ノルマンディー地方の20万年前頃の人骨
フランスのノルマンディー地方で発見された20万年前頃の人骨についての研究(Faivre et al., 2014)が報道されました。本論文は、ノルマンディー地方の「Tourville-la-Rivière」開地遺跡で発見された人骨の分析結果・測定年代を報告しています。この遺跡のD2層で発見された人骨は、同一個体の左腕の3本の長骨(上腕骨・橈骨・尺骨)です。D2層からは動物の骨も発見されており、年代が測定されました。人骨の年代測定はできませんでしたが、動物(ウマ属またはウシ属)の歯8個は年代測定に成功し、そのうち3個はウラン系列法・電子スピン共鳴法の両方を適用できました。その結果、本論文は人骨の年代を226000~183000年前と推定しています。これは、海洋酸素同位体ステージ(MIS)7の末期に相当します。
本論文は、北西ヨーロッパで発見されたこの時期の人骨がたいへん少ないことを指摘し、「Tourville-la-Rivière」開地遺跡の人骨の意義を強調しています。この時期の北西ヨーロッパの人骨は、北フランスの「Biache-Saint-Vaast」で発見された2個の部分的な頭蓋以外は、これまでドイツかイングランドでしか発見されていませんでした。本論文は、「Tourville-la-Rivière」開地遺跡の人骨は形態学・計量学的にはネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)系統の範囲に収まる、との見解を提示しています。ネアンデルタール人の祖先集団もしくは最初期のネアンデルタール人集団か、その近縁集団の個体だった、ということになるでしょう。この個体は、13~19歳もしくは成人だった、と推定されています。
この人骨で注目されるのは上腕骨の外傷(おそらく個体の生存にはほとんど関係していなかっただろう、と推測されています)で、靭帯が破裂した異常な隆起が見られます。これは、現代の投擲系の運動選手にも見られるものであり、反復的な投擲行動の痕跡だろう、と推測されています。ネアンデルタール人が投槍を用いていた、という確かな証拠はまだ発見されておらず、ほぼ間違いなく投槍を使用していた現生人類(Homo sapiens)との生存競争力の違いの一因になったのではないか、とも言われています。しかし、何を投げていたのかということやその効果も不明ですし、どこまで一般化できるかもまだ分かりませんが、日常的に投擲を行なっていたネアンデルタール人がいた可能性は高そうです。
このネアンデルタール人系統の人骨が発見されたのと同じ層からは、完成品・石核なども含めて石器群が発見されています。非ルヴァロワ式石刃も発見されていますが、11万~7万年前頃に北部ヨーロッパで見られる、上部旧石器のようなムステリアン石刃とは製作法が異なるそうです。注目されるのは、全体的にルヴァロワ式石核が欠けていることから、ルヴァロワ式石器は他の場所で作られて持ち込まれたのではないか、と本論文が推測していることです。これもどこまで一般化できるか分かりませんし、まだ不明瞭な点も多々ありますが、ネアンデルタール人の行動様式を解明する重要な手がかりになるかもしれません。
参考文献:
Faivre J-P, Maureille B, Bayle P, Crevecoeur I, Duval M, et al. (2014) Middle Pleistocene Human Remains from Tourville-la-Rivière (Normandy, France) and Their Archaeological Context. PLoS ONE 9(10): e104111.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0104111
本論文は、北西ヨーロッパで発見されたこの時期の人骨がたいへん少ないことを指摘し、「Tourville-la-Rivière」開地遺跡の人骨の意義を強調しています。この時期の北西ヨーロッパの人骨は、北フランスの「Biache-Saint-Vaast」で発見された2個の部分的な頭蓋以外は、これまでドイツかイングランドでしか発見されていませんでした。本論文は、「Tourville-la-Rivière」開地遺跡の人骨は形態学・計量学的にはネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)系統の範囲に収まる、との見解を提示しています。ネアンデルタール人の祖先集団もしくは最初期のネアンデルタール人集団か、その近縁集団の個体だった、ということになるでしょう。この個体は、13~19歳もしくは成人だった、と推定されています。
この人骨で注目されるのは上腕骨の外傷(おそらく個体の生存にはほとんど関係していなかっただろう、と推測されています)で、靭帯が破裂した異常な隆起が見られます。これは、現代の投擲系の運動選手にも見られるものであり、反復的な投擲行動の痕跡だろう、と推測されています。ネアンデルタール人が投槍を用いていた、という確かな証拠はまだ発見されておらず、ほぼ間違いなく投槍を使用していた現生人類(Homo sapiens)との生存競争力の違いの一因になったのではないか、とも言われています。しかし、何を投げていたのかということやその効果も不明ですし、どこまで一般化できるかもまだ分かりませんが、日常的に投擲を行なっていたネアンデルタール人がいた可能性は高そうです。
このネアンデルタール人系統の人骨が発見されたのと同じ層からは、完成品・石核なども含めて石器群が発見されています。非ルヴァロワ式石刃も発見されていますが、11万~7万年前頃に北部ヨーロッパで見られる、上部旧石器のようなムステリアン石刃とは製作法が異なるそうです。注目されるのは、全体的にルヴァロワ式石核が欠けていることから、ルヴァロワ式石器は他の場所で作られて持ち込まれたのではないか、と本論文が推測していることです。これもどこまで一般化できるか分かりませんし、まだ不明瞭な点も多々ありますが、ネアンデルタール人の行動様式を解明する重要な手がかりになるかもしれません。
参考文献:
Faivre J-P, Maureille B, Bayle P, Crevecoeur I, Duval M, et al. (2014) Middle Pleistocene Human Remains from Tourville-la-Rivière (Normandy, France) and Their Archaeological Context. PLoS ONE 9(10): e104111.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0104111
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