青銅器時代のヨーロッパにおける男性の人口史

 ヨーロッパにおける男性の人口史についての研究(Batini et al., 2015)が報道されました。これまで、(わずかに組み換えはあるものの基本的には)父系遺伝となるY染色体のDNAや、母系遺伝となるミトコンドリアDNAや、(Y染色体を除く、父系・母系双方からの遺伝となる)核内DNAの分析から、現代ヨーロッパ人は旧石器時代の狩猟採集民集団または新石器時代の農耕民の子孫であり、1万年前頃に始まる人口変動を反映していた、と推測されてきました。

 この研究は、17のヨーロッパおよび中東の集団の、334人の男性のY染色体の男性特定領域のDNA370万塩基の再配列により、ヨーロッパにおける男性の人口史を復元しています。その結果、対象とした標本のおよそ2/3(64%)となる主要3系統(I1・R1a・R1b)の合着年代は、それぞれ7300~3500年前の範囲に収まることが明らかになりました。このことから、青銅器時代のヨーロッパにおいて、男性人口の拡大があったのではないか、と推測されています。具体的に見ていくと、この主要3系統の割合は、ヨーロッパ中央~西部にかけて高く、バルカン半島(ギリシアやセルビア)で低くなっています。

 この人口史は、ミトコンドリアDNAから推測されるヨーロッパの人口史とは対照的となります。本論文はこの要因として、青銅器時代における文化変化との関連を示唆しています。それは、埋葬の在り様や乗馬の普及や武器の発達といった変化です。しかし、本論文の筆頭著者のバティニ(Chiara Batini)博士は、青銅器時代の文化的複雑さを考慮して、そうした青銅器時代の文化変容と男性の拡大を直ちに関連づけることには慎重です。バティニ博士は、青銅器時代の古人骨のDNA解析が、青銅器時代のヨーロッパの人口史の解明に役立つのではないか、との展望を提示しています。

 地理的拡散にさいして男性が中心となり、移住先で先住民男性を圧倒しつつも、先住民の女性と融合していくような場合には、父系と母系とで人口史が異なる様相を示すことがあり得ます。もちろん、他にもさまざまな可能性は想定されるわけですが、この研究で示されたヨーロッパの事例の解釈が妥当なのだとすると、ヨーロッパにおいて青銅器時代以降に男性が中心になって拡大活動が行なわれ、しばしば征服的な様相があった、ということを示しているのかもしれません。その意味でも、ヨーロッパの男性の人口史と青銅器時代の文化変容との関連を指摘する見解は興味深いものです。


参考文献:
Batini C. et al.(2015): Large-scale recent expansion of European patrilineages shown by population resequencing. Nature Communications, 6, 7152.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms8152

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