アフリカ人の遺伝的多様性

 アフリカ(この記事ではサハラ砂漠以南のアフリカを指します)人の遺伝的多様性とその医学への応用に関する研究(Gurdasani et al., 2015)が公表されました。医学との関連と今後の医療への応用は大いに注目されますが、私の知見は個人ブログで何か述べるにしても不足していますし、ざっと読んだだけなので、とりあえず私の関心のある分野に関係しそうなことを、簡潔に備忘録として残しておくことにします。

 この研究はアフリカゲノム多様性プロジェクト(AGVP)の一環で、サハラ砂漠以南のアフリカ全域から得られた1481人の高密度遺伝子型と320人の全ゲノム塩基配列のデータを用いて、マラリアや高血圧に関係する遺伝子座など、現在選択を受けている遺伝子座を新たに明らかにしています。アフリカは、現代では最も人間の遺伝的多様性の高い地域であり、人間の起源地とする見解が有力というか通説になっています。

 この研究で私が注目したのは、アフリカ人のゲノム多様性の研究から、アフリカの地域集団のなかに出アフリカを果たしたユーラシアの地域集団との交雑の痕跡が確認されたことです。アフリカ西部のヨルバ(Yoruba)人集団には、古代ユーラシア人集団との10500~7500年前頃の交雑の痕跡が認められます。これは、サハラ砂漠が湿潤で植生が豊かだった頃に、ユーラシアからアフリカへと「帰還した」集団が存在したことを示唆しています。その他には、エチオピアの集団ではもっと新しい3200~2400年前頃の、アフリカ東部の集団の一部では1500~150年前頃の交雑の痕跡が確認されています。

 また、ニジェール-コンゴ語族集団の遺伝的分化の分析は、アフリカ西部で5000~3000年前に始まったバンツー語族の拡大を示している、との指摘も注目されます。バンツー語族の拡大により、アフリカの採集狩猟民集団は大きな影響を受けたでしょうから、現代の(もしくは民族誌学的記録に残る)アフリカの採集狩猟民集団の社会構造を、更新世以前の採集狩猟民集団に当てはめることには慎重でなければならない、と思います。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


遺伝学:アフリカゲノム多様性プロジェクトが、アフリカの遺伝医学を具体化する

遺伝学:サハラ以南のアフリカにおける遺伝的多様性

 アフリカゲノム多様性プロジェクト(AGVP)では、アフリカの遺伝的疾患研究に重要な情報を提供すべく、アフリカ人のゲノム構造についてのデータを収集している。現在、サハラ以南アフリカ全域からの1481人の高密度遺伝子型と320人の全ゲノム塩基配列が得られている。これらのデータを用いてM Sandhuたちは、マラリアや高血圧に関係する遺伝子座など、現在選択を受けている遺伝子座を新たに明らかにした。彼らは、最新のインピュテーションパネル(参照用遺伝子型群で、研究で観察されない、あるいは欠失した遺伝子型を推測するのに使う)によって、サハラ以南アフリカのヒト集団間で高度に分化した遺伝子座についても、関連シグナルが明らかにできることを示した。また、全ゲノム塩基配列解読を使えば、インピュテーションの精度がより改善されることも実証した。さらに著者たちは、アフリカに広く見られる遺伝的変動を捉えられる、効率の良い遺伝子型アレイを初めて設計した。



参考文献:
Gurdasani D. et al.(2015): The African Genome Variation Project shapes medical genetics in Africa. Nature, 517, 7534, 327–332.
http://dx.doi.org/10.1038/nature13997

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