Blake Edgar「一夫一妻になったわけ」

 『日経サイエンス』2014年12月号の特集「人類進化 今も続くドラマ」(関連記事)第2部「我々はどこが違うのか」に掲載された解説です。記録に残る現生人類(Homo sapiens)社会では、おおむね一夫一妻が規範として守られています。もちろん、前近代の日本社会のように、一夫多妻など他の配偶形態が容認されている社会も存在します。しかし、前近代の日本社会もそうだったように、一夫多妻を容認するような社会でも一夫多妻は一部にのみ見られるものであり、多くの人々は一夫一妻を維持してきました。

 この解説は、一夫一妻の起源と、哺乳類では珍しい一夫一妻が選択された要因について、さまざまな学説を紹介しています。一夫一妻の起源を探るには、化石証拠に頼るしかありません。この場合、一夫一妻の指標となり得るのは、性的二形の強弱です。これが強いとゴリラのようにハーレム型の一夫多妻である可能性が高くなり、弱い場合は一夫一妻である可能性が高くなります。現生人類は、たとえば近縁種のゴリラと比較して性的二形はずっと弱くなっています。この観点からは、エレクトス(Homo erectus)と(現代人も含む)その子孫の系統は、一夫一妻だった可能性が高そうです。

 440万年前頃のラミダス(Ardipithecus ramidus)よりも前の人類も一夫一妻だったとする見解もありますが、ラミダスよりも後の(おそらくはラミダスの子孫系統の)390万~300万年前頃のアファレンシス(Australopithecus afarensis)に関しても、まだ現生人類よりも性的二形が強かった、との指摘もあり、ホモ属出現前の人類が一夫一妻だったのかそうではなかったのか、まだ共通認識は形成されていない、というのが現状のようです。性的二形をより精確に評価するにはもっと多くの人骨の発見が必要であり、現時点で結論を下すのは時期尚早のようです。

 一夫一妻がなぜ選択されたのかという問題に関しては、メスがまばらに分布していたからという説と、子殺しを回避するためという説と、父親による子の世話のためという説が取り上げられています。どれも弱点があるのですが、この解説では、父親による子の世話というか、母親以外の個体による子育てへの関与が、人類の生存・繁栄に重要な役割を果たした可能性が強調されています。一夫一妻だと夫は子の生物学的父親が自分だとより強く確信できるでしょうから、父方の親族も含めて、子育てに積極的に関与する、ということはあるかもしれません。


参考文献:
Edgar B. (2014)、『日経サイエンス』編集部訳「一夫一妻になったわけ」『日経サイエンス』2014年12月号P78-83

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