中期石器時代における石材の長距離移動

 今年(2015年)の4月15日~4月16日にかけて、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ市で古人類学協会の年次総会が開催され、そこでの最古の石器に関する報告を先日このブログで取り上げましたが(関連記事)、この年次総会では中期石器時代における石材の長距離移動についても報告(Blegen., 2015)されています。この報告の要約はPDFファイルにて読めますが、これはまだ非公式版であり、公式版は来月(2015年5月)公開予定です。

 黒曜石は化学分析により産地の推定が可能なので、黒曜石製石器の出土地点から産地までの距離を知ることができます。100km以上となる石材など物質の長距離移動は、「現代的行動」とされる社会的・交易ネットワークの存在を示唆する強力な証拠となります。もちろん、物質の長距離移動により交易の存在が必ず証明されるというわけではありませんが、物質の長距離移動を交易の証拠と考えるのは、有力な見解と言ってよいでしょう。それだけに、産地の推定が可能な黒曜石製石器は重要となってきます。

 物質の長距離移動が早くから見られるのはアフリカで、中期石器時代の13万年前頃から確認されています。この報告では、ケニアのカプサリン(Kapthurin)層のシビロ学校路遺跡(Sibilo School Road Site)で発見された黒曜石製石器の産地が推定されています。シビロ学校路遺跡では、黒曜石製石器も含む2506個の石器が凝灰岩の下で発見され、アルゴン-アルゴン法によりその年代は284000±12000年前と推定されています。その中には、ルヴァロワ式などの中期石器文化的な多様な調整石核が含まれています。

 シビロ学校路遺跡の黒曜石製石器の電子顕微分析から、石材の黒曜石は2ヶ所に由来する、と推定されました。1ヶ所はシビロ学校路遺跡から25~40km北西の地点で、もう1ヶ所はシビロ学校路遺跡から140km南の地点です。このことから本報告は、石材の長距離移動はすでに30万年前近くから行なわれていた、との見解を提示しています。上述したように、これが「現代的行動」とされる社会的・交易ネットワークの存在を直ちに証明するわけではありませんが、30万年前頃から交易が行なわれていた可能性はじゅうぶん検証に値すると言えるでしょう。


参考文献:
Blegen N.(2015): Evidence of early Middle Stone Age technology and long distance transport of obsidians by later middle Pleistocene hominins at the ~300 ka Sibilo School Road Site (GnJh-79), Kapthurin Formation, Kenya. Paleoanthropology Society Meeting.

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  • 20万年以上前までさかのぼる大量の黒曜石の長距離移動

    Excerpt: これは2月2日分の記事として掲載しておきます。中期石器時代のアフリカ東部における黒曜石の長距離移動に関する研究(Blegen., 2017)が公表されました。この研究は、一昨年(2015年)4月の古人.. Weblog: 雑記帳 racked: 2017-02-01 19:04