺伝子のDNAメチル化が、雌ラットの脳では発生における特定の「臨界点」で増加していることを明らかにしています。またこの研究は、雄性ホルモンが、DNAにメチル基を付加する酵素であるDNAメチルトランスフェラーゼの活性を減少させることも明らかにしました。この酵素の活性を雌ラットの脳発達期に阻害したところ、そのラットは雄に似た遺伝子発現の様相と性的行動を示した、とこの研究では報告されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


メチル化はラットが自らの雌的側面を示す助けをする

 雌の脳が適正に発達するよう維持するのに、鍵となる雄性関連遺伝子のメチル化依存の休止(サイレンシング)が関わるという報告が、今週掲載される。この研究結果は、哺乳類の性差の起源と仕様を制御する仕組みについての洞察をもたらすものである。

 脳のある領域は雌雄で極めて異なる遺伝子発現と神経接続を示す。哺乳類の胎児の発達過程において精巣由来のホルモンにさらされると、多数の雄性関連遺伝子が発現するなど脳には雄としての性格付けが誘導される。これらの遺伝子が雄でのみ発現し、雌では休止する仕組みについては分かっていない。

 Bridget Nugentおよび共同研究者は今回、齧歯類で交尾行動のある側面を調節する脳領域である視索前野を観察し、雄性関連遺伝子のDNAメチル化(遺伝子発現を変更する過程)が、雌ラットの脳では発生における特定の「臨界点」で増加していると報告している。それに加えて、雄性ホルモンがDNAメチルトランスフェラーゼ(Dnmt)の活性を減少させることも発見した。この酵素は、DNAにメチル基を付加するものである。NugentらがDnmtの活性を雌ラットの脳発達期に阻害したところ、そのラットは雄に似た遺伝子発現の様相と性的行動を示した。



参考文献:
Nugent BM. et al.(2015): Brain feminization requires active repression of masculinization via DNA methylation. Nature Neuroscience, 18, 5, 690–697.
http://dx.doi.org/10.1038/nn.3988

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