武田善憲『ロシアの論理 復活した大国は何を目指すか』
中公新書の一冊として、中央公論新社から2010年8月に刊行されました。著者は(本書刊行時点では)現役の外務省の職員です。本書刊行時のロシアは、メドヴェージェフ大統領・プーチン首相という政治体制でした。現在では、大統領と首相が入れ替わっています。ソ連崩壊後の1990年代の低迷・混乱期を経て、21世紀になってロシアは大国として復活した、とよく言われるように思いますし、私もそのように考えています。
本書は、ロシアという国家がどのような論理(ゲームのルール)に基づいて運営されているのか、ということを明らかにしていきます。その論理が西側世界のそれとは異なるため、西側世界ではロシアを脅威・理解しがたい不気味な存在として敵視する傾向があります。しかし本書は、ロシアをそのように決めつけるのではなく、逆に友好的存在と決めてかかって出来るだけ好意的に把握するのでもなく、なるべく客観的に理解していこうとしています。
本書の提示するロシアのルールとは、国内の政治・経済的には「納税し、合法的にビジネスを行い、政治的野心を持たなければ自由に活動してかまわない」こととか、「個々の企業経営者たちを国家の戦略的利益に従わせつつ、ロシア経済を危機に強く再構築し、発展を導く」こととかいった不文律です。外交においては、勢力均衡の発想に基づく「多極主義世界の追及」が基本的な論理とされ、ロシアはその一極になるべきだ、と考えられています。また、旧ソ連地域を「勢力圏」と考え、他国との通常の外交関係とは異なる特殊な関係にある、と把握する傾向が強いことも特徴です。
このようにロシアの論理を読み解く本書は、ロシアは最高指導者により大きな方針が変わるような権威主義的体制の国ではなく、社会経済の発展を目標とする「普通の豊かな国」になろうとしている、との見通しを提示しています。本書は、西側世界からは異質に見え、独裁的・権威主義的・非民主的・人権と自由の抑圧などと批判されることの多いロシアの政治状況を以下のように把握しています。
プーチン大統領(1・2期)もメドヴェージェフ大統領(当時)も、エリツィン大統領(当時)のように職権を濫用したわけではなく、あくまでも法にしたがって職権を行使しています。プーチン大統領は、前任のエリツィン大統領とは異なり、自分が壮健であることや、メディアで政策上の諸課題に精通していることを示したことなどにより、大統領が政策決定の最高権力者であることをはっきりと示し、権威を確立していきました。これに、資源価格高騰による経済成長で(当初はエリート層から始まって)広範な人々にその恩恵が行きわたって人心が豊かさを求めての政争を好まなくなったことや、権威を求めるロシア社会の傾向もあって、一種の自制が人々の間に働き、西側世界からは「独裁」と見られるような政治状況が出現しました。
2014年の後半の現時点で、本書の諸見解が妥当であり今後も通用すると言えるのか否か、判断するのは時期尚早かもしれません。しかし、今年大きく動いたウクライナ情勢にしても、基本的には本書の枠内で説明できそうなことであり、少なくとも現時点では、本書が見通しを大きく誤ったとは言えないでしょう。また本書は、資源依存度の高さや人口構造や汚職問題などロシアの弱点も指摘しており、単純にロシアの明るい未来を提示しているわけでもありません。本書は少なくともしばらくの間は、一般層が現代ロシアを理解するうえで有益な一冊であり続けることでしょう。
本書は、ロシアという国家がどのような論理(ゲームのルール)に基づいて運営されているのか、ということを明らかにしていきます。その論理が西側世界のそれとは異なるため、西側世界ではロシアを脅威・理解しがたい不気味な存在として敵視する傾向があります。しかし本書は、ロシアをそのように決めつけるのではなく、逆に友好的存在と決めてかかって出来るだけ好意的に把握するのでもなく、なるべく客観的に理解していこうとしています。
本書の提示するロシアのルールとは、国内の政治・経済的には「納税し、合法的にビジネスを行い、政治的野心を持たなければ自由に活動してかまわない」こととか、「個々の企業経営者たちを国家の戦略的利益に従わせつつ、ロシア経済を危機に強く再構築し、発展を導く」こととかいった不文律です。外交においては、勢力均衡の発想に基づく「多極主義世界の追及」が基本的な論理とされ、ロシアはその一極になるべきだ、と考えられています。また、旧ソ連地域を「勢力圏」と考え、他国との通常の外交関係とは異なる特殊な関係にある、と把握する傾向が強いことも特徴です。
このようにロシアの論理を読み解く本書は、ロシアは最高指導者により大きな方針が変わるような権威主義的体制の国ではなく、社会経済の発展を目標とする「普通の豊かな国」になろうとしている、との見通しを提示しています。本書は、西側世界からは異質に見え、独裁的・権威主義的・非民主的・人権と自由の抑圧などと批判されることの多いロシアの政治状況を以下のように把握しています。
プーチン大統領(1・2期)もメドヴェージェフ大統領(当時)も、エリツィン大統領(当時)のように職権を濫用したわけではなく、あくまでも法にしたがって職権を行使しています。プーチン大統領は、前任のエリツィン大統領とは異なり、自分が壮健であることや、メディアで政策上の諸課題に精通していることを示したことなどにより、大統領が政策決定の最高権力者であることをはっきりと示し、権威を確立していきました。これに、資源価格高騰による経済成長で(当初はエリート層から始まって)広範な人々にその恩恵が行きわたって人心が豊かさを求めての政争を好まなくなったことや、権威を求めるロシア社会の傾向もあって、一種の自制が人々の間に働き、西側世界からは「独裁」と見られるような政治状況が出現しました。
2014年の後半の現時点で、本書の諸見解が妥当であり今後も通用すると言えるのか否か、判断するのは時期尚早かもしれません。しかし、今年大きく動いたウクライナ情勢にしても、基本的には本書の枠内で説明できそうなことであり、少なくとも現時点では、本書が見通しを大きく誤ったとは言えないでしょう。また本書は、資源依存度の高さや人口構造や汚職問題などロシアの弱点も指摘しており、単純にロシアの明るい未来を提示しているわけでもありません。本書は少なくともしばらくの間は、一般層が現代ロシアを理解するうえで有益な一冊であり続けることでしょう。
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