筒井清忠『敗者の日本史19 二・二六事件と青年将校』
『敗者の日本史』全20巻の第19巻として、2014年8月に吉川弘文館より刊行されました。本書は、現在の研究水準での一般向け解説を強く意識しているように思います。そのため本書は、二・二六事件の研究史にも言及しています。本書は、二・二六事件の背景として、日本社会の動向(第一次世界大戦後の不景気・関東大震災・昭和恐慌などによる農村の窮乏と格差の問題)や、それと関連しての軍部の動向(第一次世界大戦後の軍縮による軍人の動揺や、第一次世界大戦を実見した軍人たちを中心とした総力戦的な国家体制への志向や、軍内の派閥の変遷)や、社会変容に対応していこうとする、「昭和維新」構想に結びついていくような思想動向を解説していきます。本書はそのうえで、二・二六事件の様相とその影響について述べていっており、二・二六事件の一般向け書籍として手堅く有益な内容になっていると思います。
本書の特徴は、二・二六事件の中核となった青年将校の動機として「改造主義」と「天皇主義」という区分を提唱していることです。前者は北一輝の思想に強く影響を受けており、国内的にも国際的にも平準化を強く志向したことが特徴となっています。しかし、平準化とはいっても天皇の存在は大前提であり、一君万民を理想としたと言えるでしょう。そこでは、財閥・貴族(華族)・大政党が排撃の対象となります。後者は、「斬奸」により天皇周辺の「妖雲」を払えば(君側の奸の排除)、本来の「国体」が現れて自然によくなる、とする天皇中心の国体への素朴な信頼感を特徴とします。二・二六事件の中核となった青年将校は「改造主義」と「天皇主義」とその中間に区分されるのですが、青年将校各個人において、比重の差はあれども、「改造主義」と「天皇主義」が混在しており、相互に完全に排他的というわけではなかった、と本書は注意を喚起しています。
本書は二・二六事件の影響として、まず政治への影響力の増大を挙げています(テロ・クーデターへの懸念)。しかし、軍部の力を抑えられなかったことへの言い訳として、二・二六事件が利用された側面もあることも指摘されています。二・二六事件の社会的影響として指摘されているのが、社会の平準化という発想です。これは革新官僚や軍の一部に継承され、二・二六事件以降に本格化した統制経済(これは総力戦体制の構築を目的としたものであり、「改造主義」もそうですが、当時の多くの社会変革思想と整合的な側面があった、と言えるでしょう)下で組み込まれていくとともに、第二次世界大戦後の諸改革へもつながっていきます。
本書の特徴は、二・二六事件の中核となった青年将校の動機として「改造主義」と「天皇主義」という区分を提唱していることです。前者は北一輝の思想に強く影響を受けており、国内的にも国際的にも平準化を強く志向したことが特徴となっています。しかし、平準化とはいっても天皇の存在は大前提であり、一君万民を理想としたと言えるでしょう。そこでは、財閥・貴族(華族)・大政党が排撃の対象となります。後者は、「斬奸」により天皇周辺の「妖雲」を払えば(君側の奸の排除)、本来の「国体」が現れて自然によくなる、とする天皇中心の国体への素朴な信頼感を特徴とします。二・二六事件の中核となった青年将校は「改造主義」と「天皇主義」とその中間に区分されるのですが、青年将校各個人において、比重の差はあれども、「改造主義」と「天皇主義」が混在しており、相互に完全に排他的というわけではなかった、と本書は注意を喚起しています。
本書は二・二六事件の影響として、まず政治への影響力の増大を挙げています(テロ・クーデターへの懸念)。しかし、軍部の力を抑えられなかったことへの言い訳として、二・二六事件が利用された側面もあることも指摘されています。二・二六事件の社会的影響として指摘されているのが、社会の平準化という発想です。これは革新官僚や軍の一部に継承され、二・二六事件以降に本格化した統制経済(これは総力戦体制の構築を目的としたものであり、「改造主義」もそうですが、当時の多くの社会変革思想と整合的な側面があった、と言えるでしょう)下で組み込まれていくとともに、第二次世界大戦後の諸改革へもつながっていきます。
この記事へのコメント