『天智と天武~新説・日本書紀~』第57話「兄弟邂逅」
『ビッグコミック』2015年2月10日号掲載分の感想です。今回も、前回に続いて掲載順序がよくないように思われます。もちろん、掲載順序と人気や編集部の評価の関係は各雑誌によって異なるのかもしれませんが、掲載順序が後ろの方の作品は、人気が低いと編集部が判断しているのではないか、と不安になります。人気が低迷すると打ち切りの可能性が高くなるので、本作を楽しみにしている一愛読者としてもたいへん不安になります。まあ、本作は再来月(2015年3月)末に単行本第7集が刊行予定で、次集で完結とも謳われていなかったので、当分は最終回「壬申の乱」のよう感じでいきなり打ち切りになることはなさそうですが。
単行本第7集には、来月(2015年2月)25日に発売予定の『ビッグコミック』2015年3月10日号掲載の第59話までが収録されることでしょう。本作と同じく楽しみにしていた『イリヤッド』の時は、単行本第14集に「人類史上最大の謎が、ついに明らかに!!次集堂々完結!!」とあり(関連記事)、連載完結が間近であることを知りました。『イリヤッド』はもっと続くと思っていたので、やや衝撃を受けたことを覚えています。本作の単行本第7集の広告ページに、「兄弟の愛憎劇、ついに決着!!次集堂々完結!!」というような文言がないことを願っています。
さて、今回の内容についてです。前回は、定恵(真人)が鬼室集斯に、話相手になってほしいと頼み、鬼室集斯が意味ありげな笑顔で応じるところで終了しました。今回はその続きで、楽しい時間はあっという間に過ぎる、夜も明けてくるではないか、と定恵は言います。どうやら、定恵と鬼室集斯は寺院(どこか不明なのですが、やや分かりにくい伽藍配置からすると飛鳥寺ではなさそうで、川原寺なのかもしれません)にて夜通し語り合っていたようです。定恵の発言から、劉徳高ら唐からの使節はすでに出港したことが分かります。この時点で665年(西暦は厳密な換算ではなく、1年単位での換算です)12月のようです。定恵は再度唐に渡るのではなく、倭に残ることを決意した、というわけです。
そこへ、顔を半ば隠した男たちが襲撃してきます。男たちは鬼室集斯を気絶させて放置し、続いて定恵を気絶させて連れ去ります。気絶した鬼室集斯に気づいた僧侶に起こされた鬼室集斯は、定恵がどうなったのか、その僧侶に慌てて尋ねますが、当然のことながらその僧侶も行方を知りません。鬼室集斯は中大兄皇子(天智帝)に、定恵の行方を見失ったことを報告します。その慌てている様子からすると、鬼室集斯は本気で定恵を殺すつもりだったようです。鬼室集斯から報告を受けた中大兄皇子は、大海人皇子(天武帝)の差し金だろう、と接します。鬼室集斯は二枚目枠だと思うのですが、わりと抜けたところのある人物として描かれることになりそうです。
定恵は、ある山里で目を覚まします。そこには大海人皇子がいました。手荒なことをして申し訳ない、と定恵に謝罪した大海人皇子は、定恵の命を守るために自分と縁のある山里(大海人皇子の父方祖父である蘇我毛人が造った隠れ里)に連れて来たのだ、と説明します。その説明に戸惑う定恵は、自分には命を狙われるようなことなどない、と言います。すると大海人皇子は、12年前にも定恵の命を守るために唐へ送るよう手配した、と説明します。
大海人皇子の説明を聞いた定恵は、自分の命を守るとはどういうことなのか、12年前も今も父の鎌足(豊璋)が自分を遠ざけることと何か関係があるのか、と大海人皇子に尋ねます。どうしても知りたいと言う定恵に、大海人皇子は説明を始めます。定恵の父親は鎌足ではなく今は亡き孝徳帝(大海人皇子の叔父)かもしれない、というわけです。孝徳帝は寵姫の小足媛を鎌足(当時は豊璋)に貸し与え、その後に小足媛は定恵を出産しました。
大海人皇子から真相を聞いた定恵は動揺を隠せず、自分は鎌足の子だ、と必死になって大海人皇子に訴えます。しかし大海人皇子は冷静に、問題はそこではなく、孝徳帝の子という可能性があるだけで、中大兄皇子にとっては皇位継承の敵となり得るわけだから、中大兄皇子に命を狙われるのだ、幼い頃から優秀だと評判だったのでなおさらだ、と指摘します。そのことを理解していた鎌足は、中大兄皇子に唯一対抗できる大海人皇子に助けを求め、裏切り者だと中大兄皇子に斬り捨てられる覚悟で定恵を救った、というわけです。
鎌足の親心に打たれた自分は12年前にそなたを唐へと逃したのだから、帰郷してはいけなかった、知らなかったとはいえ、父である鎌足の心を踏みにじっているのだ、と大海人皇子から聞かされた定恵は泣き崩れます。大海人皇子は定恵に、しばらくここで身を隠した後に唐に戻るか、定恵という名を捨てて飛鳥から遠く離れた山奥の寺に身を寄せるよう、勧めます。定恵がこの山里にいることを鎌足に伝えておく、と言って大海人皇子は立ち去ります。定恵は自分を守ろうとしてくれた父に感謝するとともに、もう父ではない、と言われたことに苦しんでいました。
そこへ、少年が食事を運んできます。定恵に名を問われた少年は、史(不比等)と答え、父は中臣鎌足・母は鏡王女で、故あって今は両親と暮らしていない、と説明します。史は第37話以来久々の登場となりますが、これまではすでに50代の奈良時代初期の場面と、幼児時代にしか登場していませんでしたから、少年の姿としてはこれが初登場となります。史は聡明で意志が強い感じの少年で、本作ではいかにもといった感じの二枚目枠です。この姿と、奈良時代初期の悪相右大臣の姿がどうも上手く結びつかないのですが・・・。権力を掌握していく過程で、人相が悪くなっていった、ということなのでしょうか。
自分に食事を持ってきてくれた少年が異母弟の史だと知り、定恵は涙を流して史を抱きしめます。定恵は、史は父の鎌足に生き写しだ、と言っていますが、あまり似ていないような気がします。50代の不比等(史)は、中大兄皇子・大海人皇子・蘇我入鹿たちと異なり、鎌足(豊璋)と同じく顎が尖っていないのですが、少年の史は顎が尖っています。これから成長して輪郭も変わってくる、ということなのかもしれません。史は鬼室集斯の息子だと言われたら、違和感はないのですが・・・。
この兄弟邂逅を離れた場所から見ていた隠れ里の統領は、里心がついて定恵は唐に戻らないのでは、と心配しますが、それでもかまわない、と大海人皇子は言います。とにかく、定恵は中大兄皇子と鎌足を困らせる存在でいてくれればよいのだ、というわけです。後で見張り番に鵲を送るので、警戒を怠らないように、と統領に指示して大海人皇子は立ち去ります。都に戻った大海人皇子は、鎌足に近づいて定恵を匿っていると伝え、隠れ里の位置を示した地図を渡し、鎌足が隠れ里に来たら会わせてやるように、と指示します。鎌足がどこまで中大兄皇子の「忠臣手足(中臣鎌足)」でいられるのか見ものだ、と大海人皇子が考え、鎌足がどうすべきか迷っている、というところで今回は終了です。
今回も定恵をめぐる周囲の人々の思惑が描かれました。初登場の時点で、定恵は重要な役割を担いそうだな、と予想したのですが、その予想以上に重要人物であるように思われます。「定恵編」の決着は次回ではなく次々回以降に持ち越しとなるかもしれません。定恵の御落胤説が採用され、中大兄皇子が疑い深い人物として、鎌足が冷酷な切れ者ではあるものの家族想いの人物として描かれてきたことによって、定恵をめぐる話は面白くなっているように思います。
今回、ついに定恵が父の真意を知ることになりました。大海人皇子から隠れ里の場所を知らされた鎌足が、定恵に会いに行くのか、次回を読んでみないと分かりませんが、鎌足は、定恵を逃がすとしても、自ら殺すにしても、定恵に会いに行くのではないかな、と思います。知らなかったとはいえ父の覚悟を決めた配慮を台無しになしてしまった、と定恵は後悔しているでしょうし、父を心から慕っていますから、父が自分を殺そうとしたら、それを受け入れるのではないか、と思います。
定恵は大海人皇子に匿われて生き延び、粟田真人として後半生を生きる、と私は以前から予想しており、かなり自信があったのですが、この流れからすると、定恵が生き延びるのか、それとも通説にしたがって若くして死ぬのか、可能性としては五分かな、という気がします。できれば、定恵には生き残ってもらって、8世紀最初の遣唐使(当時の国号は周ですが)の最高責任者(執節使)として唐で高く評価された様子もどこかで描かれるとよいな、と期待しています。
大海人皇子は鎌足に隠れ里の場所を知らせたようですが、鎌足と中大兄皇子との関係を悪化させるためとはいえ、中大兄皇子にも隠れ里の場所を知られるかもしれないということを考えると、失策のように思います。そもそも、大海人皇子が重要な手札とも言える隠れ里のことを中大兄皇子と鎌足に明かすという話自体が、どうも失敗だったのではないか思うのですが、今では大海人皇子の声望が高まったので、中大兄皇子といえども、隠れ里を襲撃することはできない、と大海人皇子は確信しているのでしょうか。
今回は、少年時代の史(不比等)が登場したことも注目されます。いかにもといった感じの二枚目に成長しそうな少年の史が、50代になって悪相右大臣になるとは、どうも信じがたいものがあります。鎌足が隠れ里に赴くとしたら、鎌足は史にも会うことになりそうです。史は、自分の両親のことや、理由があって今は両親と暮らせないことを知らされているようです。その理由をどこまで史が理解しているのか、定かではありませんが、少なくとも現時点では、あまり屈折した様子は窺えませんでした。
その史が、『日本書紀』編纂時には、大海人皇子の実父である蘇我入鹿を大悪人として描くよう、官人たちに命じるわけですから、これから先、大海人皇子と史との関係がどのように推移していくのか、ということも注目されます。史は天武朝での事績が伝わっていませんから、この後は何らかの理由で大海人皇子から冷遇されるのかもしれません。史が台頭して権力を掌握していく過程も、「未来パート」として時々挿入されるとよいのですが、史を重用しただろう鸕野讚良皇女(持統帝)が、作中では今のところどうも存在感が薄いので、この過程はほとんど描かれないかもしれません。
まあ、鸕野讚良皇女が今後作中で重要な役割を担う可能性もあるわけですが、中大兄皇子・大海人皇子兄弟の「喧嘩」を中心に、鎌足が第三の主人公として描かれるとなると、鸕野讚良皇女の出番はあまりないのかもしれません。むしろ、これまでの描写からして、鎌足没後は大友皇子の存在感が高まっていきそうな気もします。大友皇子は叔父の大海人皇子を慕っているようですし、大海人皇子も大友皇子を高く評価しています。また、作中では扱いの大きい額田王が大海人皇子との間に儲けた十市皇女は大友皇子の妻となります。
そうすると、鎌足没後は、中大兄皇子と大海人皇子との「宿命の兄弟喧嘩」におもに関わってくるのは、大友皇子・十市皇女・額田王になるのかもしれません。鸕野讚良皇女と、その同父同母姉で同じく大海人皇子の妻である大田皇女との間の、息子の将来をめぐる秘めた確執を設定したら、かなり面白くなりそうではありますが、中大兄皇子・大海人皇子・鎌足が主人公と言えるでしょうから、そこまでは描かれないでしょうか。大田皇女の息子の大津皇子が(母方祖父にして父方の伯父である)中大兄皇子に可愛がられた、という話も描かれると面白そうですが、本作ではどうなるでしょうか。
単行本第7集には、来月(2015年2月)25日に発売予定の『ビッグコミック』2015年3月10日号掲載の第59話までが収録されることでしょう。本作と同じく楽しみにしていた『イリヤッド』の時は、単行本第14集に「人類史上最大の謎が、ついに明らかに!!次集堂々完結!!」とあり(関連記事)、連載完結が間近であることを知りました。『イリヤッド』はもっと続くと思っていたので、やや衝撃を受けたことを覚えています。本作の単行本第7集の広告ページに、「兄弟の愛憎劇、ついに決着!!次集堂々完結!!」というような文言がないことを願っています。
さて、今回の内容についてです。前回は、定恵(真人)が鬼室集斯に、話相手になってほしいと頼み、鬼室集斯が意味ありげな笑顔で応じるところで終了しました。今回はその続きで、楽しい時間はあっという間に過ぎる、夜も明けてくるではないか、と定恵は言います。どうやら、定恵と鬼室集斯は寺院(どこか不明なのですが、やや分かりにくい伽藍配置からすると飛鳥寺ではなさそうで、川原寺なのかもしれません)にて夜通し語り合っていたようです。定恵の発言から、劉徳高ら唐からの使節はすでに出港したことが分かります。この時点で665年(西暦は厳密な換算ではなく、1年単位での換算です)12月のようです。定恵は再度唐に渡るのではなく、倭に残ることを決意した、というわけです。
そこへ、顔を半ば隠した男たちが襲撃してきます。男たちは鬼室集斯を気絶させて放置し、続いて定恵を気絶させて連れ去ります。気絶した鬼室集斯に気づいた僧侶に起こされた鬼室集斯は、定恵がどうなったのか、その僧侶に慌てて尋ねますが、当然のことながらその僧侶も行方を知りません。鬼室集斯は中大兄皇子(天智帝)に、定恵の行方を見失ったことを報告します。その慌てている様子からすると、鬼室集斯は本気で定恵を殺すつもりだったようです。鬼室集斯から報告を受けた中大兄皇子は、大海人皇子(天武帝)の差し金だろう、と接します。鬼室集斯は二枚目枠だと思うのですが、わりと抜けたところのある人物として描かれることになりそうです。
定恵は、ある山里で目を覚まします。そこには大海人皇子がいました。手荒なことをして申し訳ない、と定恵に謝罪した大海人皇子は、定恵の命を守るために自分と縁のある山里(大海人皇子の父方祖父である蘇我毛人が造った隠れ里)に連れて来たのだ、と説明します。その説明に戸惑う定恵は、自分には命を狙われるようなことなどない、と言います。すると大海人皇子は、12年前にも定恵の命を守るために唐へ送るよう手配した、と説明します。
大海人皇子の説明を聞いた定恵は、自分の命を守るとはどういうことなのか、12年前も今も父の鎌足(豊璋)が自分を遠ざけることと何か関係があるのか、と大海人皇子に尋ねます。どうしても知りたいと言う定恵に、大海人皇子は説明を始めます。定恵の父親は鎌足ではなく今は亡き孝徳帝(大海人皇子の叔父)かもしれない、というわけです。孝徳帝は寵姫の小足媛を鎌足(当時は豊璋)に貸し与え、その後に小足媛は定恵を出産しました。
大海人皇子から真相を聞いた定恵は動揺を隠せず、自分は鎌足の子だ、と必死になって大海人皇子に訴えます。しかし大海人皇子は冷静に、問題はそこではなく、孝徳帝の子という可能性があるだけで、中大兄皇子にとっては皇位継承の敵となり得るわけだから、中大兄皇子に命を狙われるのだ、幼い頃から優秀だと評判だったのでなおさらだ、と指摘します。そのことを理解していた鎌足は、中大兄皇子に唯一対抗できる大海人皇子に助けを求め、裏切り者だと中大兄皇子に斬り捨てられる覚悟で定恵を救った、というわけです。
鎌足の親心に打たれた自分は12年前にそなたを唐へと逃したのだから、帰郷してはいけなかった、知らなかったとはいえ、父である鎌足の心を踏みにじっているのだ、と大海人皇子から聞かされた定恵は泣き崩れます。大海人皇子は定恵に、しばらくここで身を隠した後に唐に戻るか、定恵という名を捨てて飛鳥から遠く離れた山奥の寺に身を寄せるよう、勧めます。定恵がこの山里にいることを鎌足に伝えておく、と言って大海人皇子は立ち去ります。定恵は自分を守ろうとしてくれた父に感謝するとともに、もう父ではない、と言われたことに苦しんでいました。
そこへ、少年が食事を運んできます。定恵に名を問われた少年は、史(不比等)と答え、父は中臣鎌足・母は鏡王女で、故あって今は両親と暮らしていない、と説明します。史は第37話以来久々の登場となりますが、これまではすでに50代の奈良時代初期の場面と、幼児時代にしか登場していませんでしたから、少年の姿としてはこれが初登場となります。史は聡明で意志が強い感じの少年で、本作ではいかにもといった感じの二枚目枠です。この姿と、奈良時代初期の悪相右大臣の姿がどうも上手く結びつかないのですが・・・。権力を掌握していく過程で、人相が悪くなっていった、ということなのでしょうか。
自分に食事を持ってきてくれた少年が異母弟の史だと知り、定恵は涙を流して史を抱きしめます。定恵は、史は父の鎌足に生き写しだ、と言っていますが、あまり似ていないような気がします。50代の不比等(史)は、中大兄皇子・大海人皇子・蘇我入鹿たちと異なり、鎌足(豊璋)と同じく顎が尖っていないのですが、少年の史は顎が尖っています。これから成長して輪郭も変わってくる、ということなのかもしれません。史は鬼室集斯の息子だと言われたら、違和感はないのですが・・・。
この兄弟邂逅を離れた場所から見ていた隠れ里の統領は、里心がついて定恵は唐に戻らないのでは、と心配しますが、それでもかまわない、と大海人皇子は言います。とにかく、定恵は中大兄皇子と鎌足を困らせる存在でいてくれればよいのだ、というわけです。後で見張り番に鵲を送るので、警戒を怠らないように、と統領に指示して大海人皇子は立ち去ります。都に戻った大海人皇子は、鎌足に近づいて定恵を匿っていると伝え、隠れ里の位置を示した地図を渡し、鎌足が隠れ里に来たら会わせてやるように、と指示します。鎌足がどこまで中大兄皇子の「忠臣手足(中臣鎌足)」でいられるのか見ものだ、と大海人皇子が考え、鎌足がどうすべきか迷っている、というところで今回は終了です。
今回も定恵をめぐる周囲の人々の思惑が描かれました。初登場の時点で、定恵は重要な役割を担いそうだな、と予想したのですが、その予想以上に重要人物であるように思われます。「定恵編」の決着は次回ではなく次々回以降に持ち越しとなるかもしれません。定恵の御落胤説が採用され、中大兄皇子が疑い深い人物として、鎌足が冷酷な切れ者ではあるものの家族想いの人物として描かれてきたことによって、定恵をめぐる話は面白くなっているように思います。
今回、ついに定恵が父の真意を知ることになりました。大海人皇子から隠れ里の場所を知らされた鎌足が、定恵に会いに行くのか、次回を読んでみないと分かりませんが、鎌足は、定恵を逃がすとしても、自ら殺すにしても、定恵に会いに行くのではないかな、と思います。知らなかったとはいえ父の覚悟を決めた配慮を台無しになしてしまった、と定恵は後悔しているでしょうし、父を心から慕っていますから、父が自分を殺そうとしたら、それを受け入れるのではないか、と思います。
定恵は大海人皇子に匿われて生き延び、粟田真人として後半生を生きる、と私は以前から予想しており、かなり自信があったのですが、この流れからすると、定恵が生き延びるのか、それとも通説にしたがって若くして死ぬのか、可能性としては五分かな、という気がします。できれば、定恵には生き残ってもらって、8世紀最初の遣唐使(当時の国号は周ですが)の最高責任者(執節使)として唐で高く評価された様子もどこかで描かれるとよいな、と期待しています。
大海人皇子は鎌足に隠れ里の場所を知らせたようですが、鎌足と中大兄皇子との関係を悪化させるためとはいえ、中大兄皇子にも隠れ里の場所を知られるかもしれないということを考えると、失策のように思います。そもそも、大海人皇子が重要な手札とも言える隠れ里のことを中大兄皇子と鎌足に明かすという話自体が、どうも失敗だったのではないか思うのですが、今では大海人皇子の声望が高まったので、中大兄皇子といえども、隠れ里を襲撃することはできない、と大海人皇子は確信しているのでしょうか。
今回は、少年時代の史(不比等)が登場したことも注目されます。いかにもといった感じの二枚目に成長しそうな少年の史が、50代になって悪相右大臣になるとは、どうも信じがたいものがあります。鎌足が隠れ里に赴くとしたら、鎌足は史にも会うことになりそうです。史は、自分の両親のことや、理由があって今は両親と暮らせないことを知らされているようです。その理由をどこまで史が理解しているのか、定かではありませんが、少なくとも現時点では、あまり屈折した様子は窺えませんでした。
その史が、『日本書紀』編纂時には、大海人皇子の実父である蘇我入鹿を大悪人として描くよう、官人たちに命じるわけですから、これから先、大海人皇子と史との関係がどのように推移していくのか、ということも注目されます。史は天武朝での事績が伝わっていませんから、この後は何らかの理由で大海人皇子から冷遇されるのかもしれません。史が台頭して権力を掌握していく過程も、「未来パート」として時々挿入されるとよいのですが、史を重用しただろう鸕野讚良皇女(持統帝)が、作中では今のところどうも存在感が薄いので、この過程はほとんど描かれないかもしれません。
まあ、鸕野讚良皇女が今後作中で重要な役割を担う可能性もあるわけですが、中大兄皇子・大海人皇子兄弟の「喧嘩」を中心に、鎌足が第三の主人公として描かれるとなると、鸕野讚良皇女の出番はあまりないのかもしれません。むしろ、これまでの描写からして、鎌足没後は大友皇子の存在感が高まっていきそうな気もします。大友皇子は叔父の大海人皇子を慕っているようですし、大海人皇子も大友皇子を高く評価しています。また、作中では扱いの大きい額田王が大海人皇子との間に儲けた十市皇女は大友皇子の妻となります。
そうすると、鎌足没後は、中大兄皇子と大海人皇子との「宿命の兄弟喧嘩」におもに関わってくるのは、大友皇子・十市皇女・額田王になるのかもしれません。鸕野讚良皇女と、その同父同母姉で同じく大海人皇子の妻である大田皇女との間の、息子の将来をめぐる秘めた確執を設定したら、かなり面白くなりそうではありますが、中大兄皇子・大海人皇子・鎌足が主人公と言えるでしょうから、そこまでは描かれないでしょうか。大田皇女の息子の大津皇子が(母方祖父にして父方の伯父である)中大兄皇子に可愛がられた、という話も描かれると面白そうですが、本作ではどうなるでしょうか。
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