加齢に伴う精子の機能低下

 加齢に伴う精子の機能低下に関する研究(Preston et al., 2015)が公表されました。この研究では、モロッコ東部で行われているフサエリショウノガン(Chlamydotis undulata)の大規模保護事業によって得られた10年分のデータが解析されました。その結果、オスの高齢化によって卵の孵化率が低下しただけでなく、ヒナの成長速度も低下したのに対して、成長速度が最大だったのは、未成熟なオスの精子から生まれたヒナだったことが明らかになりました。

 この研究では、こうした影響の大きさがメスの高齢化に伴う影響の大きさに匹敵すると結論づけられており、その原因として、オスの生殖細胞系列内でランダムに生じる遺伝的変異が徐々に蓄積されることが挙げています。高齢のオスの生殖生産量が減るのは、発情行動・社会的優位性・性的シグナル伝達などといった繁殖上の競争力に関連する形質の低下のみが原因ではない、というわけです。同じような仕組みは人間においても生じている可能性がありますが、その確認のためにはさらなる研究が必要である、とも指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【動物学】加齢に伴う精子の機能低下がノガンで確認される

 飼育下のフサエリショウノガン(Chlamydotis undulata)の大規模研究が行われ、高齢個体の精子によって生まれたヒナの質が若齢個体の精子の場合よりも劣ることが明らかになった。脊椎動物の精子の機能が年齢とともに低下することを示唆する証拠が増えつつあるが、今回の研究で得られた知見もその1つとなる。

 繁殖上の競争力に関連する形質(例えば、発情行動、社会的優位性、性的シグナル伝達)は、高齢の雄の場合に低下していることが分かっており、そのために生殖生産量が減ると予想されている。これに対して、配偶子の生存率低下を原因とした受精後の繁殖成功と子の質に対する雄の高齢化の影響は、それほど検討されていない。

 今回、Brian Prestonたちは、モロッコ東部で行われているフサエリショウノガンの大規模保護事業によって得られた10年分のデータを基に研究を行った。この事業では、飼育下繁殖の一環として雌のフサエリショウノガンの人工授精が行われ、ヒナに対する親の影響は配偶子を介する経路に限定された。その結果、親の高齢化によって卵の孵化率が低下しただけでなく、ヒナの成長速度も低下した。これに対して、成長速度が最大だったのは、未成熟な雄の精子から生まれたヒナだった。

 さらに、Prestonたちは、こうした影響の大きさが母親の高齢化に伴う影響の大きさに匹敵すると結論づけ、その原因として、雄の生殖細胞系列内でランダムに生じる遺伝的変異が徐々に蓄積されることを挙げている。これと同じ機構は、ヒトにおいて親の高齢化と妊孕性の低下が関連しているという知見の背景になっている可能性もある。ただし、このことを確認するには、さらなる研究が必要となる。



参考文献:
Preston BT. et al.(2015): The sperm of aging male bustards retards their offspring’s development. Nature Communications, 6, 6146.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms7146

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