石川日出志『シリーズ日本古代史1 農耕社会の成立』第3刷

 岩波新書(赤版)の一冊として、岩波書店より2010年12月に刊行されました。第1刷の刊行は2010年10月です。本書は、日本列島に人類が移住してきてから、弥生時代が終わって古墳時代が始まるところまでを対象としています。後期旧石器時代よりも前の日本列島における人類の痕跡については、まだ確実な証拠はないとして、存否の判断は保留されています。古墳時代は、定型的な大型前方後円墳の築造が始まってからとされています。

 本書の特徴は、旧石器時代から弥生時代にいたるまで、各地の多様性が強調されていることです。日本列島全体に広まっているような、画一的な縄文時代や弥生時代はなかった、というわけです。もっとも、すでによく知られていることではありますし、本書でもそれなりに分量が割かれていますが、北海道や沖縄に関しては弥生時代・古墳時代とは異なる考古学的な時代区分が採用されています。縄文時代について本書は、1万年間永続したと考えるのは適切ではなく、完新世の日本列島に現れた新たな生態環境に適応した諸地域文化を、緩やかに縄文文化とくくって理解すべきだ、と提言しています。

 縄文時代と弥生時代とを対照的なまったく異なる時代として区別せず、両者の連続性を強調しているのも、本書の特徴となっています。こうした観点は、近年の一般向け書籍でも強調されているように思います。地域的な多様性を強調する本書は、弥生時代の食資源についても、米作に偏重していたのではなく、多様な植物が利用されていたことを指摘しています。もちろん、水産資源も利用されていました。ここ10年ほど議論になっている弥生時代の開始年代については、じゅうらいの後期開始説(紀元前5世紀~紀元前4世紀頃)と新たに提示された早期開始説(紀元前10世紀頃)の中間と考えるのがよいのではないか、との見解が提示されています。

 弥生時代~古墳時代の移行についても、縄文時代~弥生時代の場合と同様に、連続的だったことが強調されています。定型的な前方後円墳には、北部九州や山陰など各地の要素が取り入れられていますが、本書を読んで改めて、吉備地方の重要性を認識しました。吉備地方では、古墳時代へとつながる重要な変化が、他地域よりもいち早く生じていたように思われます。本書は全体的に、新書の通史として過不足なく重要な点を取り上げているように思われます。基本的には考古学の研究成果に依拠する時代だけに、時代像の変動は他の時代より大きいかもしれませんが、まだ刊行されて5年も経過していませんから、一般向け通史としてお勧めだと思います。

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