『天智と天武~新説・日本書紀~』第58話「侵入者」
『ビッグコミック』2015年2月25日号掲載分の感想です。このところずっとそうなのですが、今回も掲載順序がよくないように思われ、打ち切りがあるのではないか、と心配になります。前回は、大海人皇子(天武帝)から息子の定恵(真人)が匿われている場所を知らされた中臣鎌足(豊璋)が、どうすべきか迷っているところで終了しました。今回は、鎌足が定恵の匿われている隠れ里の位置を示した地図を中大兄皇子(天智帝)に渡す場面から始まります。鎌足は、我が子の定恵を見捨てて、主君の中大兄皇子の「忠臣手足」でいることを選択した、というわけです。
その場には鬼室集斯がおり、定恵の匿われている隠れ里に行くよう、中大兄皇子は鬼室集斯に命じます。鬼室集斯を見た鎌足は一瞬動揺したかのような表情を浮かべますが、すぐに冷静さを装います。中大兄皇子は、二人は初対面かもしれないということで鬼室集斯に鎌足を紹介しようとしますが、鬼室集斯の方は鎌足のことを知っていました。鬼室集斯は鎌足に、百済復興軍では末席に連なっていました、ご存じだったか分かりませんが、と棘のあるような言い方で挨拶します。鎌足はこれにたいして表情を変えず、何とか冷静さを保とうとしているようです。鎌足が中大兄皇子の部屋から退出する前に見せた表情からは、中大兄皇子への不満や恨みが窺えるように思います。
定恵の匿われている隠れ里には鵲もおり、警戒にあたっています。鎌足の息子の史(不比等)は、相変わらず定恵の食事の世話をしているようです。定恵は史に礼を言い、史は定恵に後で蹴鞠の相手をしてくれ、と頼みます。史は定恵に、自分の父は蹴鞠をして中大兄皇子と仲良くなったそうです、と語ります。定恵は史の無邪気な様子を見て、うらやましい、自分も無邪気に父上と呼びたいと言います。さすがに史には定恵の真意は分からないようです。
その頃、大海人皇子は胸騒ぎがして出かけようとしますが(定恵の匿われている隠れ里に赴こうとしたのでしょう)、そこへ中大兄皇子が来訪します。大海人皇子の邸宅(だと思われます)はかなり広大なようで、大海人皇子が着実に地位を高めていることが窺えます。異父兄の珍しい訪問の意図をつかみかねている大海人皇子に、唐の使者も帰り、大陸とも小康状態なので、この機に国の今後について大海人皇子の意見も聞いておきたい、と中大兄皇子は言います。この中大兄皇子の訪問は、単なる偶然というより、大海人皇子の動きを封じて、鬼室集斯による隠れ里の襲撃を間接的に援護しようという、意図からのものなのでしょう。
その隠れ里を鬼室集斯たちが襲撃しますが、さすがに戦闘訓練を受けているだけあって、鵲や隠れ里の住人は即座に反撃します。その混乱のなか、鬼室集斯は定恵のいる建物に近づきます。鬼室集斯が来たことに一瞬喜ぶ定恵ですが、なぜ自分の居場所が分かったのか、不審に思います。すると鬼室集斯は、大海人皇子から教えてもらったと答え、定恵は警戒を解きます。定恵が鬼室集斯の服や手に血がついていることに気づくと、侵入者により隠れ里は襲撃されており、定恵を狙っているかもしれないので危険だ、と鬼室集斯は言い、定恵を連れて近くの洞穴へと向かいます。その様子を史が見ていました。
洞穴に逃げ込んだ鬼室集斯は、定恵に竹筒?を渡して水を飲むよう勧めます。定恵はその水を飲んだ後、鬼室集斯に残りの水を飲むよう勧めますが、鬼室集斯はきっぱりと断ります。不審に思う定恵にたいして、朝鮮半島での戦闘ではもっと雪深い中を走り回っていたので、何ともない、と鬼室集斯は答えます。しかし、そんな苦労も水泡に帰した、と言いながら、鬼室集斯は刀を抜きます。この刀は父の形見だ、と鬼室集斯は説明し、父は祖国の百済・名前・百済民族の誇りを捨てた男に殺された、と言います。
定恵が怯えながら、それは誰のことなのか、と尋ねると、あなたがよくご存じの方ですよ、と鬼室集斯は答えます。定恵はいっそう怯え、不審に思い、隠れ里の入り口は厳重に守られていると聞いていたのに、大海人皇子に教えられたとはいってもどうやって入れてもらえたのか、と鬼室集斯に尋ねます。鬼室集斯は子供とその母親らしき女性を人質にとり、隠れ里の人々を脅迫して侵入しました。その女性を脅迫して定恵の居場所を聞き出した鬼室集斯は、解放すると見せかけてその女性に背後から斬りかかったのでした。
怯えて立ち去ろうとする定恵に、私の父を殺した男の名を知りたくはないか、と鬼室集斯は問いかけます。逃げようとした定恵は、口から血を吐きます。先ほど鬼室集斯から渡されて飲んだ水には毒が入っていた、というわけです。血を吐いて倒れる定恵に、人をむやみに信じるものではない、そなたに罪はない、恨むなら我が父の仇である豊王(鎌足)の子として生まれたことを恨め、と言いながら、鬼室集斯が定恵を刀で突き刺す、というところで今回は終了です。
やはり、帰国後の定恵の動向は丁寧に描かれていますが、第55話から始まった定恵帰国編は次回で完結ということになりそうです。今年初めの時点で、定恵帰国編の完結にはこの後2~3話を要しそうだ(第57話か第58話にて完結)、と予想しましたが(関連記事)、私の予想より1話~2話多くなることになりそうです。定恵は騙されて毒を飲んでしまい、刀で体を突きぬかれてしまいましたから、さすがに助かることはなさそうで、このまま死ぬことになりそうです。
定恵は大海人皇子に匿われて生き延び、粟田真人として後半生を生きる、と私は以前から予想しており、かなり自信があったのですが、前回を読んで、定恵が生き延びるのか、それとも通説にしたがって若くして死ぬのか、可能性としては五分かな、と考えが変わりました。残念ながら私の予想は外れることになりそうで、定恵は通説にしたがって若くして死ぬのでしょうが、これが中大兄皇子・大海人皇子・鎌足の主要人物三人の関係、さらには鎌足のもう一人の息子の史や定恵を殺した鬼室集斯にどのような影響を与えるのか、注目されます。
鎌足は、愛息の定恵を救うのではなく、主君の中大兄皇子の「忠臣手足」となることを選択しました。鎌足にとって苦渋の決断だったでしょうが、必死に定恵を説得したにも関わらず、定恵が唐からの使節とともに唐に戻るのではなく、自分といることを選択した時点で、定恵が殺されることを覚悟していた、ということでしょうか。それとも、大海人皇子ならば定恵を守ってくれるだろう、と期待していたからでしょうか。鎌足の心境が今後作中で明かされるのか、定かではありませんが、もう中大兄皇子を裏切ることはできないにしても、大海人皇子ならばなんとかしてくれるだろう、というかすかな希望のもと、決断したのかな、と思います。
ただ、家族想いの鎌足だけに、愛息の定恵が殺されたとなると、心中の衝撃は大きいでしょう。今回、鎌足が中大兄皇子に向けた表情からは、不満や恨みが窺えるように思います。じっさいに定恵が中大兄皇子の指示(明示的ではないかもしれませんが)により殺されたとなると、鎌足も表面上は冷静に中大兄皇子へ忠誠を尽くし続けるでしょうが、中大兄皇子を妨害するような意図を秘めた行動に出るかもしれません。鎌足の娘二人(氷上娘・五百重娘)が大海人皇子の妻となっていること(鎌足は、大海人皇子の監視目的だと中大兄皇子に説明するのかもしれません)や、大海人皇子が酒宴で槍を板に突き刺し、天智帝(中大兄皇子)が激怒して大海人皇子を殺そうとしたところ、鎌足がとりなした、という有名な逸話も、そうした文脈で描かれるのかもしれません。
定恵の死が史に与える影響も気になるところです。史は定恵を慕っているようですから、定恵の死は大きな衝撃でしょう。史は聡明ですし、鬼室集斯が定恵を連れ出すところも見ていますから、そのうち定恵の死の真相を悟ることになりそうです。現時点では無邪気で聡明な史が、奈良時代初期には権勢を振るう悪相右大臣へと成長するわけで、史がなぜそのように成長していったのか、どうもよく分からないのですが、定恵の死や自分が両親と離れて暮らしていることの真相を知り、大人たちの醜い思惑(定恵を利用して中大兄皇子と鎌足を離間させようとしている大海人皇子も含めて)に気づいていき、次第に屈折しながら成長するのかもしれません。
鬼室集斯はわりと躊躇なく定恵を殺そうとしたように見えました。この点では、中大兄皇子の命で罠にかけた有間皇子にたいして罪悪感があったように見える蘇我赤兄とは異なるようです。もっとも、赤兄は個人的には有間皇子を恨んでおらず、むしろ同情的だったとしても不思議ではありませんでしたが。中大兄皇子の引立てなくして百済遺民の立場を維持・向上させるのは難しいだけに、鬼室集斯は必死になって中大兄皇子の期待に応えようとしている、ということなのかもしれませんが、それだけ父の仇を討ちたいとの想いが強いのかもしれません。
ただ、鬼室集斯にとって真の仇は鎌足(豊王)ですから、定恵を殺しても、鬼室集斯の鬱憤は完全には晴れないでしょう。そうすると、鎌足の死にも鬼室集斯は関わるのかもしれません。上述したように、今後鎌足が大海人皇子に接近するのだとしたら、中大兄皇子はもう鎌足を不要だとして、鬼室集斯に殺害を命じるのかもしれません。前回は間抜けなところも見せましたが、今回は有能さ・冷酷さを見せましたから、鬼室集斯は今後も重要な役割を担うのではないか、と思います。
前回予想されたように、中大兄皇子は鎌足を通じて隠れ里の場所を知ることになりました。大海人皇子には、たとえ攻撃されても撃退できる、という自信があったのかもしれませんが、子供を人質にとるという鬼室集斯の卑劣な手段により、あっさりと侵入を許してしまいます。おそらく、最終的には隠れ里の側が侵入者を撃退しているのでしょうが、定恵は(おそらく次回で)殺害されてしまうわけで、隠れ里の場所を知らせたことはやはり大海人皇子の失策というか、甘さであるように思います。この隠れ里が今後どうなるのかも気になるところです。おそらく、大海人皇子の出家から壬申の乱にかけて、重要な役割を担うだろう、と思うのですが。
今回、中大兄皇子が珍しく大海人皇子を訪ねたのは、上述したように、大海人皇子の動きを封じて、鬼室集斯による隠れ里の襲撃を間接的に援護しよう、という意図からなのでしょうが、中大兄皇子が言うように、国の今後について大海人皇子の意見も聞いておきたいという目的もあるのだろう、と思います。大海人皇子の声望は高まっており、すでに中大兄皇子も容易に手出しできない存在になっています。中大兄皇子には、人々から慕われている大海人皇子の意向と、自分の今後の政治方針への反応を探ろう、という意図があるのでしょう。
二人の会談が次回描かれるのか、分かりませんが、もし描かれるのだとしたら、すでに中大兄皇子が大海人皇子の前でそれとなく漏らしている、遷都計画について語られるのかもしれません。定恵帰国編が完結した後の大きな出来事となると、近江への遷都でしょうから、ここは割と丁寧に描かれそうな気がします。ただ、遷都の前に大田皇女は死ぬことになるので、その妹の鸕野讚良皇女(持統天皇)との関係も含めて、描いてもらいたいものです。ただ、大海人皇子との結婚後、大田皇女はあまり目立っていないので、重要人物という位置づけではないのかもれず、その死はほとんど描かれないのかもしれません。
その場には鬼室集斯がおり、定恵の匿われている隠れ里に行くよう、中大兄皇子は鬼室集斯に命じます。鬼室集斯を見た鎌足は一瞬動揺したかのような表情を浮かべますが、すぐに冷静さを装います。中大兄皇子は、二人は初対面かもしれないということで鬼室集斯に鎌足を紹介しようとしますが、鬼室集斯の方は鎌足のことを知っていました。鬼室集斯は鎌足に、百済復興軍では末席に連なっていました、ご存じだったか分かりませんが、と棘のあるような言い方で挨拶します。鎌足はこれにたいして表情を変えず、何とか冷静さを保とうとしているようです。鎌足が中大兄皇子の部屋から退出する前に見せた表情からは、中大兄皇子への不満や恨みが窺えるように思います。
定恵の匿われている隠れ里には鵲もおり、警戒にあたっています。鎌足の息子の史(不比等)は、相変わらず定恵の食事の世話をしているようです。定恵は史に礼を言い、史は定恵に後で蹴鞠の相手をしてくれ、と頼みます。史は定恵に、自分の父は蹴鞠をして中大兄皇子と仲良くなったそうです、と語ります。定恵は史の無邪気な様子を見て、うらやましい、自分も無邪気に父上と呼びたいと言います。さすがに史には定恵の真意は分からないようです。
その頃、大海人皇子は胸騒ぎがして出かけようとしますが(定恵の匿われている隠れ里に赴こうとしたのでしょう)、そこへ中大兄皇子が来訪します。大海人皇子の邸宅(だと思われます)はかなり広大なようで、大海人皇子が着実に地位を高めていることが窺えます。異父兄の珍しい訪問の意図をつかみかねている大海人皇子に、唐の使者も帰り、大陸とも小康状態なので、この機に国の今後について大海人皇子の意見も聞いておきたい、と中大兄皇子は言います。この中大兄皇子の訪問は、単なる偶然というより、大海人皇子の動きを封じて、鬼室集斯による隠れ里の襲撃を間接的に援護しようという、意図からのものなのでしょう。
その隠れ里を鬼室集斯たちが襲撃しますが、さすがに戦闘訓練を受けているだけあって、鵲や隠れ里の住人は即座に反撃します。その混乱のなか、鬼室集斯は定恵のいる建物に近づきます。鬼室集斯が来たことに一瞬喜ぶ定恵ですが、なぜ自分の居場所が分かったのか、不審に思います。すると鬼室集斯は、大海人皇子から教えてもらったと答え、定恵は警戒を解きます。定恵が鬼室集斯の服や手に血がついていることに気づくと、侵入者により隠れ里は襲撃されており、定恵を狙っているかもしれないので危険だ、と鬼室集斯は言い、定恵を連れて近くの洞穴へと向かいます。その様子を史が見ていました。
洞穴に逃げ込んだ鬼室集斯は、定恵に竹筒?を渡して水を飲むよう勧めます。定恵はその水を飲んだ後、鬼室集斯に残りの水を飲むよう勧めますが、鬼室集斯はきっぱりと断ります。不審に思う定恵にたいして、朝鮮半島での戦闘ではもっと雪深い中を走り回っていたので、何ともない、と鬼室集斯は答えます。しかし、そんな苦労も水泡に帰した、と言いながら、鬼室集斯は刀を抜きます。この刀は父の形見だ、と鬼室集斯は説明し、父は祖国の百済・名前・百済民族の誇りを捨てた男に殺された、と言います。
定恵が怯えながら、それは誰のことなのか、と尋ねると、あなたがよくご存じの方ですよ、と鬼室集斯は答えます。定恵はいっそう怯え、不審に思い、隠れ里の入り口は厳重に守られていると聞いていたのに、大海人皇子に教えられたとはいってもどうやって入れてもらえたのか、と鬼室集斯に尋ねます。鬼室集斯は子供とその母親らしき女性を人質にとり、隠れ里の人々を脅迫して侵入しました。その女性を脅迫して定恵の居場所を聞き出した鬼室集斯は、解放すると見せかけてその女性に背後から斬りかかったのでした。
怯えて立ち去ろうとする定恵に、私の父を殺した男の名を知りたくはないか、と鬼室集斯は問いかけます。逃げようとした定恵は、口から血を吐きます。先ほど鬼室集斯から渡されて飲んだ水には毒が入っていた、というわけです。血を吐いて倒れる定恵に、人をむやみに信じるものではない、そなたに罪はない、恨むなら我が父の仇である豊王(鎌足)の子として生まれたことを恨め、と言いながら、鬼室集斯が定恵を刀で突き刺す、というところで今回は終了です。
やはり、帰国後の定恵の動向は丁寧に描かれていますが、第55話から始まった定恵帰国編は次回で完結ということになりそうです。今年初めの時点で、定恵帰国編の完結にはこの後2~3話を要しそうだ(第57話か第58話にて完結)、と予想しましたが(関連記事)、私の予想より1話~2話多くなることになりそうです。定恵は騙されて毒を飲んでしまい、刀で体を突きぬかれてしまいましたから、さすがに助かることはなさそうで、このまま死ぬことになりそうです。
定恵は大海人皇子に匿われて生き延び、粟田真人として後半生を生きる、と私は以前から予想しており、かなり自信があったのですが、前回を読んで、定恵が生き延びるのか、それとも通説にしたがって若くして死ぬのか、可能性としては五分かな、と考えが変わりました。残念ながら私の予想は外れることになりそうで、定恵は通説にしたがって若くして死ぬのでしょうが、これが中大兄皇子・大海人皇子・鎌足の主要人物三人の関係、さらには鎌足のもう一人の息子の史や定恵を殺した鬼室集斯にどのような影響を与えるのか、注目されます。
鎌足は、愛息の定恵を救うのではなく、主君の中大兄皇子の「忠臣手足」となることを選択しました。鎌足にとって苦渋の決断だったでしょうが、必死に定恵を説得したにも関わらず、定恵が唐からの使節とともに唐に戻るのではなく、自分といることを選択した時点で、定恵が殺されることを覚悟していた、ということでしょうか。それとも、大海人皇子ならば定恵を守ってくれるだろう、と期待していたからでしょうか。鎌足の心境が今後作中で明かされるのか、定かではありませんが、もう中大兄皇子を裏切ることはできないにしても、大海人皇子ならばなんとかしてくれるだろう、というかすかな希望のもと、決断したのかな、と思います。
ただ、家族想いの鎌足だけに、愛息の定恵が殺されたとなると、心中の衝撃は大きいでしょう。今回、鎌足が中大兄皇子に向けた表情からは、不満や恨みが窺えるように思います。じっさいに定恵が中大兄皇子の指示(明示的ではないかもしれませんが)により殺されたとなると、鎌足も表面上は冷静に中大兄皇子へ忠誠を尽くし続けるでしょうが、中大兄皇子を妨害するような意図を秘めた行動に出るかもしれません。鎌足の娘二人(氷上娘・五百重娘)が大海人皇子の妻となっていること(鎌足は、大海人皇子の監視目的だと中大兄皇子に説明するのかもしれません)や、大海人皇子が酒宴で槍を板に突き刺し、天智帝(中大兄皇子)が激怒して大海人皇子を殺そうとしたところ、鎌足がとりなした、という有名な逸話も、そうした文脈で描かれるのかもしれません。
定恵の死が史に与える影響も気になるところです。史は定恵を慕っているようですから、定恵の死は大きな衝撃でしょう。史は聡明ですし、鬼室集斯が定恵を連れ出すところも見ていますから、そのうち定恵の死の真相を悟ることになりそうです。現時点では無邪気で聡明な史が、奈良時代初期には権勢を振るう悪相右大臣へと成長するわけで、史がなぜそのように成長していったのか、どうもよく分からないのですが、定恵の死や自分が両親と離れて暮らしていることの真相を知り、大人たちの醜い思惑(定恵を利用して中大兄皇子と鎌足を離間させようとしている大海人皇子も含めて)に気づいていき、次第に屈折しながら成長するのかもしれません。
鬼室集斯はわりと躊躇なく定恵を殺そうとしたように見えました。この点では、中大兄皇子の命で罠にかけた有間皇子にたいして罪悪感があったように見える蘇我赤兄とは異なるようです。もっとも、赤兄は個人的には有間皇子を恨んでおらず、むしろ同情的だったとしても不思議ではありませんでしたが。中大兄皇子の引立てなくして百済遺民の立場を維持・向上させるのは難しいだけに、鬼室集斯は必死になって中大兄皇子の期待に応えようとしている、ということなのかもしれませんが、それだけ父の仇を討ちたいとの想いが強いのかもしれません。
ただ、鬼室集斯にとって真の仇は鎌足(豊王)ですから、定恵を殺しても、鬼室集斯の鬱憤は完全には晴れないでしょう。そうすると、鎌足の死にも鬼室集斯は関わるのかもしれません。上述したように、今後鎌足が大海人皇子に接近するのだとしたら、中大兄皇子はもう鎌足を不要だとして、鬼室集斯に殺害を命じるのかもしれません。前回は間抜けなところも見せましたが、今回は有能さ・冷酷さを見せましたから、鬼室集斯は今後も重要な役割を担うのではないか、と思います。
前回予想されたように、中大兄皇子は鎌足を通じて隠れ里の場所を知ることになりました。大海人皇子には、たとえ攻撃されても撃退できる、という自信があったのかもしれませんが、子供を人質にとるという鬼室集斯の卑劣な手段により、あっさりと侵入を許してしまいます。おそらく、最終的には隠れ里の側が侵入者を撃退しているのでしょうが、定恵は(おそらく次回で)殺害されてしまうわけで、隠れ里の場所を知らせたことはやはり大海人皇子の失策というか、甘さであるように思います。この隠れ里が今後どうなるのかも気になるところです。おそらく、大海人皇子の出家から壬申の乱にかけて、重要な役割を担うだろう、と思うのですが。
今回、中大兄皇子が珍しく大海人皇子を訪ねたのは、上述したように、大海人皇子の動きを封じて、鬼室集斯による隠れ里の襲撃を間接的に援護しよう、という意図からなのでしょうが、中大兄皇子が言うように、国の今後について大海人皇子の意見も聞いておきたいという目的もあるのだろう、と思います。大海人皇子の声望は高まっており、すでに中大兄皇子も容易に手出しできない存在になっています。中大兄皇子には、人々から慕われている大海人皇子の意向と、自分の今後の政治方針への反応を探ろう、という意図があるのでしょう。
二人の会談が次回描かれるのか、分かりませんが、もし描かれるのだとしたら、すでに中大兄皇子が大海人皇子の前でそれとなく漏らしている、遷都計画について語られるのかもしれません。定恵帰国編が完結した後の大きな出来事となると、近江への遷都でしょうから、ここは割と丁寧に描かれそうな気がします。ただ、遷都の前に大田皇女は死ぬことになるので、その妹の鸕野讚良皇女(持統天皇)との関係も含めて、描いてもらいたいものです。ただ、大海人皇子との結婚後、大田皇女はあまり目立っていないので、重要人物という位置づけではないのかもれず、その死はほとんど描かれないのかもしれません。
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