Kate Wong「書き換えられた進化史」
『日経サイエンス』2014年12月号の特集「人類進化 今も続くドラマ」(関連記事)冒頭に掲載された解説です。20世紀末以降、人類進化史が大きく変わっていったことが簡潔に紹介されています。それをまとめると、以下のようになります。
(1)500万~400万年前頃とされていた人類の起源が、700万年前頃までさかのぼる可能性が出てきました。人類誕生の起源地も、有力視されていたアフリカ東部ではなかった可能性が議論されています。現時点では、最古の人類(候補の)化石となるサヘラントロプス=チャデンシス(Sahelanthropus tchadensis)は、アフリカ中央部で発見されています。
(2)初めてアフリカ外に進出した人類は異論の余地のないホモ属(エレクトスもしくはエルガスター以降)で、その年代は100万年前を少しさかのぼる頃とされていましたが、グルジアのドマニシ遺跡からは、180万年前頃の人類の痕跡が発見されました。しかも、発見された人類化石には、アウストラロピテクス属の原始的特徴とホモ属の派生的特徴とが混在していました。
(3)インドネシア領フローレス島のリアンブア洞窟の更新世後期~末期の層で2003年に発見された(公表は2004年)人骨群は、新たにホモ属の新種フロレシエンシス(Homo floresiensis)と分類されました。フロレシエンシスには原始的特徴が見られるので、(2)とも関連しますが、人類の出アフリカが200万年以上前までさかのぼる可能性も議論されています。
(4)象徴的思考が可能だった人類は現生人類(Homo sapiens)だけだとされていましたが、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)にもあったことを示す考古学的証拠が蓄積されてきました。
(5)現生人類とネアンデルタール人との間に交雑はなかった、とする見解が有力でしたが、現在では両者間の交雑の遺伝学的証拠が確認されています。さらに、現生人類が新たに発見された別系統のデニソワ人(遺伝学的に現生人類ともネアンデルタール人とも異なる系統の人類)とも交雑していたことが明らかになりました。そうした他系統の人類との交雑により、現生人類は免疫力を高めたり高地に適応できるようになったりしました。
この解説で最も注目されるのは、南アフリカ共和国のヨハネスブルグ近郊のライジングスター洞窟(Rising Star Cave)での発掘が取り上げられていることです。この解説が執筆された時点では、まだその研究成果が公表されていませんが、多数の個体の人骨が発見されたそうです。これらの人骨群がどれくらい重要なのか、現時点では不明のようですが、アウストラロピテクス=セディバ(Australopithecus sediba)のように、ホモ属の起源論争に関わる人骨群かもしれない、とのことです。ライジングスター洞窟の人骨群には、今後大いに注目しなければならないでしょう。
参考文献:
Wong K. (2014B)、『日経サイエンス』編集部訳「書き換えられた進化史」『日経サイエンス』2014年12月号P50-53
(1)500万~400万年前頃とされていた人類の起源が、700万年前頃までさかのぼる可能性が出てきました。人類誕生の起源地も、有力視されていたアフリカ東部ではなかった可能性が議論されています。現時点では、最古の人類(候補の)化石となるサヘラントロプス=チャデンシス(Sahelanthropus tchadensis)は、アフリカ中央部で発見されています。
(2)初めてアフリカ外に進出した人類は異論の余地のないホモ属(エレクトスもしくはエルガスター以降)で、その年代は100万年前を少しさかのぼる頃とされていましたが、グルジアのドマニシ遺跡からは、180万年前頃の人類の痕跡が発見されました。しかも、発見された人類化石には、アウストラロピテクス属の原始的特徴とホモ属の派生的特徴とが混在していました。
(3)インドネシア領フローレス島のリアンブア洞窟の更新世後期~末期の層で2003年に発見された(公表は2004年)人骨群は、新たにホモ属の新種フロレシエンシス(Homo floresiensis)と分類されました。フロレシエンシスには原始的特徴が見られるので、(2)とも関連しますが、人類の出アフリカが200万年以上前までさかのぼる可能性も議論されています。
(4)象徴的思考が可能だった人類は現生人類(Homo sapiens)だけだとされていましたが、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)にもあったことを示す考古学的証拠が蓄積されてきました。
(5)現生人類とネアンデルタール人との間に交雑はなかった、とする見解が有力でしたが、現在では両者間の交雑の遺伝学的証拠が確認されています。さらに、現生人類が新たに発見された別系統のデニソワ人(遺伝学的に現生人類ともネアンデルタール人とも異なる系統の人類)とも交雑していたことが明らかになりました。そうした他系統の人類との交雑により、現生人類は免疫力を高めたり高地に適応できるようになったりしました。
この解説で最も注目されるのは、南アフリカ共和国のヨハネスブルグ近郊のライジングスター洞窟(Rising Star Cave)での発掘が取り上げられていることです。この解説が執筆された時点では、まだその研究成果が公表されていませんが、多数の個体の人骨が発見されたそうです。これらの人骨群がどれくらい重要なのか、現時点では不明のようですが、アウストラロピテクス=セディバ(Australopithecus sediba)のように、ホモ属の起源論争に関わる人骨群かもしれない、とのことです。ライジングスター洞窟の人骨群には、今後大いに注目しなければならないでしょう。
参考文献:
Wong K. (2014B)、『日経サイエンス』編集部訳「書き換えられた進化史」『日経サイエンス』2014年12月号P50-53
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