Dario Maestripieri『ゲームをするサル 進化生物学からみた「えこひいき」の起源』
ダリオ=マエストリピエリ(Dario Maestripieri)著、河合信和訳で、雄山閣より2015年3月に刊行されました。原書の刊行は2012年です。本書は、自然淘汰が現代人の行動に影響を及ぼしている、という見解を前提として、人間の社会行動が進化的に選択されてきたものであることを解説しています。社会行動はある程度遺伝子に支配され、自然淘汰によって進化したのであり、現代人の多くは技術的に発達した産業社会で暮らしているとしても、その社会行動の大半は、数百万年前に進化したのと同じ問題に適応し、それに基づいて解決している、というわけです。
人間の社会行動は長い進化の過程で選択されてきたものなので、人間も含まれる霊長類をはじめとして、他の動物と共通するものが多くあります。一方で、人間の祖先系統が現生種で最も近縁なチンパンジー・ボノボの祖先系統と分岐した後に、とくに発達した社会行動(の基盤となる遺伝的変異)もあるだろう、と本書では指摘されています。本書の比重は、他の動物と共通する人間の社会行動の方に置かれており、人間が他の動物と共通祖先を有しているということが、改めて確認されます。
現代人のように社会的で競争の激しい種にとって、生存と繁殖という問題の主要な根源は、捕食動物や食物の欠乏や厳しい気候よりも、他の人間との関係にある、と本書は指摘します。そのため本書は、対人関係における人間の行動の解説に重点を置いています。そのさいに、職場の人事やスターの話題など、身近であるか現代社会では気軽に情報を得ることのできる人間関係・行動の具体例を挙げているのが、本書の特徴となっています。一般向け書籍であることを強く意識してのことなのでしょう。
本書の副題にもある「えこひいき(ネポチズム)」とは、非血縁者を犠牲にして、自らの血縁者を身びいきすることで、他の霊長類に見られる社会行動である、と本書は指摘しています。もっとも、人間社会においてそうした「えこひいき」の対象範囲はより広がった、とも言えそうで、擬制的な血縁関係や地縁関係や師弟関係などでも見られます。本書は、イタリア生まれの著者が実際に経験したイタリアのネポチズムについて、やや詳しく紹介しています。
優位・劣位関係についての本書の解説は、なかなか興味深いと思います。優位・劣位関係は人間の全ての社会的関係のなかでも枢要な要素であり、毎日の社会生活のあらゆる面に広く見られる影響力を備え、人間もその他の霊長類も、必ずしもそうと意識しているわけではないものの、優位・劣位関係にいつも捕われており、日常生活では誰もが、ある時点での関係性により優位者でも服従者でもあり得る、と本書は指摘します。優位・劣位関係は人間の本性に定着しているので、それを考慮せずに社会的関係を営めるという考えは非現実的だ、と指摘する本書は、その代わりとして、誰もが自分自身の潜在能力を全開できるような仕組みを準備することが必要だ、と提言しています。
参考文献:
Maestripieri D.著(2015)、河合信和訳『ゲームをするサル 進化生物学からみた「えこひいき」の起源』(雄山閣、原書の刊行は2012年)
人間の社会行動は長い進化の過程で選択されてきたものなので、人間も含まれる霊長類をはじめとして、他の動物と共通するものが多くあります。一方で、人間の祖先系統が現生種で最も近縁なチンパンジー・ボノボの祖先系統と分岐した後に、とくに発達した社会行動(の基盤となる遺伝的変異)もあるだろう、と本書では指摘されています。本書の比重は、他の動物と共通する人間の社会行動の方に置かれており、人間が他の動物と共通祖先を有しているということが、改めて確認されます。
現代人のように社会的で競争の激しい種にとって、生存と繁殖という問題の主要な根源は、捕食動物や食物の欠乏や厳しい気候よりも、他の人間との関係にある、と本書は指摘します。そのため本書は、対人関係における人間の行動の解説に重点を置いています。そのさいに、職場の人事やスターの話題など、身近であるか現代社会では気軽に情報を得ることのできる人間関係・行動の具体例を挙げているのが、本書の特徴となっています。一般向け書籍であることを強く意識してのことなのでしょう。
本書の副題にもある「えこひいき(ネポチズム)」とは、非血縁者を犠牲にして、自らの血縁者を身びいきすることで、他の霊長類に見られる社会行動である、と本書は指摘しています。もっとも、人間社会においてそうした「えこひいき」の対象範囲はより広がった、とも言えそうで、擬制的な血縁関係や地縁関係や師弟関係などでも見られます。本書は、イタリア生まれの著者が実際に経験したイタリアのネポチズムについて、やや詳しく紹介しています。
優位・劣位関係についての本書の解説は、なかなか興味深いと思います。優位・劣位関係は人間の全ての社会的関係のなかでも枢要な要素であり、毎日の社会生活のあらゆる面に広く見られる影響力を備え、人間もその他の霊長類も、必ずしもそうと意識しているわけではないものの、優位・劣位関係にいつも捕われており、日常生活では誰もが、ある時点での関係性により優位者でも服従者でもあり得る、と本書は指摘します。優位・劣位関係は人間の本性に定着しているので、それを考慮せずに社会的関係を営めるという考えは非現実的だ、と指摘する本書は、その代わりとして、誰もが自分自身の潜在能力を全開できるような仕組みを準備することが必要だ、と提言しています。
参考文献:
Maestripieri D.著(2015)、河合信和訳『ゲームをするサル 進化生物学からみた「えこひいき」の起源』(雄山閣、原書の刊行は2012年)
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