アファレンシスの性的二型
アウストラロピテクス属のアファレンシス(Australopithecus afarensis)の性的二型に関する研究(Reno, and Lovejoy., 2015)が報道されました。性的二型は人間も含めて性別のある生物に見られるもので、その様相と程度は社会構造を推測する手がかりになり得ます。たとえば、身体と犬歯のサイズでの性差が著しく、男性の方が女性よりもずっと大きいような場合は、男性間の繁殖競争が厳しいことが多く、ハーレム社会を形成することがあります。人間の近縁種であるゴリラはその代表例です。
ゴリラよりも人間に近縁なチンパンジーでは、身体サイズの性差がゴリラよりも小さくなっています。現代人の性差も、身体や犬歯のサイズに関してはゴリラよりずっと小さく、人間社会が基本的には一夫一婦制を長期間保ってきたこととも関係があるようです。現代人の性的二型は、髭などに現れています。ホモ属では身体サイズの性差が小さく、その社会では一夫一婦制の傾向が強かったようですが、ホモ属の祖先の有力候補であるアファレンシスの性的二型、とくに身体サイズに関しては、大きかったとする説が有力ではあるものの、小さかったとする見解も提示されていました。なお、犬歯に関しては、アファレンシスにおいて顕著な性差はないそうです。
本論文は、アファレンシスの化石を再検証することにより、アファレンシスの性的二型はさほど大きくなく、現代人と類似していた、との見解を提示しています。注目されるのは、アファレンシス化石でもとくに有名なルーシー(Lucy)と呼ばれる個体(A.L. 288-1)についての評価です。ルーシーは女性と考えられてきましたが、ホモ属において脳が巨大化する前の人類の骨盤は性別を見分けるのに容易ではない、などの理由から、ルーシーが女性ではなかった可能性が提示されています。
また、ルーシーの保存状況がたいへん良好だったことから、約106cmの身長などといった特徴がそのままアファレンシスの一般的特徴だと想定されてきましたが、アファレンシスには身長が152~167cm程度の個体(A.L. 333)も存在しており(関連記事)、アファレンシスの体格の変異幅に関しては、ルーシーが最小級で「A.L. 333」が最大級だったのであり、平均的なアファレンシスはその中間だったのではないか、という可能性が指摘されています。ちなみに、「A.L. 333」の愛称はカダヌームー(Kadanuumuu)です。
ただ、アファレンシスは60万~70万年間という長期間存続した種であり、化石記録の年代差が大きいので、時間の経過とともに身体サイズが変わっていった可能性も、本論文は指摘しています。アファレンシスの身体サイズにはさほど性差が見られず、現代人とさほど変わらなかったのだとすると、アファレンシスの社会では一夫一婦制が確立していたのかもしれません。アファレンシスがホモ属の母胎だったのか、確定したとは言い難いのですが、そうではないとしても、アファレンシスの近縁系統からホモ属が出現した可能性が高そうですから、現代人の一夫一婦制はホモ属の出現前から継承してきたものなのかもしれません。
参考文献:
Reno PL, Lovejoy CO. (2015) From Lucy to Kadanuumuu: balanced analyses of Australopithecus afarensis assemblages confirm only moderate skeletal dimorphism. PeerJ 3:e925.
https://dx.doi.org/10.7717/peerj.925
ゴリラよりも人間に近縁なチンパンジーでは、身体サイズの性差がゴリラよりも小さくなっています。現代人の性差も、身体や犬歯のサイズに関してはゴリラよりずっと小さく、人間社会が基本的には一夫一婦制を長期間保ってきたこととも関係があるようです。現代人の性的二型は、髭などに現れています。ホモ属では身体サイズの性差が小さく、その社会では一夫一婦制の傾向が強かったようですが、ホモ属の祖先の有力候補であるアファレンシスの性的二型、とくに身体サイズに関しては、大きかったとする説が有力ではあるものの、小さかったとする見解も提示されていました。なお、犬歯に関しては、アファレンシスにおいて顕著な性差はないそうです。
本論文は、アファレンシスの化石を再検証することにより、アファレンシスの性的二型はさほど大きくなく、現代人と類似していた、との見解を提示しています。注目されるのは、アファレンシス化石でもとくに有名なルーシー(Lucy)と呼ばれる個体(A.L. 288-1)についての評価です。ルーシーは女性と考えられてきましたが、ホモ属において脳が巨大化する前の人類の骨盤は性別を見分けるのに容易ではない、などの理由から、ルーシーが女性ではなかった可能性が提示されています。
また、ルーシーの保存状況がたいへん良好だったことから、約106cmの身長などといった特徴がそのままアファレンシスの一般的特徴だと想定されてきましたが、アファレンシスには身長が152~167cm程度の個体(A.L. 333)も存在しており(関連記事)、アファレンシスの体格の変異幅に関しては、ルーシーが最小級で「A.L. 333」が最大級だったのであり、平均的なアファレンシスはその中間だったのではないか、という可能性が指摘されています。ちなみに、「A.L. 333」の愛称はカダヌームー(Kadanuumuu)です。
ただ、アファレンシスは60万~70万年間という長期間存続した種であり、化石記録の年代差が大きいので、時間の経過とともに身体サイズが変わっていった可能性も、本論文は指摘しています。アファレンシスの身体サイズにはさほど性差が見られず、現代人とさほど変わらなかったのだとすると、アファレンシスの社会では一夫一婦制が確立していたのかもしれません。アファレンシスがホモ属の母胎だったのか、確定したとは言い難いのですが、そうではないとしても、アファレンシスの近縁系統からホモ属が出現した可能性が高そうですから、現代人の一夫一婦制はホモ属の出現前から継承してきたものなのかもしれません。
参考文献:
Reno PL, Lovejoy CO. (2015) From Lucy to Kadanuumuu: balanced analyses of Australopithecus afarensis assemblages confirm only moderate skeletal dimorphism. PeerJ 3:e925.
https://dx.doi.org/10.7717/peerj.925
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