Glenn Hodges「アメリカ大陸最初の人類」『ナショナルジオグラフィック』2015年1月号

 この記事はアメリカ大陸最初の人類に関する近年の研究成果を取り上げています。アメリカ大陸への人類最初の移住については、20世紀後半~近年までクローヴィス最古説が主流でした。しかし近年になって、アメリカ大陸におけるクローヴィス文化以前の人類の痕跡が相次いで報告されていることから、クローヴィス最古説を否定する研究者が増えつつあり、クローヴィス最古説はもはや否定された過去の仮説と言ってよいでしょう。この記事も、クローヴィス最古説を否定する近年の諸研究成果を取り上げています。

 この記事が比較的大きく取り上げているのは、メキシコのユカタン半島東部の地底湖で発見された15~16歳と推定される少女「ナイア」のほぼ完全に近い人骨です(関連記事)。ナイアの顔は、他の最初期のアメリカ大陸人と同じく、その後のアメリカ大陸先住民の顔とはあまり似ていませんでした。ただ、遺伝的には両者は類似していました。この記事は、最初期のアメリカ大陸人集団は危険を恐れずに未踏の地に進出する攻撃的な人々であり、その後に定住が進んでより穏和な社会を築いたことで選択圧が変わっていき、顔も変化していったのではないか、との見解を取り上げています。

 アメリカ大陸への人類最初の移住に関しては、近年の研究成果から、ユーラシア大陸の東アジア系集団とシベリア系集団がベーリング陸橋に進出してしばし留まり、遺伝的変異を蓄積した後に、海岸沿いに一気に南下して南アメリカ大陸南端まで進出したのではないか、との見解が提示されており、この記事でも取り上げられています。現時点での考古学的・遺伝学的証拠からは、その可能性が高いと言えそうです。アメリカ大陸への人類の最初期の移住は、私も大いに注目している問題なので、今後も研究動向をできるだけ追いかけていこう、と考えています。


参考文献:
Hodges G. (2015)、黒田眞知訳「アメリカ大陸最初の人類」『ナショナルジオグラフィック』2015年1月号P120-133

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