初期人類の石器製作と言語の発達

 初期人類の石器製作と言語の発達についての研究(Morgan et al., 2015)が報道されました。本論文は、実験考古学的方法を用いて、人類最初の石器文化であるオルドワン(オルドヴァイ文化)の石器製作と言語の発達との関係について検証しています。この研究には184人の大学生が参加し、5つの異なる伝達メカニズム(指導方法)により、6000点以上のオルドワン(Oldowan)石器を製作しました。そうして製作された石器は、質・量・効率(廃棄物の量)の点で評価が行なわれました。

 その結果、指導方法の改善により、石器製作の技量が向上することが明らかになりました。とくに効果が大きかったのは、言語を使用したさいでした。一方で、模倣による効果は小さいことも明らかになりました。オルドワンは260万~250万年前頃の出現以降、アシューリアン(アシュール文化)の出現まで停滞傾向にあった、と評価されています。アシューリアン(Acheulean)の出現は現時点では176万年前頃とされており(関連記事)、オルドワンは70万年以上停滞していた、ということになります。

 本論文は、オルドワンの担い手の人類集団は、オルドワン技術の継承のさいに言語ではなく模倣に依拠したために、オルドワンの長期の停滞が生じた可能性を指摘しています。本論文は逆に、アシューリアンの維持には、言語もしくは後の言語につながるような音や身振りを使う単純な意思伝達が必要だった可能性を示唆しています。アシューリアンの担い手はほぼ間違いなくエレクトス(Homo erectus)以降の確実なホモ属でしょうが、オルドワンの担い手には確実なホモ属以外の人類もいたでしょうから、なかなか興味深い見解だと思います。

 ただ、現代人の複雑な技術でも明示的な言語での伝達なしに継承されることもあるわけですから、アシューリアンの伝達・維持に言語やそれに類するものが必要だったかというと、疑問の残るところです。また、アシューリアンも前期と後期とでかなり変容が見られるとはいえ、長期にわたって停滞した技術と評価されることが多いので、その点でも、アシューリアンの伝達・維持に言語やそれに類するものが必要だったのか、疑問の残るところです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【進化】初期ヒト族の石器製作と言語の進化

 およそ250万年前に始まったオルドヴァイ式石器の製作が人間の言語と教え方の進化に影響を与えた可能性を示す論文が、今週掲載される。この論文では、初期ヒト族が石器製作に依存していた結果、より高度な知識伝達形式が進化によって選択されたことが示唆されている。

 石器作りに熟練していた初期ヒト族は、1個の岩石をハンマーストーン(石のハンマー)で叩くことで鋭利な破片を数多く作り出していた(石器製作)。こうした石器の遺物を見ると、石器の製作、保守と修理が系統的に行われていたことは明らかで、学習と訓練が行われていたことも示唆されている。しかしオルドヴァイ式石器の製作が人間の言語に影響を及ぼしたかどうかについては論争がある。オルドヴァイ技術は70万年以上停滞していたとされており、そのことが言語の存在と整合しないと考えられるためだ。

 今回、Natalie Uomini、Thomas Morgan、Kevin Lalandたちの研究グループは、実験的研究を行い、オルドヴァイ式石器の製作における5つの社会的学習メカニズムの能力を調べた。この研究には、合計184人が参加し、6000点以上の石器を製作した。それぞれの石器は、計量、計測され、品質評価も行われた。また、この研究チームは、情報伝達手段別に伝播率を調べた上で、指導方法の改善(特に言語の使用)に伴って石器作りの腕が上がったことを明らかにした。その一方で、まねや模倣によって伝播率が上昇することを示す証拠はほとんど得られなかった。Uominiたちは、オルドヴァイ式石器に対する依存によって「教えること」、そして究極的には言語に有利に働く選択が生じたとする人間の進化に関する学説が今回の研究によって裏付けられたという見解を示している。ただし、Uominiたちは、実験における学習期間を長くすると、伝達方法の能力が影響を受ける可能性も指摘している。

 さらにUominiたちは、オルドヴァイの技術が存続した理由として(認知機能の進化の他の側面に加えて)社会的伝達メカニズムが未発達だった点を挙げた上で、より高度なアシュール式石器が170万年前に登場したことは、高度な伝達方法(例えば祖語)の進化があったことを示しているとも指摘している。



参考文献:
Morgan TJH. et al.(2015): Experimental evidence for the co-evolution of hominin tool-making teaching and language. Nature Communications, 6, 6029.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms7029

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    Excerpt: これは2月23日分の記事として掲載しておきます。ホモ属の言語能力に関する見解が報道されました。これは、『言語はいかに始まったのか(未邦訳)』という昨年(2017年)11月に刊行された本(Amazon).. Weblog: 雑記帳 racked: 2018-02-20 22:09