西秋良宏「旧人・新人の学習行動をめぐる諸問題─あとがきにかえて─」
西秋良宏編『ホモ・サピエンスと旧人2─考古学からみた学習』所収の論文です(関連記事)。本論文は、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と現生人類(Homo sapiens)との「交替劇」において、なぜ学習に注目するのか、改めて説明しています。それは、両集団間に存在していた文化・技術の違いが関係していたのではないか、と考えられるからです。
現生人類にのみ特有とされてきた「現代的行動」の一部がネアンデルタール人にも認められるようになり、現生人類とネアンデルタール人それぞれに固有の行動を同定するのが難しくなっています。本論文は、両集団ともに文化(技術)に依存した生活を送っていたからではないか、と指摘しています。ただ、ヨーロッパにおけるネアンデルタール人と現生人類の文化を比較すると、(比較年代が異なるのですが)後者の方が文化革新はずっと速くなっています。これは学習行動の違いではないか、という見通しを本論文は提示しています。
本論文は、そうした違いが生じた要因の候補として、認知能力・身体能力・社会環境を重視しています。まず認知能力については、上述したようにネアンデルタール人にも「現代的行動」の一部が認められるようになってきたので、両集団間で本当に違いがあったのか、判断が難しくなっています。また、チンパンジーとボノボの事例から、認知能力が行動としては現れない可能性も指摘されています。ただ、両集団は異なる系統の人類なので、認知能力に違いがあっても不思議ではない、とも本論文は指摘しています。
身体能力については、その一側面とも言える生活史も含めて、ネアンデルタール人と現生人類とでどの程度の違いがあったのか、まだ判断は難しい、と指摘されています。上部旧石器時代以降の現生人類の文化革新の速さ・文化の豊かさと、現生人類が20万年前頃には出現していたことを考えると、上部旧石器時代の大きな文化変化は社会環境に起因し、とくに人口が注目される、というのが本論文の見解です。しかし本論文は、これら認知能力・身体能力・社会環境の三要素は、相互に排他的なのではなく、各要因の関与の程度を検証していく必要がある、とも指摘しています。
また本論文は、ネアンデルタール人の文化がそれほど単純でも停滞的でもなかった、と指摘します。西アジアの事例からすると、ネアンデルタール人は新たな環境に適応して文化を発達させたのであり、類似した環境に適応し、環境が変化すれば同じ環境の他地域に移動しただけの集団ではない、というわけです。さらに、現生人類社会においても、東南アジアやオーストラリアでは変化に乏しい石器文化が長期にわたって継続した、と指摘されています。現生人類だけではなくネアンデルタール人についても、もはやその行動・文化を均質なものとして想定することはできないのでしょう。
参考文献:
西秋良宏(2014D)「旧人・新人の学習行動をめぐる諸問題─あとがきにかえて─」西秋良宏編『ホモ・サピエンスと旧人2─考古学からみた学習』(六一書房)P175-185
現生人類にのみ特有とされてきた「現代的行動」の一部がネアンデルタール人にも認められるようになり、現生人類とネアンデルタール人それぞれに固有の行動を同定するのが難しくなっています。本論文は、両集団ともに文化(技術)に依存した生活を送っていたからではないか、と指摘しています。ただ、ヨーロッパにおけるネアンデルタール人と現生人類の文化を比較すると、(比較年代が異なるのですが)後者の方が文化革新はずっと速くなっています。これは学習行動の違いではないか、という見通しを本論文は提示しています。
本論文は、そうした違いが生じた要因の候補として、認知能力・身体能力・社会環境を重視しています。まず認知能力については、上述したようにネアンデルタール人にも「現代的行動」の一部が認められるようになってきたので、両集団間で本当に違いがあったのか、判断が難しくなっています。また、チンパンジーとボノボの事例から、認知能力が行動としては現れない可能性も指摘されています。ただ、両集団は異なる系統の人類なので、認知能力に違いがあっても不思議ではない、とも本論文は指摘しています。
身体能力については、その一側面とも言える生活史も含めて、ネアンデルタール人と現生人類とでどの程度の違いがあったのか、まだ判断は難しい、と指摘されています。上部旧石器時代以降の現生人類の文化革新の速さ・文化の豊かさと、現生人類が20万年前頃には出現していたことを考えると、上部旧石器時代の大きな文化変化は社会環境に起因し、とくに人口が注目される、というのが本論文の見解です。しかし本論文は、これら認知能力・身体能力・社会環境の三要素は、相互に排他的なのではなく、各要因の関与の程度を検証していく必要がある、とも指摘しています。
また本論文は、ネアンデルタール人の文化がそれほど単純でも停滞的でもなかった、と指摘します。西アジアの事例からすると、ネアンデルタール人は新たな環境に適応して文化を発達させたのであり、類似した環境に適応し、環境が変化すれば同じ環境の他地域に移動しただけの集団ではない、というわけです。さらに、現生人類社会においても、東南アジアやオーストラリアでは変化に乏しい石器文化が長期にわたって継続した、と指摘されています。現生人類だけではなくネアンデルタール人についても、もはやその行動・文化を均質なものとして想定することはできないのでしょう。
参考文献:
西秋良宏(2014D)「旧人・新人の学習行動をめぐる諸問題─あとがきにかえて─」西秋良宏編『ホモ・サピエンスと旧人2─考古学からみた学習』(六一書房)P175-185
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