『天智と天武~新説・日本書紀~』第59話「定恵始末(前編)」
『ビッグコミック』2015年3月10日号掲載分の感想です。このところずっとそうなのですが、今回も掲載順序がよくないように思われ、打ち切りがあるのではないか、と心配になります。次回は巻頭カラーとのことなので、すぐに打ち切りということはないのかもしれませんが、人気が低迷しているのでしょうか。昨年秋頃までは、わりと掲載順序がよかったように思うのですが・・・。もっとも、掲載順序と人気との関係は部外者には分かりにくいことなので、私の懸念も的外れなのかもしれません。
前回は、鬼室集斯が定恵(真人)に毒を飲ませ、刀で突き刺すところで終了しました。今回はその続きとなります。鬼室集斯に刺された定恵は、意識が薄れていくなか、私が豊王(鎌足)の息子?と鬼室集斯に尋ねます。鬼室集斯は定恵に、そうだ、息子を身代わりにされたことで、鎌足は地獄の苦しみを一生味わうのだ、と言います。倒れた定恵は、なおも鬼室集斯に話しかけようとします。鬼室集斯は定恵がまだ生きていることに激昂しますが、瀕死の定恵は鬼室集斯を恨んでいる様子もなく、自分は豊王の息子だから殺されるのですよね、と尋ねます。
鬼室集斯は激昂し、そうでなければこんなことはしない、お前の父親が悪いのだ、と怒鳴ります。それを聞いた定恵は、かすかに笑みを浮かべながら、嬉しい、と言って息絶えます。665年(西暦は厳密な換算ではなく、1年単位での換算です)12月23日のことでした。作中では定恵は23歳で亡くなったとされています。作中の人物の年齢は基本的に満年齢のようですので、定恵は642年生まれということになるのでしょう。鬼室集斯が定恵を殺したところを木陰から見ていた不比等は、怯えて逃げ出します。
その頃、中大兄皇子が異父弟の大海人皇子の邸宅を訪れていました。唐や新羅のある大陸に日が沈んでいくのう、と呟いた中大兄皇子は、お前の言う通り、これからは唐や新羅とうまく付き合ってゆかねばならない、と言います。これにたいして大海人皇子は、それ以上に、国の安定のために民を個別に把握することが重要だ、と言います。すると中大兄皇子は、お前は私のことが把握できているのか、と大海人皇子に問いかけます。しっかり把握しなければ仇は討てないぞ、と言いながら、中大兄皇子は大海人皇子の顔を軽く叩きます。
これにたいして大海人皇子は、なぜ兄上私の邸宅に来て国の行く末を論じているのか、先ほどから考えあぐねている、と言います。すると中大兄皇子は、お前の意見を聞きたいからと言っただろう、と小馬鹿にしたように答えます。大海人皇子はまったく動じず、そんな言葉を私が信じるとでも思うのか、と反問します。大海人皇子は中大兄皇子に、戸籍作りはすでに着手済みなのでしょうが、それだけではなく、近江あたりに都を移そうとしているのではないか、と問いかけます。
さすがだな、と言う中大兄皇子にたいして、大海人皇子は遷都へのに反対意見を述べます。すでに莫大な費用と労役を要する防衛施設の築造で民に負担をかけているので、そのうえ新しい宮の建設が必要な遷都には賛同できない、というわけです。中大兄皇子はとくに激昂することもなく、お前の意見として聞いておこう、と答えます。そこへ中大兄皇子に呼ばれていた鎌足が現れます。ここで鎌足が登場したことから、鎌足は定恵を見捨てたのだ、と大海人皇子は気づいたようです。
何の用でしょうか、と尋ねる鎌足にたいして、そのうち知らせが届くだろうから、ここでゆっくり待たせてもらおう、と中大兄皇子は余裕のある表情で答えます。今宵の月は煌々と明るい、邪魔する雲がいなくなって清々しているようだ、と中大兄皇子は言います。この「邪魔する雲」とは定恵のことなのでしょう。そこへ鵲が慌てた様子でやって来ます。しかし鵲は、大海人皇子のみならず中大兄皇子と鎌足もいるのを見て混乱してしまい、いっそう慌てて退出しようとします。
そんな慌てふためいた様子の鵲に、報告するよう大海人皇子は命じます。それでも鵲は、中大兄皇子と鎌足もいる場で報告することを躊躇いますが、大海人皇子は報告するよう強く促します。鵲は覚悟を決め、隠れ里が十数人の武装者に襲撃され、その隙に定恵が何者かに殺されたことを報告し、謝罪します。しかし、大海人皇子も中大兄皇子も鎌足もまったく動揺した様子を見せません。ここは、「怪物」の三人と「凡人」の鵲との対照的な様子が印象に残ります。その様子を見た鵲が、いっそう怯えてしまう、というところで今回は終了です。
定恵は大海人皇子に匿われて生き延び、粟田真人として後半生を生きる、との私の予想は残念ながら外れてしまい、作中での定恵の死が確定しました。定恵編は丁寧に描かれそうだな、と予想していましたが、それにしても予想以上の丁寧さです。鎌足(豊王)の息子だから殺されると知り、定恵は満足しながら死んでいきました。異様な話とも言えますが、定恵の父親にたいする想いの深さがこれまで丁寧に描かれていたので、創作としては説得力のある描写になっていたと思います。
定恵を見捨てた鎌足の真意は気になるところですが、それは巻頭カラーの次回にて語られるようです。次号の予告は、「三者、眉一つ動かさず定恵殺害後の政治的駆け引きへ・・・・・・次号、地獄の鬼も哭く巻頭カラー!!」、「史上最高の権謀術数家、ここに在り─。中臣鎌足は、最愛の息子・定恵を見殺しにする決断をした。主君・中大兄皇子に息子の隠れ場所を知らせ、息子を救おうとしていた大海人を無視する。息子の命を犠牲にしてでも、主君・中大兄皇子に忠誠を尽くす鎌足に、ためらいや動揺は無いのか、その本心に迫る!!」となっています。
鎌足の真意は次回を読んでみないとよく分かりませんが、定恵を見捨てて主君の中大兄皇子に忠誠を尽くすことを選択したのは間近いないでしょう。ただ、完全に定恵を見捨てたわけではなく、大海人皇子ならば定恵を守ってくれるだろう、とわずかながら期待していたのかもしれません。また、鎌足がどこまで真意を明かすか分かりませんが、大海人皇子が中大兄皇子から定恵を守り続けることができた場合は、密かに大海人皇子に乗り換えよう、と考えていたのかもしれません。しかし、定恵は殺されてしまったわけで、鎌足は大海人皇子に、まだ中大兄皇子と比較して政治的力量に欠けている、と宣告するのかもしれません。
定恵が鬼室集斯に殺されるところを木陰から見ていた史(不比等)は、怯えた様子で立ち去っていきました。この可愛くてごく普通の反応を見せた少年である史が、後の奈良時代初期には権勢を振るう悪相右大臣へと成長するわけで、史がなぜそのように成長していったのか、どうもよく分かりません。定恵をめぐる中大兄皇子・大海人皇子・父の鎌足の思惑と決断を知り、次第に屈折しながら悪相の権力者へと成長していくのでしょうか。
大海人皇子と中大兄皇子とのやり取りで、戸籍の作成(庚午年籍のことでしょう)や近江遷都といった今後の歴史的出来事についてもはっきりと語られました。本作は中大兄皇子と大海人皇子の愛憎劇に注目が集まっているのでしょうが、こうしたところはいかにも歴史漫画だな、と思います。予想通り、民への負担になるとして、大海人皇子は近江への遷都に反対しましたが、けっきょくは通説にしたがって近江への遷都が実施されるのでしょう。それは、大海人皇子がまだ政治権力者としては中大兄皇子に及ばない、ということを意味するのでしょう。
この異父兄弟の関係が、中大兄皇子(天智帝)の死まで続くのか、それとも紆余曲折があるのか、ということも注目されます。大枠では通説にしたがって話は進むでしょうから、大海人皇子は天智朝晩年に出家して吉野に退くことになるのでしょう。そうすると、大海人皇子はけっきょく最後まで政治権力者としては異父兄に敵わなかった、ということになりそうですが、ここはひねった解釈になるのかもしれず、楽しみです。作中ではすでに大海人皇子に匹敵するくらいの地位にいるらしい大友皇子が、この異父兄弟(大友皇子にとっては父と叔父)の関係にどう絡んでといくのか、ということも気になります。
来月(2015年3月)末に刊行予定の単行本第7集には、おそらく今回までが収録されるでしょう。ふと気づいたのですが、単行本第2集以降は、話が一区切りつく前の回か、次回が気になって仕方ない、というところで終わっています。これは、単なる偶然というわけではなく、掲載誌を購入せず、単行本のみ購入する読者を意識した構成なのかな、と思います。それで話が間延びしたり、逆に簡略化されたりしたら問題ですが、今のところ、そうした問題はとくにないように思います。
前回は、鬼室集斯が定恵(真人)に毒を飲ませ、刀で突き刺すところで終了しました。今回はその続きとなります。鬼室集斯に刺された定恵は、意識が薄れていくなか、私が豊王(鎌足)の息子?と鬼室集斯に尋ねます。鬼室集斯は定恵に、そうだ、息子を身代わりにされたことで、鎌足は地獄の苦しみを一生味わうのだ、と言います。倒れた定恵は、なおも鬼室集斯に話しかけようとします。鬼室集斯は定恵がまだ生きていることに激昂しますが、瀕死の定恵は鬼室集斯を恨んでいる様子もなく、自分は豊王の息子だから殺されるのですよね、と尋ねます。
鬼室集斯は激昂し、そうでなければこんなことはしない、お前の父親が悪いのだ、と怒鳴ります。それを聞いた定恵は、かすかに笑みを浮かべながら、嬉しい、と言って息絶えます。665年(西暦は厳密な換算ではなく、1年単位での換算です)12月23日のことでした。作中では定恵は23歳で亡くなったとされています。作中の人物の年齢は基本的に満年齢のようですので、定恵は642年生まれということになるのでしょう。鬼室集斯が定恵を殺したところを木陰から見ていた不比等は、怯えて逃げ出します。
その頃、中大兄皇子が異父弟の大海人皇子の邸宅を訪れていました。唐や新羅のある大陸に日が沈んでいくのう、と呟いた中大兄皇子は、お前の言う通り、これからは唐や新羅とうまく付き合ってゆかねばならない、と言います。これにたいして大海人皇子は、それ以上に、国の安定のために民を個別に把握することが重要だ、と言います。すると中大兄皇子は、お前は私のことが把握できているのか、と大海人皇子に問いかけます。しっかり把握しなければ仇は討てないぞ、と言いながら、中大兄皇子は大海人皇子の顔を軽く叩きます。
これにたいして大海人皇子は、なぜ兄上私の邸宅に来て国の行く末を論じているのか、先ほどから考えあぐねている、と言います。すると中大兄皇子は、お前の意見を聞きたいからと言っただろう、と小馬鹿にしたように答えます。大海人皇子はまったく動じず、そんな言葉を私が信じるとでも思うのか、と反問します。大海人皇子は中大兄皇子に、戸籍作りはすでに着手済みなのでしょうが、それだけではなく、近江あたりに都を移そうとしているのではないか、と問いかけます。
さすがだな、と言う中大兄皇子にたいして、大海人皇子は遷都へのに反対意見を述べます。すでに莫大な費用と労役を要する防衛施設の築造で民に負担をかけているので、そのうえ新しい宮の建設が必要な遷都には賛同できない、というわけです。中大兄皇子はとくに激昂することもなく、お前の意見として聞いておこう、と答えます。そこへ中大兄皇子に呼ばれていた鎌足が現れます。ここで鎌足が登場したことから、鎌足は定恵を見捨てたのだ、と大海人皇子は気づいたようです。
何の用でしょうか、と尋ねる鎌足にたいして、そのうち知らせが届くだろうから、ここでゆっくり待たせてもらおう、と中大兄皇子は余裕のある表情で答えます。今宵の月は煌々と明るい、邪魔する雲がいなくなって清々しているようだ、と中大兄皇子は言います。この「邪魔する雲」とは定恵のことなのでしょう。そこへ鵲が慌てた様子でやって来ます。しかし鵲は、大海人皇子のみならず中大兄皇子と鎌足もいるのを見て混乱してしまい、いっそう慌てて退出しようとします。
そんな慌てふためいた様子の鵲に、報告するよう大海人皇子は命じます。それでも鵲は、中大兄皇子と鎌足もいる場で報告することを躊躇いますが、大海人皇子は報告するよう強く促します。鵲は覚悟を決め、隠れ里が十数人の武装者に襲撃され、その隙に定恵が何者かに殺されたことを報告し、謝罪します。しかし、大海人皇子も中大兄皇子も鎌足もまったく動揺した様子を見せません。ここは、「怪物」の三人と「凡人」の鵲との対照的な様子が印象に残ります。その様子を見た鵲が、いっそう怯えてしまう、というところで今回は終了です。
定恵は大海人皇子に匿われて生き延び、粟田真人として後半生を生きる、との私の予想は残念ながら外れてしまい、作中での定恵の死が確定しました。定恵編は丁寧に描かれそうだな、と予想していましたが、それにしても予想以上の丁寧さです。鎌足(豊王)の息子だから殺されると知り、定恵は満足しながら死んでいきました。異様な話とも言えますが、定恵の父親にたいする想いの深さがこれまで丁寧に描かれていたので、創作としては説得力のある描写になっていたと思います。
定恵を見捨てた鎌足の真意は気になるところですが、それは巻頭カラーの次回にて語られるようです。次号の予告は、「三者、眉一つ動かさず定恵殺害後の政治的駆け引きへ・・・・・・次号、地獄の鬼も哭く巻頭カラー!!」、「史上最高の権謀術数家、ここに在り─。中臣鎌足は、最愛の息子・定恵を見殺しにする決断をした。主君・中大兄皇子に息子の隠れ場所を知らせ、息子を救おうとしていた大海人を無視する。息子の命を犠牲にしてでも、主君・中大兄皇子に忠誠を尽くす鎌足に、ためらいや動揺は無いのか、その本心に迫る!!」となっています。
鎌足の真意は次回を読んでみないとよく分かりませんが、定恵を見捨てて主君の中大兄皇子に忠誠を尽くすことを選択したのは間近いないでしょう。ただ、完全に定恵を見捨てたわけではなく、大海人皇子ならば定恵を守ってくれるだろう、とわずかながら期待していたのかもしれません。また、鎌足がどこまで真意を明かすか分かりませんが、大海人皇子が中大兄皇子から定恵を守り続けることができた場合は、密かに大海人皇子に乗り換えよう、と考えていたのかもしれません。しかし、定恵は殺されてしまったわけで、鎌足は大海人皇子に、まだ中大兄皇子と比較して政治的力量に欠けている、と宣告するのかもしれません。
定恵が鬼室集斯に殺されるところを木陰から見ていた史(不比等)は、怯えた様子で立ち去っていきました。この可愛くてごく普通の反応を見せた少年である史が、後の奈良時代初期には権勢を振るう悪相右大臣へと成長するわけで、史がなぜそのように成長していったのか、どうもよく分かりません。定恵をめぐる中大兄皇子・大海人皇子・父の鎌足の思惑と決断を知り、次第に屈折しながら悪相の権力者へと成長していくのでしょうか。
大海人皇子と中大兄皇子とのやり取りで、戸籍の作成(庚午年籍のことでしょう)や近江遷都といった今後の歴史的出来事についてもはっきりと語られました。本作は中大兄皇子と大海人皇子の愛憎劇に注目が集まっているのでしょうが、こうしたところはいかにも歴史漫画だな、と思います。予想通り、民への負担になるとして、大海人皇子は近江への遷都に反対しましたが、けっきょくは通説にしたがって近江への遷都が実施されるのでしょう。それは、大海人皇子がまだ政治権力者としては中大兄皇子に及ばない、ということを意味するのでしょう。
この異父兄弟の関係が、中大兄皇子(天智帝)の死まで続くのか、それとも紆余曲折があるのか、ということも注目されます。大枠では通説にしたがって話は進むでしょうから、大海人皇子は天智朝晩年に出家して吉野に退くことになるのでしょう。そうすると、大海人皇子はけっきょく最後まで政治権力者としては異父兄に敵わなかった、ということになりそうですが、ここはひねった解釈になるのかもしれず、楽しみです。作中ではすでに大海人皇子に匹敵するくらいの地位にいるらしい大友皇子が、この異父兄弟(大友皇子にとっては父と叔父)の関係にどう絡んでといくのか、ということも気になります。
来月(2015年3月)末に刊行予定の単行本第7集には、おそらく今回までが収録されるでしょう。ふと気づいたのですが、単行本第2集以降は、話が一区切りつく前の回か、次回が気になって仕方ない、というところで終わっています。これは、単なる偶然というわけではなく、掲載誌を購入せず、単行本のみ購入する読者を意識した構成なのかな、と思います。それで話が間延びしたり、逆に簡略化されたりしたら問題ですが、今のところ、そうした問題はとくにないように思います。
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