アウストラロピテクス属の新種(追記有)
エチオピアのアファール地方のウォランソミレ(Woranso–Mille)研究地域で発見された上顎と下顎に関する研究(Haile-Selassie et al., 2015)が報道されました。ナショナルジオグラフィックでも報道されています。上顎は2011年3月4日に、下顎はその2km東方で同日~翌日にかけて発見されました。上顎はすぐ近くで発見された1個の歯を除いて一つながりの状態で発見されましたが、下顎は2個に割れており、相互に2m離れた場所で発見されました。放射性・古地磁気年代測定法により、これらの上顎と下顎の年代は350万~330万年前頃と推定されています。
これらの上顎と下顎には、パラントロプス属やホモ属と関連づけられてきた特徴が見られることなどから、アウストラロピテクス属でもアファレンシス(Australopithecus afarensis)とは異なる新種デイレメダ(Australopithecus deyiremeda)と命名されました。デイレメダとは、アファール語で「近い親戚」という意味です。400万~300万年前頃の人類にはアファレンシス1種しか存在せず、アファレンシスからホモ属へとつながる系統や、いわゆる頑丈型猿人がその後に分岐していった、という見解が長い間有力でした。
しかし、新たに発見されたこの年代の人類化石のなかには、アファレンシスではなく新種だと提唱されるものもありました。たとえば、アウストラロピテクス属でもアファレンシスとは異なる新種とされたバーレルガザリ(Australopithecus bahrelghazali)や、新たに提案されたケニアントロプス属という区分のプラティオプス(Kenyanthropus platyops)です。しかし、それらの新種とされた人類化石は、アファレンシスの変異幅に収まるのではないか、との異論も根強く存在しました。
本論文は、デイレメダと命名された上顎と下顎の発見により、バーレルガザリやプラティオプスという種区分を認めないとしても、エチオピアのアファール地方には同時代に少なくとも2種が共存していたことは確定した、とその意義を強調しています。ただ、アファレンシスとデイレメダは本当に異なる種と分類できるのか、疑問視する研究者もいます。なお、400万~300万年前頃には、アフリカ南部においても、アファレンシスとは異なるアウストラロピテクス属が存在した(367万年前頃)と主張されています(関連記事)。この年代については、まだ確定したとは言えないかもしれませんが、ともかく、アウストラロピテクス属はその初期より多様に分岐していった可能性が高そうです。
デイレメダと命名された上顎と下顎の発見場所の近くでは、年代の近い人類の足の化石が発見されており、アファレンシスとは異なる特徴を有している、との見解が提示されています(関連記事)。ただ、この足の化石については、デイレメダと命名された上顎と下顎との明確な関連がまだ見つけられていないため、デイレメダには分類されていません。この足の化石の人類が将来デイイレメダに分類されるのか否かはさておくとしても、中期鮮新世のアファール地方に複数の人類種が共存した可能性は高そうだ、と言えるでしょう。そうすると、アファレンシスとデイレメダがどのように共存していたのか、ということが問題となります。歯の分析からは、アファレンシスとデイレメダの食性が異なっていた可能性が指摘されているので、それが共存を可能とした一因なのかもしれません。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
古人類学:中期鮮新世ヒト族の多様性をさらに高めるエチオピア産の新種化石
古人類学:中期鮮新世のヒト族の多様性がさらに拡大
中期鮮新世(約350万~330万年前)は、アフリカに生息していたヒト族にとって極めて重要な時期だったと思われる。当時のアフリカには複数のヒト族種が存在しており、またこの時期には道具の使用が始まるとともに、おそらくはヒト属が出現したと考えられている。今回Y Haile-Selassieたちは、新たな中期鮮新世ヒト族としてAustralopithecus deyiremedaを報告している。このヒト族種は、「ルーシー」に代表されるアウストラロピテクス・アファレンシス(Australopithecus afarensis)や、ケニアで見つかったケニアントロプス・プラティオプス(Kenyanthropus platyops)をはじめとする他のヒト族種とほぼ同時期にエチオピアに存在していた。その形態は、より新しいパラントロプス属やヒト属などとこれまで関連付けられていた一部の歯の特徴が、従来考えられていたよりも早く出現したことを示唆している。
参考文献:
Haile-Selassie Y. et al.(2015): New species from Ethiopia further expands Middle Pliocene hominin diversity. Nature, 521, 7553, 483–488.
http://dx.doi.org/10.1038/nature14448
追記(2015年8月18日)
本論文の解説記事の日本語訳が公開されました。
これらの上顎と下顎には、パラントロプス属やホモ属と関連づけられてきた特徴が見られることなどから、アウストラロピテクス属でもアファレンシス(Australopithecus afarensis)とは異なる新種デイレメダ(Australopithecus deyiremeda)と命名されました。デイレメダとは、アファール語で「近い親戚」という意味です。400万~300万年前頃の人類にはアファレンシス1種しか存在せず、アファレンシスからホモ属へとつながる系統や、いわゆる頑丈型猿人がその後に分岐していった、という見解が長い間有力でした。
しかし、新たに発見されたこの年代の人類化石のなかには、アファレンシスではなく新種だと提唱されるものもありました。たとえば、アウストラロピテクス属でもアファレンシスとは異なる新種とされたバーレルガザリ(Australopithecus bahrelghazali)や、新たに提案されたケニアントロプス属という区分のプラティオプス(Kenyanthropus platyops)です。しかし、それらの新種とされた人類化石は、アファレンシスの変異幅に収まるのではないか、との異論も根強く存在しました。
本論文は、デイレメダと命名された上顎と下顎の発見により、バーレルガザリやプラティオプスという種区分を認めないとしても、エチオピアのアファール地方には同時代に少なくとも2種が共存していたことは確定した、とその意義を強調しています。ただ、アファレンシスとデイレメダは本当に異なる種と分類できるのか、疑問視する研究者もいます。なお、400万~300万年前頃には、アフリカ南部においても、アファレンシスとは異なるアウストラロピテクス属が存在した(367万年前頃)と主張されています(関連記事)。この年代については、まだ確定したとは言えないかもしれませんが、ともかく、アウストラロピテクス属はその初期より多様に分岐していった可能性が高そうです。
デイレメダと命名された上顎と下顎の発見場所の近くでは、年代の近い人類の足の化石が発見されており、アファレンシスとは異なる特徴を有している、との見解が提示されています(関連記事)。ただ、この足の化石については、デイレメダと命名された上顎と下顎との明確な関連がまだ見つけられていないため、デイレメダには分類されていません。この足の化石の人類が将来デイイレメダに分類されるのか否かはさておくとしても、中期鮮新世のアファール地方に複数の人類種が共存した可能性は高そうだ、と言えるでしょう。そうすると、アファレンシスとデイレメダがどのように共存していたのか、ということが問題となります。歯の分析からは、アファレンシスとデイレメダの食性が異なっていた可能性が指摘されているので、それが共存を可能とした一因なのかもしれません。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
古人類学:中期鮮新世ヒト族の多様性をさらに高めるエチオピア産の新種化石
古人類学:中期鮮新世のヒト族の多様性がさらに拡大
中期鮮新世(約350万~330万年前)は、アフリカに生息していたヒト族にとって極めて重要な時期だったと思われる。当時のアフリカには複数のヒト族種が存在しており、またこの時期には道具の使用が始まるとともに、おそらくはヒト属が出現したと考えられている。今回Y Haile-Selassieたちは、新たな中期鮮新世ヒト族としてAustralopithecus deyiremedaを報告している。このヒト族種は、「ルーシー」に代表されるアウストラロピテクス・アファレンシス(Australopithecus afarensis)や、ケニアで見つかったケニアントロプス・プラティオプス(Kenyanthropus platyops)をはじめとする他のヒト族種とほぼ同時期にエチオピアに存在していた。その形態は、より新しいパラントロプス属やヒト属などとこれまで関連付けられていた一部の歯の特徴が、従来考えられていたよりも早く出現したことを示唆している。
参考文献:
Haile-Selassie Y. et al.(2015): New species from Ethiopia further expands Middle Pliocene hominin diversity. Nature, 521, 7553, 483–488.
http://dx.doi.org/10.1038/nature14448
追記(2015年8月18日)
本論文の解説記事の日本語訳が公開されました。
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