衆院選結果

 議席・得票数が確定したので、今回の衆院選について取り上げます。各党の確定議席数は以下の通りで、()は公示前の議席数です。

自民党:291(293)
民主党:73(62)
維新の党:41(42)
公明党:35(31)
共産党:21(8)
次世代の党:2(19)
生活の党:2(5)
社民党:2(2)

 近年の国政選挙と同じく今回も、おおむね大手マスコミの直近の予想通りとなりました。ただ、自民党の議席数は予想の下限値に近く、維新の党の議席数は予想の上限値に近いというか、それをやや上回ることになりました。自民党が「伸び悩んだ」要因としては、大手マスコミの予想で自民党が300議席を上回りそうだと報じられたことにより、いわゆるアンダードッグ効果が働いた可能性が考えられます。

 ネットの「進歩的で良心的」な人々の間では、そもそも大手マスコミが議席数の予想を報じるべきなのか、などといった批判が目立ち、いわゆるバンドワゴン効果への警戒が強かったように思われます。しかし今回の結果を見ると、バンドワゴン効果よりもアンダードッグ効果の方が強かったのではないか、とも解釈できます。今回の投票率は、マスコミの予想通り、史上最低だった前回の59.32%を下回る52.66%(小選挙区、比例代表選では52.65%)となりました。単なる思いつきにすぎないのですが、バンドワゴン効果が強く働くとしたら高投票率の場合ではないか、と私は推測しています。

 総合的に見ていくと、前回の選挙から(日本維新の会から分裂した一方の)次世代の党とみんなの党(分裂して一方が日本維新の会と合流し、もう一方は解党)と日本未来の党(前回選挙後に分裂し、その一方の生活の党はさらに一部が民主党に復党)が激減・消滅し、その分、民主党・公明党・共産党が議席を増やしたこと以外は、勢力図に大きな変化はなかった、と言えそうです。

 維新の党はマスコミの直近の予想より多くの議席を獲得しましたが、民主党との選挙協力が有利に働いた、と言えるでしょう。しかし民主党の視点からは、維新の党に譲歩し過ぎたようにも思われます。そもそも民主党は、「野党共闘」という「美名・建前」があったとはいえ、準備不足のため野党第一党にしてはあまりにも候補者数が少なく、現行の選挙制度を考えたら大失態と言えるでしょう。この点で民主党は、自民党や共産党の非情というか清々しいまでの党利党略に徹した選挙戦略を少しは見習わなければならないでしょう。まあ確かに、小選挙区の議席数が多い現状で「野党共闘」への志向が強いのは、分からないでもありませんが。

 民主党のとくに右派は、維新の党(の一部)との合流を視野に入れているのでしょうが、かつての民主党のように反自民党層の受け皿として求心力の高い政党になれるのかというと、疑問も残ります。ただ、都市部に多い「改革」志向層を強く惹きつけることはできそうですから、一定以上の勢力を有することにはなるでしょう。もっとも、維新の党の近いうちの分裂は必至だとしても、民主党と維新の党との大規模な合流ができるのかというと、維新の党の側で鍵となるだろう江田憲司共同代表はあまりにも癖の強い人物ですから、予想の難しいところです。


 自民党は大手マスコミの直近の予想に反してわずかながら議席数を減らしましたが、小選挙区の定数が5議席減ったことを考慮すると、前回と比較して負けたとはとても言えないでしょう。少なくとも、安倍首相への求心力が弱まるような結果にはならなかったと思います。じっさい、自民党の比例代表選での得票率は33.11%となり、大勝した前回(2012年)の27.6%を上回りました。なお、自民党が大敗した前々回(2009年)の衆院選での比例代表選の得票率26.7%で、自民党が大勝した2005年の衆院選の比例代表選での得票率は38.2%です。

 こうして見ると、前回の衆院選で日本維新の会やみんなの党に流れた票の一部が、今回は自民党に流れたのかな、と思います。ただ、いわゆる郵政選挙の時と比較すると、自民党に「風が吹いた」とも言えない結果で、前回の衆院選と同じく、基本的には野党の魅力の乏しさ(第三極が分裂・解党で支持を失い、民主党への不信感も依然として根強いなど)と選挙準備の不足により、消極的に自民党に票が流れた、というところなのでしょう。

 それだけに、安倍政権や同様の政治的立場の政権が続いたとしても、退陣に追い込むことはきょくたんに難しい、とまでは考えていません。じっさい、沖縄県では全選挙区で自民党が敗退しています。とはいっても、自民党が大勝したことに変わりはないわけで、安倍政権が少なくとも再来年(2016年)の参院選まで続くだろうということを、不快でも重く受け止めねばならないでしょう。なぜ安倍政権の大勝を許してしまったのか、そもそも第二次安倍内閣の成立を阻止できなかった理由は何なのか、ということをこれまで以上に真剣に考えないといけない、と深く反省しています。

 安倍首相がこの時期に衆院を解散するのではないか、との憶測は、かなり早い段階からあったように思います。私も、昨年後半か今年初めにはどこかでそうした憶測を読んだ記憶があります。任期が間近での解散となると、2016年の参院選と近くなって公明党が嫌がり、2015年前半の解散となると、統一地方選と近くなりやはり公明党が嫌がるので、野党の選挙準備が整っておらず、内閣支持率の高いうちに解散するのではないか、というわけです。

 じっさい、そうした憶測通りに安倍首相は衆院を解散し、大勝したわけですが、この時期の解散ということは、安倍首相は来年(2015年)以降の日本経済の状況に自信がないのかな、と考えたくなります。深刻な金融危機があったとはいえ、まだ内閣支持率が高かった時に解散せず、けっきょく経済状況が劇的に好転しないまま衆院の任期近くまで引っ張って解散し、大敗してしまった麻生内閣の失敗をよく踏まえての決断だったのでしょう。

 そうした憶測はともかくとして、どうも安倍首相は昔から、本音では経済にはあまり関心がないというか、理想とする「国柄」への「回帰」を最優先と考えているように思われます。安倍首相にとって、経済政策はそのための手段にすぎないのではないか、と考えてしまいます。しかし、多くの有権者が消極的であれ自民党を支持した要因は経済政策への期待でしょうから、ここはともかく経済政策最優先で政権を運営してもらいたいものです。

 とはいっても、第二次安倍内閣の動向を見ていると、そのように楽観的にはとてもなれませんが。外交面では、せめて建前でも西側先進国の一員として振る舞い続けてもらいたいものですが(結局はそれが、日本にとって大きな脅威である中国への最も効果的な対抗手段になり得ると思うのですが)、安倍首相自身もその側近も、西側先進国の主流(建前)の価値観からはほど遠く(むしろ本質的には中国やロシアに近く)、それに無自覚であり、意図せず本音を吐き出すことが多いように思えるので、その点でもとても楽観視できません。

 安倍首相が改憲に本格的に動き出すのではないか、との憶測もあるようですが、今回の結果からは、自民党は公明党との密接な選挙協力なくしては大勝できないことが改めて明らかになったわけですから(私は創価学会を心底嫌っているので、公明党も嫌っているのですが、これだけの力を有しているわけですから、せめてもう少し安倍政権を牽制してくれないものか、とは思いますが)、改憲には着手できないだろう、と思います。民主党右派や維新の党と組んで改憲に動く、という想定もあり得ますが、安倍首相の「功績」とみなされそうな改憲に、民主党右派や維新の党が協力するかというと、疑問です。

 また、安倍首相は2016年に衆参同日選を行ない、自民党単独で衆院での2/3以上の議席を狙うのではないか、との憶測もあるようですが、公明党が強く反対するだろう衆参同日選を行なえるだけの求心力がその時点でも安倍政権にあるだろうかと考えると、懐疑的になります(安倍首相の健康問題も懸念材料となります)。経済状況次第ではありますが、この点では楽観的になれません。現在日本にとって幸いなことは、原油価格が下落している状況において、サウジアラビアなど一部の産油国がシェールオイル対策のため減産せず、原油価格が高騰していないことで、この円安下においてもし原油価格が上昇を始めたら、日本経済にとって大打撃になるのではないか、と懸念されます。


 この与党の圧勝について、魅力的な野党がない、との指摘はその通りですが、主権者たる国民が魅力的な野党というか自民党に対抗し得るような政党を育てることにどれだけ努力してきたのかというと、私も含めて多くの国民は我が身を恥じ入るのではないか、と思います。今さらの発言になりますが、高度経済成長以降の日本社会において、主導的に政権を獲得してある程度以上まともに運営できるだけの規模の社会民主主義の(当然のことながら、人権・自由という価値観を根底に置いた)政党は、絶対に必要だったと思います。そうした政党は日本史上存在しなかったわけで、それが日本社会を悪い方向に引っ張った、という側面は多分にあると思います。

 小選挙区制が導入された1990年代の「政治改革」も大問題で、選挙制度を根本的に見直すべきだろうと思いますし、それを強力に推進した小沢一郎氏(残念ながら、今回も当選してしまいました)などの政治家やマスコミ関係者や学者など(現在でも存命で「大物」として振る舞っている人が少なからずいるでしょう)を徹底的に批判することも必要でしょう。私は四半世紀にも及ぶ筋金入りのアンチ小沢ですが、最近この問題を考えていて、ますます小沢氏のことが嫌いになりました。1990年代の「政治改革」の根底にある保守二大政党制なる小沢氏たちの構想は本当にとんでもないものであり、小沢氏にたいしては、皮相的な揶揄・批判ではなく、一度根本的な批判が必要になるでしょう。

 私は小沢氏のことが本当に嫌いなので、ついでに過去の小沢氏の発言を蒸し返しますが、小沢氏の見識はろくでもないもので、首相にならなくて本当によかった、と改めて思います。まあ、小沢氏が責任を問われる首相の座を本気で狙っていたのか、怪しいところもありますが。小沢氏の不見識が露呈した発言としては、宗教に関するもの(関連記事)、歴史に関するもの(関連記事)、アメリカ合衆国に関するもの(関連記事)などがあります。

 歴史に関するものはさておくとしても、他の二つは、1986年の衆参同日選挙で圧勝した直後の、中曽根康弘首相(当事)の「知的水準発言」以上の大問題に発展しても不思議ではありませんでしたが、日本では大々的に報道されなかった、と記憶しています。まあ、小沢氏は民主党に合流して以降、党の要職は経験しても政府の要職は経験していませんから、そこで救われたかな、というところはあります。このような経緯からしても、小沢氏が「マスゴミ」とやらに敵視されていた、というような言説についても、そうした側面はあるとしても、どこまで妥当なのか、はなはだ疑わしいと思います。むしろ私のようなアンチ小沢も含めて、マスコミにより「小沢神話」が浸透していった、という側面の方が強いように思います。


 最近、共産党の近年の「躍進」について述べたので(関連記事)、最後にそのことにも触れておきます。共産党は大手マスコミの直近の予想通り「躍進」し、議席は倍増以上となりました。しかし、比例代表選での得票率は11.37%であり、2000年の11.23%をわずかに上回りましたが、1996年の13.08%には及びませんでした。今回の衆院選ではいわゆる第三極が不振で、民主党も復調したとはとても言えない状況であり、常に一定以上いると思われる反自民党層の投票者のうち、少なくとも2000年以降の衆院選よりは多い割合が(消極的だったろうとはいえ)共産党に流れ込んだと思われるのですが、それでも比例代表選での共産党の得票率は1996年の衆院選を下回りました。

 これは、共産党支持層では日本社会全体の傾向以上に高齢化が進み、共産党の「基礎体力」が20世紀末の頃と比較してずっと落ちているからなのでしょう。1998年の参院選比例区での共産党の得票率は15.66%でしたから、共産党の「基礎体力」が20世紀末程度でもあれば、今回の比例代表選でもそれ以上の得票率になっていた可能性もあるのではないか、と思います。共産党にとって「追い風」が吹いたと思われる今回でもこの結果なのですから、今後反自民党層にとって魅力的な政党が出現すれば、共産党は一気に前回(2012年)の衆院選以下に議席数を激減させてしまい、そのままゆっくりと衰退していくことでしょう。

 というか、そうならずに今後も共産党が衆院選で今回程度の議席数を維持していくのだとしたら、それは日本社会における政治文化の貧困を意味するわけで、日本社会にとってきわめて不幸なことと言えるでしょう。そう言いつつ、私は2010年の参院選・2011年の都知事選・2012年の衆院選と都知事選・2013年の都議選と参院選・今回の衆院選と、続けて共産党系候補(比例では共産党)に投票したのですが、さすがにこのままの状況ではまずい、とは思います。共産党が本格的な社会民主主義の政党の母胎となるべく本気で改革するのなら、今後も支持しようと思いますが、これまでの共産党の言動からは、残念ながら間違いなくそれは無理と言ってよいでしょう。

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  • 第48回衆院選結果

    Excerpt: これは10月27日分の記事として掲載しておきます。議席・得票数が確定したので、今回の衆院選について取り上げます。各党の確定議席数は以下の通りで、()は公示前の議席数です。 Weblog: 雑記帳 racked: 2017-10-25 09:45