山内太郎「ヒトとネアンデルタールの生活史と学習」

 西秋良宏編『ホモ・サピエンスと旧人2─考古学からみた学習』所収の論文です(関連記事)。本論文は、現代人の生活史に関する諸研究を参照しつつ、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の生活史を復元していこうとします。まずは現代人の生活史についてですが、以下の5期に区分されます。


●乳児期(infancy)
 誕生から2~3歳頃。母乳(もしくはその代替となる液体)で育ちます。現代人は生まれてすぐ急速に成長しますが、その成長(ここではおもに身長)速度はすぐ急激に低下します。

●子供期(childhood)
 2~3歳から6~7歳頃。離乳して、成長速度は低い状態で安定します。その終末期に成長速度が多少上昇します。脳の成長はこの段階でほぼ終了します。

●学童期(juvenile)
 6~7歳から12~13歳頃。成長速度は緩やかに低下していきます。社会学習が本格的に始まります。

●思春期(adolescent)
 12~13歳から17~18歳頃。成長速度が上昇し、二次性徴により性的に成熟していきます。この段階で行動が多様化していきます。

●成人期(mature adult)
 18歳以降。成熟し、もはやほとんど成長しません。


 こうした知見や、チンパンジー・化石人類の生活史に関する研究を踏まえて、本論文はネアンデルタール人の生活史を推測していきます。ネアンデルタール人はがっしりとした体格であり、その1日あたりの必要カロリー量は現代日本人の2倍程度になるのではないか、と推定されています。そこから本論文は、早く「一人前」にならないと集団の負担になるだろうからとして、ネアンデルタール人の子供の成長は現代人よりも速かったのではないか、と推測しています。ただ、ネアンデルタール人の化石資料からは、ネアンデルタール人の成長速度が現生人類(Homo sapiens)と比較して速かったとする見解と、同程度だったとする見解が提示されていることも指摘されています。

 本論文は、ネアンデルタール人の成長は現生人類よりも速かっただろうから、ネアンデルタール人の乳児期と子供期は短かったのではないか、との見解を提示しています。他の霊長類・化石人類と比較すると、アウストラロピテクス属からホモ属へと進化していくと、乳児期が短くなり、子供期と学童期が長くなって、成人に達する年齢が高くなる傾向にあります。ただ、化石人類については、あくまでも化石からの推測なので、どこまで妥当なのか、判断の難しいところです。

 これまでの研究では、エレクトス(Homo erectus)の後期段階でも思春期はなかった、と考えられています。ネアンデルタール人の生活史が後期エレクトスと現生人類のどちらに近いのか、推測の難しいところですが、本論文は、現生人類と比較した場合、ネアンデルタール人は乳児期と子供期が短く、思春期はあったとしても短くて、その分学童期はやや長かったかもしれない、との見解を提示しています。思春期に創造性が育まれることを考えると、ネアンデルタール人は現生人類と比較して学習期間が短く、創造性を育む機会も乏しかったため、学習能力・学習行動に差が生じ、「交替劇」につながったのではないか、との仮説を本論文は提示しています。


参考文献:
山内太郎(2014)「ヒトとネアンデルタールの生活史と学習」西秋良宏編『ホモ・サピエンスと旧人2─考古学からみた学習』(六一書房)P150-162

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