さかのぼる熱帯雨林環境における人間の生活

 人間の熱帯雨林環境での居住が、じゅうらいの推定よりもさかのぼることを示す直接的証拠を報告した研究(Roberts et al., 2015)が報道されました。熱帯雨林は人間にとって栄養的に貧しい環境であり、現生人類が熱帯雨林環境に進出したのは完新世になってからだ、との見解が有力でした。じっさい、更新世において人間が熱帯雨林環境に長期間居住していた、という直接的な考古学的証拠は得られていませんでした。

 しかし、更新世において人間が熱帯雨林環境において活動していたことを示唆するデータは、これまでにも提示されていました。ただ、人間が熱帯雨林環境にずっと居住していたのか、それとも一時的に利用していただけなのか、不明でした。本論文は、スリランカの4ヶ所の遺跡で発見された人間と他の動物の歯のエナメル質の炭素・酸素同位体分析から、人間がのような環境の食資源に依拠していたのか、明らかにしています。

 本論文の分析結果によると、20000~3000年前のスリランカに居住していた26人のほとんどは、わずかに開けた「中間的な熱帯雨林」環境由来の食資源に依拠した食性だったことが明らかになりました。26人のうち2人のみは、開けた草原の食資源に由来すると推測される食性を示しました。しかし、2人とも生存年代は3000年前頃であり、スリランカにおける農耕の発展との関係が示唆されています。本論文は、人間の熱帯雨林環境への進出は遅くとも2万年前頃には始まっていたとして、人間と熱帯雨林環境との関係がじゅうらいの想定よりも長かった、と指摘しています。

 ホモ属のなかで現代人の直系祖先と考えられるエレクトス(Homo erectus)は、開けた草原に適応して進化したと考えられます。その意味で、熱帯雨林環境はエレクトスの子孫のホモ属にとって、好ましい環境ではなかったのでしょう。ただ、ホモ属のなかでも現生人類(Homo sapiens)は、技術も含む文化の発展により、とくに多様な環境に進出した種(系統)なので、本論文が直接的証拠で示した2万年前よりもさらに前から、熱帯雨林環境に進出していた可能性は高そうです。


参考文献:
Roberts P. et al.(2015): Direct evidence for human reliance on rainforest resources in late Pleistocene Sri Lanka. Science, 347, 6227, 1246-1249.
http://dx.doi.org/10.1126/science.aaa1230

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